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デジタル脅威論に物申す

第4回(最終回) デジタル技術を取り込んで如何に「三方善し」を実現するか

2017.06.14
新日本有限責任監査法人 シニア・インダストリー・アナリスト 城 浩明

さて、労働者にとっては、デジタル技術によって実現するサイバーフィジカルシステムや、インダストリー4.0が具体化する社会は、効率化を突き詰め、作業時間を厳密に管理される「労働強化」が求められ、働きにくい「ブラック」な世界、あるいは機械や情報に働かされるチャップリン演じる「モダンタイムス」の世界なのでしょうか。

そうではない事を祈念しています。例えば、トヨタ生産方式における「カイゼン」においても、それは継続して行う効率化の運動と考えられています。単に、「作業者が働いていない時間を抽出し、それを取り除く」のであれば、それは単に労働強化に過ぎません。トヨタ生産方式における「カイゼン」では、その時間を短縮する方法を「現場のQC活動」などで考え、作業の手順を変更するほか、上長が各部門と折衝することで設計を変更し、部品の設計を変更し、ラインの配置を修正し、部品の納入タイミングを適正化することなど、様々な方法で、より良い方法を模索し、可視化します。

単なる作業時間の圧縮や、ムダ時間の排除だけでは、それは1回限りの改善となり、長期の「カイゼン」活動にならないことが解っているのです。前述の藤本教授によれば、生産性を向上させる「現場力」は、現場の多面性に依存しているとのこと。すなわち、製造業の現場は「企業」の一部分として利益を上げることが求められていると同時に、「産業」のサプライチェーンの一部として付加価値を付けて製品を供給することが求められ、「社会」の一部として雇用を維持することが求められているとのこと。効率化の結果を企業が利益として独り占めして、余剰となった社会的存在である作業者を削減するようなことがあれば、「現場」は成り立たなくなり、そもそも改善のモチベーションが高まるわけがないとのこと。すなわち、改善した結果、成果を出した人員が削減されるのであれば、誰も効率化に取り組まないということです。

逆に、現場が効率を改善して時間の余裕が生じるようになりそうな場合、それの時間を有効に活用するための仕事を獲得してくる「企業」、その改善に報いて新たな仕事を提供する「産業」があって、人的資源を供給する地域の「社会」とともに三位一体となって「三方善し」の関係を構築することになり、「現場」の「カイゼン」が進むのです。

こうした関係は、日本の製造業あるいは製造業に限らず「現場」の強さとして再認識すべきであるとのことです。特に、サイバーフィジカルシステムが導入され、分析やソリューションが仮想世界で構築されるとしても、それらを現実のハードウエアとして具体化するのは、ものづくりをしている「現場」であることは変わっていません。ものづくりに3Dプリンタが導入されようとも、全てのハードウエアの製造が、無人の工場で行われるものでもありません。むしろ、そうしたカイゼンにむけた「可視化」のツールとして、IoTやサイバーフィジカルシステム、蓄積されたビッグデータとそれを分析するための人工知能などが有機的に連携することが不可欠です。その意味でも、「現場」の生産性の向上と、デジタル技術、サイバーフィジカルシステムは相反する考え方、あるいは方法論ではありません。

第2回で紹介したように、インダストリー4.0という考え方が、ものづくりにおけるサプライチェーンやバリューチェーンにおける情報共有の範囲の拡大、消費者や原材料の供給者までを含めた、より広範な全体最適を求めるものであるとするならば、デジタル技術と伝統的なモノづくりの「現場」とは相互補完的な役割を持っていると考えられるのです。従って、「現場」はデジタル技術を脅威と考えるのではなく、有効活用していくことで発展的に効率化すると考えられます。


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