刊行物
情報センサー2014年4月号 マーケットトレンド

「ハイプ・サイクル」が示す、
険しき技術イノベーションへの道

マーケッツ本部 東大野恵美
通信事業者など企業の情報システム部門において業務システムの企画開発に10年以上従事。2007年当法人入所。現在マーケッツ本部にて、テレコム、テクノロジーを中心に経済・産業動向および企業の調査分析を担当。情報処理技術者ITストラテジスト、PMP、CISA。

Ⅰ はじめに

米国のITアドバイザリー企業ガートナーが毎年発表している「ハイプ・サイクル」は、次々登場する新技術が広く紹介され普及していく過程を複数の段階に分けて示したものです。今、世間あるいはIT業界で話題になっているテクノロジー全体を俯瞰(ふかん)できる大変便利なものとなっているため、IT関連の講演会などでも頻繁に参照されています。

Ⅱ 「ハイプ」とは「喧伝(けんでん)」「誇大広告」

ハイプ・サイクルのハイプ(hype)とは喧伝、誇大広告といった意味を持っています。つまりハイプ・サイクルとは、新技術がIT企業やメディアなどによって過剰に宣伝された結果、期待が必要以上に高まった末、幻滅に至るという、一連の過程を示したものでもあります。しかし全てが幻滅で終わるわけではなく、その有用性を正しく認識した人々によって徐々に改良され、安定していく技術もあります。

Ⅲ 現在の各技術の位置付け

2013年9月にガートナーが発表した「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル」(<図1>参照)によると、昨今何かと話題の「ビッグデータ」は「過度な期待」のピーク期のほぼ頂点にあり、今後、幻滅期に推移するだろうと予想されています。「クラウド・コンピューティング」はすでに幻滅期にありますが、クラウドは広がりのあるコンセプトであるため、陳腐化して消滅するよりは啓蒙(けいもう)活動期に進む可能性が高そうです。次に黎期(れいめい)を見ると、初期に「セキュリティ・インテリジェンス」があり、主流の採用までに要する年数は10年以上となっています。従って、ここに投資するならリターンはそれなりに先になろうことを覚悟すべし、ということでしょう。

(下の図をクリックすると拡大します)

Ⅳ 幻滅期が来る理由

ハイプ・サイクルの黎明期はイノベーターによる発明と初期採用の段階と言えます。後に続くのは、初期採用者の様子を見てから動く後期採用者ですが、後期採用者は初期の採用者よりもイノベーションの中断が多いといわれます※1
ロジャースによれば、初期採用者が新技術に対する優れた理解力をもって採用しているのに対し、後期採用者は知見不足による新技術の誤使用などにより、期待した効果が得られないと不満を抱き、新技術に幻滅してしまうためです。しかし見方を変えれば、知見のある人が十分に注意を払うのでなければ正しく利用できないという点で、黎明期、幻滅期の技術はまだまだ洗練不足ということもできるでしょう。

Ⅴ ベンチャー企業の成長サイクルとの相似性

ハイプ・サイクルの曲線は「死の谷※2」「ダーウィンの海※3」を含み、研究開発から事業化に至る過程を示す、企業の成長サイクルの曲線に似ています。
企業の成長サイクル曲線は、テクノロジーベンチャーが商品化や事業規模拡大の局面において、資金の枯渇に直面することを示しています。素早く死の谷を脱し、あるいはさまざまな休眠技術が泳ぐダーウィンの海の向こう岸(新製品・新事業)にたどり着いたものだけが事業として生き残るとされ、Invention(発見)からInnovation(革新)に移行する道のりの険しさを示しています。発明された技術が改良され、再発明されていくには資金が必要ですが、資金不足のために幻滅期から啓蒙活動期に移行できず、そのまま死の谷に消えてしまう技術も少なくありません。
可能性を秘めた技術を生かす多様な投資の在り方とともに、投資すべき対象を見定めることの重要性と困難さをあらためて感じさせられます



  • ※1エベレット・ロジャース(三藤利雄)『イノベーションの普及』(翔泳社、2007年)
  • ※2起業家が基礎研究から応用研究、イノベーション創出に移行しようとする時に直面する資金不足などの課題を示すもの
  • ※3大小さまざまな「技術的アイデア」と「事業的失敗」が混在する技術開発の初期段階の様子を自然界の生存競争に見立てたもの