第1章
「操業許可」(LTO)は2年連続でリスクの第1位にランクイン
社会的責任やステークホルダーからの幅広い要求が高まる中、操業許可とディスラプションが本年度のリスクのトップになっています。
操業許可は本年度も第1位となり、回答企業1の44%が最優先事項に挙げています。選挙期間の長期化やその結果生じる政権交代は政治的環境に不確実性をもたらし、その結果、コモディティ市場で価格変動が起きました。さらに、鉱業・金属セクターは、透明性ある倫理的なサプライチェーンやカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)の削減を求める最終顧客から、一層厳しい視線を浴びています。株主であるアクティビストも、とりわけ石炭資産を持つ鉱山事業者に対し、既存業務の見直しやダイベストメントによってポートフォリオを再形成するよう促しています。
第2章
労働者の未来は、昨年度の第7位から第2位に上昇
鉱業における生産性、安全性、環境マネジメントはデジタルや技術のイノベーションによって改善できる余地があります。
企業はこれからの労働力について、その将来像を把握し、スキルある人材をどう確保するか、採用するか育成するかを判断しようとしています。デジタル・データ関連スキルの市場は競争が激しく、また、鉱業セクターは他のセクターに比べるとブランドイメージが高くないため、スキルを備えた人材を確保することはより困難かもしれません。
検討事項:
- 育成、雇用や外注など、全社レベルで適切なスキルや能力を獲得する方法。
- 離職による負の影響を最小限にするためにシニア職員を定着させる方法。
- 説得力ある従業員への提供価値を示すことができるか。
- デジタル時代にチームを管理できるスキルを備えた将来のリーダーをどのように確保するか。
- 労働者を将来に備えさせるために取るべきクリエイティブな戦略。
- 業界としてベストプラクティスに取り組むにはベンチマークを検討すべきか。
第3章
デジタルは依然として上位3位内に
デジタルの効果的な活用は、鉱山事業者のリスク・機会の上位3位にとどまっており、トップマネジメント層の経営課題に挙がり続けています。
テクノロジーの活用は日常業務に不可欠なものとなりましたが、これを有効に実用化できている企業はどの程度あるでしょうか。今やデジタルはリスクではなく好機です。データの価値を最大限に引き出すために、いかに適切に管理するかが鉱山事業者の課題となります。
本年度、新たにランクインした4つのリスクは、カーボンフットプリントの削減、インパクトの大きなリスク、埋蔵量の確保、イノベーションです。
第4章
鉱山事業者には炭素排出とエネルギー使用の削減という圧力がかかっている
現在、低炭素経済への移行が進められています。またその移行を加速化させようとする圧力は日々増大しています。
大手鉱業企業は今、炭素排出量を削減することの重要性を認識しています。
最小化戦略
- 再生可能エネルギー
- 鉱山の電化
- スコープ3排出量の重視
クリーンエネルギーへの転換は、鉱物資源の需要を増大させ、鉱業企業に大きな機会をもたらすと予想されています。リチウム、コバルト、銅、アルミニウム、ニッケルを含む多くの鉱物に、大きな機会があります。
第5章
従来型のリスクマトリクスは今日の鉱業企業でも有用か
多くの鉱業企業は重大なリスクを明確化できており、またビジネスにおいて明らかな頻発するリスクを管理できています。
従来のリスクマトリクス
しかしながら、こういった重大リスクは、何年間も同じ「フォーマット」のままリスクとして認識され続ける傾向にあります。
例えば、以下のような極端な状況が生じた場合に備え、企業は自身のポートフォリオを評価しておく必要があります:
- エネルギーが無料化された場合、銅の需要への影響
- プラスチックなどの先端材料の組成に技術的な革新があった場合に考えられる金属需要への影響
第6章
鉱山事業者はどうすれば利益率を最大化できるかをより広い視野で考える必要がある
長期的な目標は利益率のボラティリティを減少させると同時に資本利益率を高めることです。
