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情報センサー2014年6月号 FAAS

グローバル化時代におけるCFO人材育成

アカウンティングソリューション部 公認会計士 桑原清幸
入所後、主に素材産業の監査業務に従事。2010年、会計分野を中心に各種研修講座を開催する「新日本ナレッジスクール」を設立。企業内研修やeラーニング等の教育・研修サービスに従事し、各種企業向けセミナー講師を務める。著書(共著)に『連結子会社の決算マニュアル』や『経理・財務部長ハンドブック』(中央経済社)等がある。

Ⅰ はじめに

近年、大規模なクロスボーダーM&Aを伴うグローバル事業展開を積極的に行う企業が増えており、従来と比較して経理・財務部門に求められる役割が高度化・複雑化しています。日本企業の経理・財務部門を取り巻く環境が劇的に変化する中、CFOが抱える課題を調査・分析することを目的として、EY Japanでは日本企業のCFOまたは経理・財務部門の責任者を対象としたアンケート調査※1(以下、CFOサーベイ)を実施しました。本稿では、このCFOサーベイの結果から、経理・財務部門の人材育成、特に将来のCFO人材をどう育成していくかに焦点を当てています。

Ⅱ 今後の経営課題としての人材育成

CFOサーベイにおいて、CFOが認識している今後の経営課題を調査した結果、最も多かった回答が「経理・財務部門の人材育成」(81%)となりました(<図1>参照)。日本企業のCFOは、多くの経営課題の中でも、今後の経理・財務部門を担う人材の拡充・強化や、将来のCFO候補となる人材をいかに育成していくかという、人材面での課題が最も重要であると認識しています。日本企業のグローバル化など経営環境が激変する中で、経理・財務部門が、従来の制度会計を中心とする役割のみならず、企業の経営層にとっての「ビジネスパートナー」として高度な役割も果たせる人材をどのように確保・育成していくかが喫緊の課題であると考えられます。

(下の図をクリックすると拡大します)

Ⅲ CFO人材育成の現状

さらに、このCFOサーベイでは、CFO人材育成における現状が明らかになりました。日本企業の多くの経理・財務責任者は「CFOは社内における次世代CFO候補を育成する義務がある」(98%※2)、「経理・財務部門を今後積極的に改革していきたいと考えている」(98%)、「人材開発や調整のスキルを磨きたい」(89%)と認識していますが、その一方で、「人材開発に十分な時間が割けていない」(84%)、「現状の経理・財務部門には、将来のCFOとなる広範なスキルを持つ人材は少ない」(69%)という問題を抱えています。
その理由として、連結・四半期決算等の制度会計への対応など日常のオペレーションが増大する一方で、経理・財務部門に対する人員削減へのプレッシャーが強くなっていることが考えられます。経理・財務部門では、将来を見据えて長期的な人材育成に注力する余裕がなくなってきており、CFOはこの現状に対するジレンマを強く感じている様子がうかがえる結果となりました。

Ⅳ グローバルで通用するCFO人材育成に向けて

日本企業のグローバル化に伴い、経理・財務部門に求められる役割が広範かつ複雑になっています。今後の経理・財務部門においては、グループ全体で多様な専門能力を有する人材を束ねる組織力と、国内・海外拠点を結ぶ緊密なネットワークが求められます。こうした専門集団の一員として必要とされる経理・財務人材のスキルも、ますます高度化していくでしょう。従来は、会計基準や税務を中心としたテクニカルスキルに比重を置いた教育・研修でも十分だったかもしれません。しかし今後は、海外子会社等の管理責任者との間で対等にコミュニケーションを図るための英語による表現力や交渉術、また経営層に付加価値のある情報を提供するための分析力、さらに自社の財務数値を社内・社外に戦略的かつ分かりやすく伝えるための説明力といった、広範なビジネススキルが求められるようになるでしょう。
将来のCFO人材を育成するため、先進的な日本企業では次のような具体的な取り組みが始まっています。

  • 経理・財務部門に必要なジョブディスクリプションを戦略的に定義する
  • コーポレート部門-事業部門-国内・海外拠点の間での人事ローテーションを含むキャリアディベロップメントを制度化して運用する
  • テクニカルスキルだけでなく、ビジネススキルも重視した長期的かつ体系的な教育プログラムを構築・運用する
  • 集合研修だけでなく、eラーニングやOJT等を効果的に活用する

ただし、このような取り組みを自社・グループ全体で本格的に展開している経理・財務部門はまだ多くはないでしょう。自社のみでこうしたCFO人材育成の仕組みを用意することは、困難な場合も多いと考えられます。
特に、グローバル企業のCFOに欠かせない英語によるコミュニケーション能力を高めるためには、経理・財務分野のみならず、広くマネジメントに係るテーマを実際に英語でディスカッションする機会を与えることが非常に有効です。他社のCFO候補となる人材と英語で対等な議論ができるような実践的な社外教育プログラムを活用することも、より効果的といえるでしょう。

Ⅴ おわりに

前記のように、日本企業の経理・財務部門では、将来のCFOを輩出するためのキャリアパスの整備と、それを支える教育プログラムの拡充・強化は急務といえます。日本企業が真のグローバル化を達成するためには、経理・財務部門の一人一人が付加価値を生み出す 「人財」となり、経営層から信頼される「ビジネスパートナー」に脱皮できるかどうかが問われているのです。


  • ※12013年度に日本CFO協会と共同でアンケート調査を実施。日本企業100社のCFOまたは経理・財務部門の責任者から得た回答を集計・分析。
  • ※2設問に対して「強く同意」または「同意」と回答した割合。以下同じ。

情報センサー 2014年6月号