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情報センサー2014年5月号 業種別シリーズ

シェール革命が化学産業に与える影響

化学産業研究会 公認会計士 鵜飼豊一
2001年10月、当法人に入所。現在は、主に、大手化学繊維製造業、石油卸売業、アパレル製造小売業などの監査業務およびアドバイザリー業務に従事。また、法人内の化学産業研究会に所属し、研修講師などのナレッジ発信を行っている。

Ⅰ はじめに

米国ではシェールガスの採掘により、安価な天然ガスの生産量が急増し、エネルギーの需給構造や価格のみならず、さまざまな産業に革命的な変化がもたらされています。米国における天然ガス取引価格は著しく低下しており、当該価格は日本や欧州の天然ガス価格や原油価格の約3分の1~4分の1となっています。
そのため、米国各地で安価な天然ガスおよびその誘導品について、多数のプラント建設計画が進められています。
また、天然ガス輸送用の鋼管や液化天然ガス(LNG)輸送船の需要の増加に加え、水素の原料のメタノールがシェールガスから生成できることから、今後、燃料電池車の開発が進むことも期待されています。

Ⅱ シェール革命による化学産業への影響

1. シェールガスから生成できる化学基礎原料

日本や欧州の化学企業は、主に原油(ナフサ)由来のエチレン生産を行ってきましたが、米国は従来、主に天然ガス由来のエチレン生産を行ってきました。このため、シェール革命による米国の天然ガス価格の低位安定により、米国の化学企業のコスト競争力が飛躍的に高まり、日本や欧州よりも合成繊維、樹脂、フィルム、電子材料等の化学製品を、はるかに安価に製造することが可能となります。
なお、シェールガスの成分としては、大半をメタンが占めていますが、エタンも10%前後、プロパンも数パーセント含まれています。
エタン、プロパンからはエチレン、プロピレン、およびその誘導品を生成できます。一方、ナフサからは前記に加え、芳香族のベンゼン等も生成可能ですが、シェールガスからこれらを生成することは、非常に難しいです(<図1>参照)。

(下の図をクリックすると拡大します)


2. 化学産業への影響

  • (1)シェールガス由来エチレンの価格競争力

シェールガスから化学基礎原料が生成できるかどうかは、化学産業の在り方に大きな影響を与えます。安価なシェールガスからエチレン生成が可能な米国では、エチレンの価格競争力が大きく向上し、一方で主にナフサから生成している日本や欧州では、相対的に価格競争力を失うことが考えられます。
一方で、ナフサ由来のベンゼン等の需給はタイトになると考えられます。現在、米国で建設中の大型エチレンプラントは2016~17年に稼働する見込みのため、16年以降、その傾向が強まる可能性があります。

  • (2)各化学企業への影響

前記の通り、シェールガスが与える影響は各化学基礎原料により異なるため、各化学企業が受ける影響も各社の製品構成により、ばらつくと考えられます。
例えば、ナフサから生成するエチレンプラントを保有する日本の化学企業では、価格競争力の低下により、設備の低稼働や設備の統廃合が生じる懸念があります。また、ナフサから芳香族化合物を生成する化学企業では、米国への輸出が増加する可能性があります。
また、ナフサ由来の化学基礎原料から合成繊維、樹脂、フィルム、電子材料等を製造してきた企業は、米国から、より安価なシェールガス由来の原料の調達が可能となることで価格競争力を強められます。実際に、より安く原料を調達するため、米国内で製造拠点を新設する動きもあります。また、安価なシェールガスを使って化学基礎原料等を量産する技術開発も活発となっています。

Ⅲ 会計上の留意事項

シェール革命により、各化学企業のビジネス環境は大きく変化します。そのため、会計処理にもさまざまな影響が出ると想定されます。
まず、シェールガスによる安価なエチレンの供給による化学企業のプロダクトミックスの変化がプラントの稼働率に影響を及ぼすことで、その統廃合が生じる可能性があります。それらに係る意思決定を行った場合には、当該事象が有形固定資産の減損の兆候に該当する可能性に留意が必要です。この点、減損の兆候がある場合は、減損の認識の判定を行うこととなりますが、将来キャッシュ・フローは、シェール革命によるビジネス環境の変化を踏まえた慎重な見積もりが必要となります。
同様に、繰延税金資産の回収可能性の検討においても、ビジネス環境の変化を踏まえた慎重な見積もりが必要となります。
さらに、関係会社を通じて化学基礎原料や化学製品の製造を行っている企業グループにおいては、関係会社投融資の評価に当たり、将来の業績計画の慎重な検討が必要となります。

Ⅳ おわりに

シェール革命は、エネルギーの需給構造や価格、さまざまな産業に革命的な変化をもたらします。化学基礎原料への影響だけでなく、世界のエネルギー事情や今後の新規産業創出などへも影響を及ぼす可能性があるため、状況を正確に把握した上で、将来への対応を考える必要があるのではないでしょうか。


情報センサー 2014年5月号