鉱山事業者はどうすれば利益率を最大化できるかをより広い視野で考え、従来とは根本的に異なる新たなアプローチを見つける必要があります。加えて、鉱業企業は、自身のリスク選考を再度評価し、資本配分に対して現状に満足した保守的なアプローチを取ることによって新たな好機を逃していないか、確認すべきです。
検討領域:
- 資金拠出の変化
- ポートフォリオの見直し
- ジョイントベンチャー
第7章
データはコスト削減を図りながらパフォーマンスを向上させる鍵に
データを活用することで意思決定が自動化され、バリューチェーン全体における損失を最小限に抑えることができます。
通常業務の一部にデジタルが組み込まれるようになり、デジタルに起因する脅威の攻撃対象は指数関数的に増えています。その主な原因は、インフォメーションテクノロジー(IT)/オペレーショナルテクノロジーのコンバージェンス、IoTセンサー、データアナリティクス、そして最適化AIです。
サイバーセキュリティの変革はどのようなものであれ、文化、ガバナンス、能力にまたがる以下の3大原則を促進することが必要です。
- セキュリティの基本事項への精通
- 強力なガバナンス・プログラム、説明責任の文化
- 継続的改善
第8章
今後10~15年の間に深刻な供給不足が生じる可能性がある
鉱山事業者が新たなデジタルテクノロジー獲得を模索する動きの中で、探鉱技術は既に大きな進歩を遂げています。
世界規模での成長と、新興国などの新世界におけるインフラ需要により、鉱物資源に対する需要が今後高まっていくと考えられます。このような将来に対し、探鉱予算の削減や大規模鉱区の発見減少、既存鉱床の品位低下が特に懸念されています。
探鉱への支出額も著しく低下しており、直近2年間で若干の回復はみられたものの、探鉱予算の水準はいまだ2012年当時の半分で推移しています2。
鉱物資源供給にかかる成長戦略:
- 資本調達
- 既存プロジェクトまたは鉱山の買収
- 新たな鉱物資源の発見、既存鉱物資源からのさらなる価値抽出を目的としたイノベーションの強化
第9章
イノベーションには現状の打破が必要
イノベーションは、鉱業セクターに大きな変化をもたらす可能性があります。
鉱業企業の中には、生き残るためにイノベーションが必要な企業もあれば、変化の激しい現在の環境で成功し、さらに資本利益率を上げるためにイノベーションを受け入れようとしている企業もあります。いずれにしても間違いなく明確な認識とは、業務遂行の方法を再検討しイノベーションに備えることで、大幅な生産性向上が可能となるということです。
イノベーションは、次に示す鉱業セクターの主要な構造的課題に大きな変化をもたらす可能性があります。
- 鉱石グレードの低下
- 遠隔で採鉱困難な場所での採掘量の増加
- エネルギーやインフラに対するアクセスおよびコスト
- 事業運営の複雑化
- 水管理の改善
第10章
鉱業における問題の複雑さが増すにつれ、コスト上昇が引き続きランクイン
コスト削減は持続可能なものでなくてはならず、生産性について厳しい目を向け続けることが、コスト上昇の影響をうまくコントロールすることにつながります。
オートメーションやデータ利用について習熟度を増すことで、生産性が高まりトンあたりの生産コストが削減されることで、大規模な採掘作業においては大きな利益が生まれることが分かっています。
企業はリスクにどのように対応すべきか?
- 持続可能なコスト削減プログラムへの注力
- イノベーションやパートナーシップを推進した、より長期間のコスト削減の促進
- ノンコア資産の売却
- 予備剝土作業、先行開発や備蓄品レベルの見直し
- 契約採鉱の利用と売却ないしリースバックとの比較検討
- サプライヤーやサービス契約の見直し
- アウトソース
- 戦略的な合弁プロジェクトによるスケールメリットの最適化
- 支援部署のコスト削減:バックオフィスのオートメーション化
サマリー
デジタルトランスフォーメーションと並行して社会的責任やステークホルダーからの幅広い要求が高まる中、引き続き、操業許可とディスラプションが本年度のリスクのテーマとなっています。