ブレイクダンスの女性選手たちはB-Girlと呼ばれていますが、その最高峰に立つ1人がAMIさんです。小学生の時にブレイクダンスと出会い、すっかり魅了され、踊りや技を競い合うバトルに出場するようになってからは、世界を舞台に活躍。一方で、現役の大学生でもあり、デュアルキャリアを実践しています。ブレイクダンスの魅力、そして将来の設計図についてお話をお聞きしました。
ブレイクダンスに魅せられて
――ブレイクダンスがパリ・オリンピックの正式競技になり、少々驚きました。
AMI:私も驚きました。自分が好きで続けてきたブレイクダンスの世界が、急に遠い世界だと思っていたオリンピックの正式競技に採用されたというのは、少し不思議な感じもしました。
――そもそも、AMIさんがブレイクダンスを始めたきっかけは何でしょうか。
AMI:もともとはヒップホップ・ダンスを習っていたんです。そのスクールでブレイクダンスのレッスンを受けてみた時に、「ウインドミル」というパワームーブ(※1)を見て、「カッコいい! 自分も挑戦したい」という気持ちが芽生えたことがきっかけです。難しい技で、なかなかできるようにならなかったのですが、その分できた時の達成感はものすごく大きかったです。中学生になると、住んでいる埼玉県から、上手な人がたくさん練習している神奈川県の溝の口まで練習に行くようになりました。
――中学生で埼玉から神奈川まで通うのは、大変ではありませんでしたか。
AMI:どうしてももっと上手になりたかったので。お母さんが車で送ってくれ、協力してくれました。溝の口では、集まっている人たちのレベルが高くて、小さな女の子が入ってきたからといって、歓迎してくれる雰囲気は全然なくて。怖かったですよ(笑)。みんなに認めてもらえるようにひたすら練習するしかありませんでした。
――そこまでのめりこんだブレイクダンスの世界の魅力は何だったのでしょうか。
AMI:技ができたときの喜びが基本にあります。それから、海外での出会いでしょうか。初めて大会に参加するためにオーストラリアへ行ったとき、「ブレイクダンスがあれば、世界の人とすぐにつながれるんだ」という発見があったのです。ブレイクダンスが好きな人たちが集まっていて、もう国境や国籍といった境界線のない世界でした。言葉は拙くとも、ブレイクダンスがあればコミュニケーションがすぐに取れるので、それが楽しくて。
ブレイクダンスは、男女が一緒に競い合うスポーツ
――ブレイクダンスでは男女が一緒に競う大会もありますね。
AMI:私が大会に出始めたころは、男女が一緒に出るのが普通でした。最近は「B-Boy」と「B-Girl」にカテゴリーが別れる大会が増えてきましたが、別々になったばかりの頃は、「ボーイズと戦いたい。倒したい」と思ったこともありました。でも、今はそれほど気にしていません。
――男女では、パフォーマンスもずいぶんと違うと思いますが、競技人口には差がありますか。
AMI:競技人口は男性の方が多いとは思います。ちゃんと数えたことはありませんが。でも、それぞれ持ち味が違っていて、それぞれに面白さがあります。男性はフィジカルが強いですから、私が子どもの頃に憧れたパワームーブで魅せることができます。女性はフットワーク(※2)や踊りのグルーブ感、柔らかさで魅了することができるのです。しかも、日本のB-Girlのレベルは非常に高いので、大会を見ていただければ、きっと魅力の違いに気づいてもらえると思います。
――AMIさん自身の持ち味やアピールポイントは、どのあたりにありますか。
AMI:踊る時に意識しているのは、「コンプリートする」、つまりやり切ることです。私はパワームーブであったり、フットワークであったり、いろいろな要素をバランスよく織り込んで、カッコよく踊りたい。その全てをコンプリートすることで、自分らしい演技を見せたい。そこがゴールです。
――コンプリートが1つのキーワードですね。
AMI:試合でコンプリートするためには、練習の段階から1つ1つの動きにこだわっていくことが大切です。きれいで、カッコいいと思ってもらえるフォームは、練習から意識していかないと完成しませんから。練習でできないことは、試合ではなかなか再現できません。
――バトルの映像を見ると、AMIさんのパフォーマンスは緩急自在で、本当に見飽きることがありません。一瞬止まるところなどは、もう最高です!
AMI:ありがとうございます!
