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情報センサー2014年6月号 業種別シリーズ

不動産の建て替えに関する会計処理

不動産業研究会 公認会計士 新田浩史
2002年、当法人に入所。大手私鉄会社の監査業務を経て、大手不動産会社、不動産投資顧問会社、J-REITの監査業務を担当。一般社団法人不動産証券化協会認定マスター。

Ⅰ はじめに

国土交通省の建築物ストック統計によると2013年1月1日現在、1981年以前に建てられた旧耐震基準による建築物の延床面積は全体の約32%に上り、今後、不動産の老朽化に伴う耐震化対応等へ向け、日本では建て替えを検討する場面が増えていくものと予想されます。本稿では、不動産の建て替えに関する概要および留意すべき会計上の主な論点を解説します。

Ⅱ 建て替えに関する概要

国は、建築物の耐震化対応へ向け「建築物の耐震改修の促進に関する法律」を定め、06年改正法では耐震化目標を15年12月末までに9割とすることを掲げています。建て替えは、耐震化のみならず、容積率の緩和による賃貸可能面積の拡大や技術革新により不動産の収益性を向上させるため、不動産業においても重要です。
近年、国土交通省と環境省は、さらに「耐震・環境不動産形成促進事業」の取り組みを始め、この事業を円滑に進めるため「不動産特定共同事業法の一部を改正する法律」を13年12月20日に施行しています。この改正により、いっそうの不動産の建て替え促進が期待されます。
建て替えは大別すると、単独の実施主体による場合と、近隣地権者を巻き込んだ一体開発による場合に分類できます。一体開発は、等価交換や、民事信託などの民間事業として行われる他、「都市再開発法」や「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」に基づく法定再開発として行われます。

Ⅲ 建て替えに関する会計上の主な論点

建て替えは、単独の実施主体による場合には、旧建物の取り壊しと、新建物の建設という二つの取引から構成され、一体開発による場合には、特に法定再開発において法人税法上の交換(法法50)や租税特別措置法上の換地処分(措法65)等として交換取引に該当することがあります。本稿では、この三つの視点から会計上の主な論点を解説します。

1. 旧建物に係る会計処理の論点

  • (1)自社保有の建物の場合

①減損会計の適用の要否

建て替えの局面においては、回復の見込みのない稼働率の著しい下落(減損適用指針第13項(5))や、著しい陳腐化等の機能的減価(同項(6))、著しく早期の除却や売却(同項(2))等の減損の兆候が生じている可能性があります。また、該当の有無の判断に当たっては、実際に変化が生じた場合のみならず取締役会等において決定された時点で該当する(同82項)という点に留意が必要です。
兆候に該当する場合には、減損の認識の判定および測定で、合理的な建設計画や使用計画を十分に考慮して将来キャッシュ・フローを見積もる必要があります。

②耐用年数の見積りの変更

建て替えの決定により、耐用年数が著しく不合理になった場合、減損の認識の判定後、減損損失の計上の有無にかかわらず、耐用年数の短縮の検討が必要となります(同13項(6)、86項)。耐用年数は会計上の見積りとされ、従来の耐用年数から実際の耐用年数が乖離(かいり)している場合には適切に修正する必要があります(過年度遡及(そきゅう)会計基準第40項)。一方、過去に最善の見積りを行った場合には、実績が確定した時の見積りとの差額は、確定した期に損益として認識するものと考えられます(同第55項)。なお、多額の除却損が発生する場合には過去の耐用年数の見積りの誤謬(ごびゅう)を示している可能性があることに留意が必要です。

③建物取り壊しに要する費用等

有形固定資産の耐用年数到来時に解体、撤去、処分等のために費用を要する場合は残存価額に反映する(連続意見書第三)ものの、残存価額がマイナスとなる処理は実際には適用されていなかったと考えられます。また、有形固定資産の除去に係る費用が企業会計原則(注18)を満たす場合には、当期の負担に属する金額を引当金に繰り入れるとしながらも、判断基準や見積り方法が必ずしも明確ではなかったことから、これまで広くは行われてこなかったと考えられます(資産除去債務会計基準第31項)。そのため、建て替えに際して発生する立ち退き料、建物取り壊し費用については、建て替えプロセスのどのタイミングで計上するか、留意が必要です。

  • (2)建物付土地を外部から取得する場合

建物付土地を外部から取得し、建物を取り壊した上で、新たに建物を建設して取得する場合、会計上は、固定資産の取得価額は、購入代金に買入手数料等、付随費用を加えたものとされ、建物等の取り壊し費用は取得付随費用として取得原価に算入することが考えられます。なお、法人税法では建物等の帳簿価額および取り壊し費用は、当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであるときは、土地の取得価額に算入するとされています(基本通達7-3-6)。

2. 新建物の取得原価

新建物の取得原価は、建設のために要した費用および事業の用に供するために要した費用の合計であり、通常は、新建物の工事代金の他、設計費用等が取得原価を構成すると考えられます。この他、建て替えでは、テナントの立ち退き等の補償費用や近隣住民対策費用、新建物のリーシング費用など、さまざまな費用が発生します。これらの費用には、既存投資の終了に伴い発生するものや、新建物の営業に関連して発生するものがあります。取得原価の決定に当たっては、当該支出が新建物の取得に関わるものか、その合理性を慎重に検討することが必要です。

3. 交換取引

近隣地権者を巻き込んだ一体開発では、都市再開発法による権利床の取得(措法65)や特定資産の買換え(措法65の7)等、交換取引および交換取引に準ずる取引に該当することがあります。このような交換取引等により取得した固定資産の取得原価に関して「圧縮記帳に関する監査上の取扱い」では、譲渡した資産の帳簿価額により測定する方法と、譲渡資産または取得資産の公正な市場価格により測定する方法が示されています。いずれに該当するかは、交換取引の実態に応じて各企業が判断するとされています。
なお、法人税法および租税特別措置法における交換取引等の圧縮記帳の直接減額方式については、交換により取得した固定資産が自己の所有する固定資産と同一種類・同一用途のときは資産間の連続性、同一性が認められるため、譲渡資産の帳簿価額により測定することができるとされています(同取扱いⅢ)。

Ⅳ おわりに

不動産は強い個別性を持ち、建て替えにもさまざまな要因が存在することから、個別の状況に応じて実態を適切に反映する会計処理を行う必要があると考えられます。


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