内閣府公益認定等委員会から公表された公益法人の会計に関する研究会「26年度報告」は、公益法人を運営する際に必要な事項が記載されています。わかりやすく、全8回に分けて読解していきます。
1. 収支相償の剰余金解消計画の1年延長について
財務三基準の一つ目に、収支相償があります。「適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない」(認定法第14条)を示したものが「収支相償」であり、事業年度単位で費用と収入がバランスすることを示すものであります。
(1) 現行の運用
収支相償は、原則として年度毎のバランスを求めているものでありますが、法人の運営上、偶発的な事象も起こり得るため、必ずしも単年度でバランスするとは限らず、剰余金が発生した場合には、発生した年度の翌事業年度に、剰余金解消のための対応策をとることで収支相償を満たすものと取り扱っています。具体的には、図1の「基本的考え方」の時間軸に示すような運用となっています。
現行のこのような運用に対して、法人関係者からは、解消計画を十分に検討する時間がなく、翌年度の予算への反映も困難であり、剰余金の有効活用が困難になるのではないか、というコメントや、単年度の状況だけでは事業の拡大等の判断が困難であるとの意見が寄せられています。
(2) 検討結果
法人に責任ある経営を求める観点から収支相償の剰余金を公益目的事業の拡大によって解消する場合については、適正な運用のため、一定の場合、以下の運用上の取扱いとし、より実効性の高いものとなりました。
(3) 具体的な運用方法
解消計画を十分に検討することができ、その内容を翌々年度の事業予算に反映するような運用上の取扱いが示されました。まず従来どおりの取扱いを①、②で示しています。加えて、①、②でより適切に費消することができないことについて特別な事情や合理的な理由がある場合には、ア~ウを前提条件として、③の取扱いを認めることとなりました。
- ①翌年度との2年間で収支が相償するように剰余金の使い道を説明する。
- ②事業拡大の達成可能性の観点から具体的、現実的な資金の使い道を説明する。
- ③翌年度における解消計画で適切に費消することができない特別の事情、合理的な理由がある場合(※)、剰余金解消計画を1年延長することを認める。
このような新たな運用により、剰余金の有効活用を検討するための時間が与えられました。また、剰余金発生年度の翌年度が赤字の場合、剰余金と相殺することが可能であることも記載されています。なお、③を適用する場合の前提条件は、以下のア~ウで示されています。
- ア.特別な事情や合理的な理由を示すこと。
検討のスケジュールを具体的に示すこと。 - イ.翌年度の事業計画で剰余金の解消計画を提出すること。
翌々年度で具体的資金の使途を説明すること。 - ウ.翌々年度の事業報告において、剰余金が解消されたか否かについて説明すること。
(下の図をクリックすると拡大します)
2. 剰余金の解消理由ついて
上記1では、収支相償で、発生した剰余金の解消理由として公益目的事業の拡大で説明する場合の具体的な運用方法を説明しました。この他にも剰余金の解消理由とならないかと課題となった項目が4つ挙げられており、これらが剰余金の解消理由になり得るかについて、以下の①~④の項目毎に検討されています。
① 公益目的保有財産として金融資産の取得
② 災害等に備える目的の特定費用準備金の積立て
③ 過去の赤字補てん
④ 公益目的保有財産を取り崩した場合の充当
検討の結果は以下のとおりです。
① 公益目的保有財産として金融資産の取得
公益目的保有財産として金融資産を保有して、この運用益を財源に事業を行うような財団法人では、事業拡大のため、一定額の金融資産を保有する計画が立案されることが予想されます。一方、剰余金が発生する度に、金融資産として積立てていくと、内部留保を無制限に積み増す結果に繋がる可能性もあり、収支相償や遊休財産規制を逸脱するおそれがあります。そのため金融資産の取得については、一定の取扱いを明示して、逸脱の可能性を排除し、剰余金の解消理由となり得るとされています。
一定の取扱いとは、金融資産を保有することの必要性と合理性についてア~エを確認することが必要になります。
- ア.金融資産を取得して業務を拡大する必要性が明確なこと。
検討のスケジュールを具体的に示すこと。 - イ.事業拡大の内容が具体的であり、機関決定等(理事会等の承認、決定)を受けていること。
翌々年度で具体的資金の使途を説明すること。 - ウ.金融資産の内容及び運用益の見込額が妥当であり、事業拡大の財源として合理的であること。
- エ.剰余金を用いることについて望ましい理由があること。
具体的に、業務の計画や事業の拡大がわかる予算を作成することにより示すものと考えます。剰余金を直ぐに公益目的事業費に投下することや、物理的に見える建物等の固定資産に投下せず、金融資産として保有することになるため、公益目的事業へ投下していることが明確であり、金融資産の積立が必要となる理由を説明することがポイントになると考えます。
② 災害等に備える目的の特定費用準備金の積立て
次に災害等の発生に備えて特定費用準備資金を積立てた場合に、特定費用準備資金の積立てが剰余金の解消理由となり得るかについては、災害救援等を事業として実施している法人においては、なり得るとの結論が示されています。すなわち、災害救援等を公益目的事業として定款に位置付けている法人は、緊急支援に備えるため過去の実績等から合理的に見積もれることが予想され、特定費用準備資金の要件を満たすことから、解消理由となり得るということです。一方、当該事業を定款で位置づけていない法人は、災害時の活動をいつ実施するか等、一般的に見積もりが困難であるため特定費用準備資金の要件を満たさないと解されているため解消理由とはならないとの結論です。
このほか災害等に関連して、公益法人からの要望が災害等に備えて何等かの積立を保有したいという趣旨に応えている記載もあります。具体的には、遊休財産規制への対応で、法人の施設、事務所等の復旧、復興に充てるために積み立てる資金を合理的に見積もり、公益目的事業に必要な活動の用に供する財産(認定法施行規則第22条第3項第2号)として特定資産とする場合には、剰余金の解消理由にはならないですが、控除対象財産として位置づけられます。
③ 過去の赤字補てん
次に剰余金の解消理由として、過去の年度で発生した赤字を補てんするために充当することが、なり得るかということについてです。
認定法の考え方に従うと剰余金の解消理由としては、将来に向かって公益目的事業活動に投資する説明が必要であると記載されています。そのため、過去の赤字補てんは、将来に向けての投資ではないと考えられるため、解消理由とはなりません。
④ 公益目的保有財産を取り崩した場合の充当
次に過去の年度で発生した公益目的保有財産の取り崩しを、剰余金で充当することは、剰余金の解消理由になり得るかについて、上記③と同様の理由からなり得ないとの結論です。
以上③④の事項は解消理由とならない場合として挙げられていますが、ご参考まで他に剰余金の解消理由となり得る可能性のある事項を紹介いたします。
まず、赤字補てんに関連する理由として、過去ではなく、将来の赤字補てんが必要なケースとして、将来の収支変動が予想され、事業実施により赤字が予想される場合には、特定費用準備資金の要件を満たす限り、赤字に備えることをもって剰余金の解消理由として説明することは可能と考えます。また、④に関連する理由として、公益目的保有財産の積立についても、過去に取り崩したものへの充当という理由ではなく、将来に向けて増やす計画という方向性で説明ができる場合には、剰余金の解消理由となり得るのではないかと考えます。