世界チャンピオンとなる
――AMIさんは、2018年に世界最高峰と言われるブレイクダンスの大会、「Red Bull BC One World Final」で優勝しています。円形の舞台をファンがぐるりと取り囲んで、その舞台にふたりの選手が上がる。1対1で交互にダンスを披露して、対戦型で勝ち上がっていく。まさに決闘ですね。
AMI:対戦はしていますが、一緒の舞台で演技するからこそ、相手とすぐに「つながる」こともできるところが、ブレイクダンスの魅力だと思います。
――AMIさんは、2018年に世界最高峰と言われるブレイクダンスの大会、「Red Bull BC One World Final」で優勝しています。円形の舞台をファンがぐるりと取り囲んで、その舞台にふたりの選手が上がる。1対1で交互にダンスを披露して、対戦型で勝ち上がっていく。まさに決闘ですね。
AMI:対戦はしていますが、一緒の舞台で演技するからこそ、相手とすぐに「つながる」こともできるところが、ブレイクダンスの魅力だと思います。
――ジャッジの採点のポイントは、どのようなところでしょうか。
AMI:要素としてはパワー、技、スキル、音に乗れているかどうかがポイントです。演技が全体的にまとまっているかどうかも重要で、ジャッジそれぞれの見方があると思います。それにプラスして、服装やその人のシルエットも大事だと思っています。
――世界一になるということは、どのような気持ちなのでしょうか。
AMI:あの時は、優勝しようというよりも、1つ1つの試合に集中していたため、勝ち上がっていくたびに充実感がありました。決勝でも、自分としてはコンプリートできた=やり切った感があって、勝ち負けはもういいや、という思いでした。結果的に優勝できてホッとしましたし、自分が用意してきたことを全て披露できたのでハッピーでした。
大学生とプロのデュアルキャリア
――AMIさんは、プロ選手というだけでなく、大学生としての顔も持っています。
AMI:もともと、ブレイクダンスだけの生活になるのは嫌だな、と思っていたんです。高校生の時から大学進学を考えていて、試験の前は練習を休んで、勉強時間を確保したりしていました。生活のなかで、競技と勉強のバランスが大事だと感じていて。私にとって大学で過ごす時間もすごく大切ですし、練習も大事です。
――スイッチの切り替えが上手なのですね。
AMI:大学とブレイクダンス、両方の世界があることで、より集中力が高まっていると思います。ダンスだけに集中していたら、もっと練習時間を取れるのかもしれない。でも、私はきっとそれだけでは楽しくないだろうし、時間のありがたみも薄れるような気がしています。
――大学生とプロというデュアルキャリアを実践していることで、人生が充実している感じが伝わってきます。
AMI:私にとっては、両方やることが自然だったのです。大学では好きな授業を組み合わせて時間割も組めますし、刺激も多い。これまでも、早朝に遠征から帰国して、空港からそのままキャンパスに向かうこともありました。それすらも楽しいです。両方やっていることでの充実感というか。
――大学ではどのような勉強をしていますか。
AMI:高校時代から海外に行く機会もあって、初めは言語学を専攻しようと思っていました。でも、プロの活動のことを考えて、日程的に両立しやすい英米文学を専攻しました。結果的にそれが大正解でした。言葉だけでなく、文化的な背景を学べるので、私にはピッタリでした。
将来の設計図
――AMIさんが将来、どのようなアスリートになっていくのか、どのような道を選ぶのか楽しみです。将来設計を考えたりはしますか。
AMI:私はどちらかといえば、遠い先のことを考えるよりも、身近な目標に向けて動くタイプです。ブレイクダンスでは、次の大会にフォーカスすることが多いので、2024年のパリ・オリンピックについてもよく聞かれますが、まだ具体的にはイメージが湧いてきません。
――将来的な夢はありますか?
AMI:今は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、海外に行くこともできませんが、やっぱり私はいろいろな場所に行きたい。バックパッカーが理想です。そしてダンスを通じて、たくさんの人とつながりたいです。たとえ言葉が通じなくとも、B-girlであれば一緒に踊れて、すぐに仲良くなれます。新しい人たちと出会うことで刺激をもらえますし、自分も刺激を与えられる人間でありたい。それが将来的には、女性アスリートのビジネスネットワークにつながっていくかもしれませんし、自分はグローバルなマインドセットを持っていたいですね。
※1 頭や背中や手の平で回るアクロバティックな大技。ブレイクダンスの主要な4要素の1つ。
※2 屈んだ状態で脚さばきを見せる踊り。主要4要素の1つ。
インタビュアー:生島淳(スポーツジャーナリスト)
このインタビューは、2020年4月30日にオンライン上で実施しました。
※肩書・所属はインタビュー当時のものです。
サマリー
小学生の時にブレイクダンスと出会い、すっかり魅了されたAMIさん。踊りや技を競い合うバトルに出場するようになってからは、世界を舞台に活躍。一方で、現役の大学生でもあり、デュアルキャリアを実践しています。ブレイクダンスの魅力、そして将来の設計図についてお話をお聞きしました。