情報センサー

EY Japan SDGsセミナー「動き出す日本版洋上風力~事業者の視点と地域の視点」の開催

2020年4月30日 PDF
カテゴリー 業種別シリーズ

情報センサー2020年5月号 業種別シリーズ

電力・ガスセクター 公認会計士 齋藤克宏

20年以上の監査経験を有し、現在、大手電力会社の業務執行社員。電力システム改革に向けた財務数値シミュレーション業務や分社化プロジェクトに関与。日本公認会計士協会 電力業研究部会幹事。

Ⅰ はじめに

再生可能エネルギーの主力電源化を進めるわが国の政策の大きな一歩として、今般、海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドラインに基づき、すでに一定の準備段階に進んでいる区域のうち4区域を有望区域として、日本での洋上風力発電事業への取り組みが動きだしました。これまでになかった発電事業への取り組みでもあり、大きな可能性を秘める洋上風力発電事業に意欲的な事業者も増えています。そのような環境の中で、政策立案者である資源エネルギー庁をはじめ自治体関係者と事業者それぞれの立場からのお話をこのセミナーを通じて理解することができました。本稿では、そのセミナーを通じて得られた筆者の理解に基づき、洋上風力を取り巻く環境や制度について解説します。なお、文中の意見は筆者の個人的見解であることを申し添えます。

Ⅱ 新エネルギー拡大への取り組み

洋上風力政策においては、洋上風力発電事業を日本の新しいエネルギーの在り方、新しい産業として位置付けており、法律の運営に当たって四つの価値を同時に満たしていくことが大原則としてうたわれています。一つ目が競争等を通じた効率的な事業の実現、二つ目が地域・地元との共存共栄、三つ目が透明な選定プロセスの下での公平性・公正性、四つ目が事業の計画性、持続可能性とされています。これら四つの原則に従いながら、漁業の内容や景観など、各地の特性に応じた地域共存が実現できるような事業の在り方をまとめると同時に、新たな有望地域の選定についても進めていく考えが示されました。 (<図1>参照)

図1  再エネ海域利用法の概要

この新たな有望区域については、毎年1回、合計100万kW規模について区域指定がなされ、プロジェクトを継続して進めていくビジネス環境が作られると思われます。これは年に100万kWのペースで日本の洋上風力マーケットが拡大していくことを意味しており、その中でコスト削減が進むという良いサイクルが作られることが期待されます。
多くの再生可能エネルギー事業は、固定価格買取制度に支えられていることもあり、年に100万kWのペースで洋上風力発電事業のプロジェクトが増加すると、コスト削減がなければかなりの国民負担となることが予想されます。洋上風力発電事業を成長させ、持続可能なものとするには、コスト削減を行い、国民の理解を得て市場が広がっていくというサイクルを作る必要があると考えます。そのために国内でどのようなサプライチェーンを作り、ランニングコストを抑えていくのかが重要な課題になります。先行する欧州の事例では、洋上風力の場合、風車やそれを支えるタワー等の発電設備が沖合にあるため、総事業費に占める施工および撤去の工事費用やメンテナンスコストの割合が大きくなる傾向にあります。地域という視点では工事やメンテナンスに関わる地場産業の育成も重要ですが、同時にコストダウンがないと全体のコスト構造は変わりません。この地場産業の育成とコストダウンをどのように進めるかが大きな課題になると考えられます。もう一つの大きな課題は、残念ながら国内に風車を製造するメーカーがなくなっている現状では、海外メーカーの製造したものを導入する必要があります。その中で、日本のマーケットが海外の風車メーカーにとっても魅力的であることをアピールしながら、国内で風車をどう作っていくかということも課題であると考えます。プロジェクトを日本に呼び込む意味では、部品点数の多い風車を支える産業群が日本にあることが重要なポイントになると思います。視点を少し外に向けてみると、台湾などのアジアで風車の立地が進んでいく中で、欧州の企業も含め、風車の戦略拠点をアジアにどう置くかということが重要な検討課題になっています。その中で、価格を下げつつ、どのように稼ぐ力という意味で新しい産業として風車のサプライチェーンを日本に作っていくかということが、重要になると思われます。

Ⅲ 今後の再生可能エネルギー政策について

FIT法については、法律で規定された2020年度末の抜本見直し向けて、法改正も含めて検討が進められています(20年3月現在)。その前提となる状況として、18年度の再生可能エネルギー比率は16.9%と17年の16%から約1%増加しており、毎年約1%伸びている傾向がみてとれるものの、内訳をみるとかなりの濃淡があることが分かります。30年の再生可能エネルギー比率を22~24%とするエネルギーミックスの目標に対して、太陽光はすでに稼働案件で80%に達しており、認定量ではそれを超過している状況です。一方で、風力については1000万kWに対して導入量で380万kW、認定量で990万kWとなっています。地熱などは導入量、認定量も伸び悩んでいます。この状況をシンプルに分析すると、FIT法により太陽光は爆発的に普及し、価格もどんどん低下しているものの、他の電源にはそこまでの政策効果が出ていない状況と言えます。こと風力については、世界的にはコストが大きく下がっており、本来的にはもっと安く発電量を稼げる電源であるはずが、足元で毎年1GWほど認定されているものの、実際の導入はなかなか進んでいない状況と言えます。
このような電源種別の持つ特性により状況の差異が生じているということが今回の法律改正も含めた議論の出発点であり、大きく三つの問題について議論されています。一つ目は電源の特性に応じた制度構築、二つ目は太陽光を中心とした再生可能エネルギーの主力電源としての事業規律、三つ目は系統接続に関する問題です。まず、電源ごとの制度構築については、電源を「競争力のある電源」「地域で活用できる電源」の二つに分けることであり、具体的には、太陽光や潜在的な風力のような電源は「競争力ある電源」として市場の中で投資回収する普通の電源に移行させ、コストが下がっていない電源は、エネルギーの地産地消やレジリエンスの観点から地域に活用されるということ等を要件にFITの中で残していくことが考えられています。前者の「競争力ある電源」については市場で稼いでもらうことを前提にしつつ、市場価格では回収できない部分についてはプレミアムを上乗せするFIP(Feed In Premium)の仕組みにより投資インセンティブを確保することで一定の事業性を担保するものです。これにより、電気の価格、需給に応じた発電や蓄電池の活用など、新たなビジネスにつながることが期待されます。
また、系統接続に関する課題については、既存系統を活かして接続するコネクト&マネージの仕組みとともに、広域機関を中心に計画的なプッシュ型の系統整備とそれに伴う費用負担の在り方が検討されています。

Ⅳ おわりに

ここまで、日本においても動き出した洋上風力発電事業についての再生可能エネルギー政策の中での位置付けと再生可能エネルギー政策の制度見直しの背景について、筆者の見解に基づき説明してきました。
また、世界に目を転じれば、気候変動への対策の一つとしての温室効果ガスの削減と持続可能な経済的成長という文脈に通じるものの一つが再生可能エネルギーであると考えられます。その中でも、大きな可能性を秘めている洋上風力は、新たな産業の起爆剤となり得るという意味で大きな期待が寄せられています。再生可能エネルギーのポテンシャルや産業政策としての意義を含め、洋上風力発電事業は今後の日本のビジネス環境における大きな可能性を秘めたものであると筆者は考えています。

関連資料を表示

  • 「情報センサー2020年5月号 業種別シリーズ」をダウンロード

情報センサー2020年5月号

情報センサー

2020年5月号

※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。

 

詳しく見る