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情報センサー2014年6月号 Topics

3つの視点で会社がわかる「有報」の読み方

企業会計ナビチーム代表 公認会計士 山岸 聡

Ⅰ はじめに

有価証券報告書(以下、有報)には企業に関する有用な情報が詰まっていますが、ページ数が膨大なため「必要な情報がどこに記載されているのかが分かりにくい」「有報は使い勝手が悪い」と思われている方も多いのではないでしょうか。逆に有報の膨大な情報をうまく活用できれば、投資や取引の意思決定、企業調査などに際し、企業実態を分析する大変有用なツールとなります。
そこで、有報を読む際のポイントの一部を、大局的な視点、ストーリー別の視点、項目別の視点、という3つの視点から整理している当法人刊行の『3つの視点で会社がわかる「有報」の読み方』に沿って紹介します。

Ⅱ 書籍の概要

有報のどの情報から確認するかについて定まった順序はありませんが、この本の§1では、有報を大局的な視点から、企業のビジネス、業績トレンド、利益等の詳細、財務健全性、将来情報という5段階のステップで読み解く方法を解説します。また、§2では、子会社の買収、業績の悪化、海外への拠点移管、自然災害による損失など、企業にさまざまなイベントが発生した場合の具体的なストーリー別の視点から読み解く方法を解説します。§3では、セグメント情報や減損損失、関連当事者との取引など個々の項目別の詳細な視点から、有報を読むポイントや、各記載間のつながりを解説しています。
これらの3つの視点から有報を読むことにより、バラバラだった情報がパズルのようにつながり、企業のビジネスや実態を理解できるようになります。

Ⅲ 業績悪化時の有報

§2の第3節では、業績悪化のプロセスを4段階に分類し、それぞれの段階における業績悪化の情報を、有報のどこから読み取るかについて解説しています(<図1>参照)。

(下の図をクリックすると拡大します)


1. 売上、営業利益、経常利益の減少が見られる段階

業績悪化の局面の第一段階は、数期間連続した売上高の減少と営業利益、経常利益の減少傾向であり、これは「第1【企業の概況】1.主要な経営指標の推移」で確認できます。

2. 特定の報告セグメントに営業損失が計上されている段階

経常利益が黒字であっても、特定の報告セグメントに営業損失が計上されることがあります。例えば、報告セグメントのうち売上高が全社に占める割合が一番大きい主たるセグメントに損失が生じている場合、業績悪化が企業全体へ波及する可能性が高いことがあるので、業績悪化の原因が構造的なものか一時的なものかについて、十分な検討・吟味が必要になります。

3. 業績予測の下方修正が行われる段階

数期間連続した売上高の減少に伴い、営業利益の減少傾向が定着する傾向が見られるようになると、業績予測が下方修正され、中期経営計画の見直しが行われます。この段階では有報に次のような情報が記載されることがあります。

  • (1)繰延税金資産の取り崩し

業績予測の下方修正に伴う中期利益計画の見直しに より、繰延税金資産が取り崩された場合には、貸借対照表上で繰延税金資産が減少し、損益計算書では、法人税等調整額が、利益を減少させる方向で計上されます。

  • (2)減損損失の計上

減損損失は、損益計算書に計上され、減損損失に関しての詳細が注記に記載されます。また、特定の資産グループで認識・測定された減損損失は、当該資産グループの属する報告セグメントに生じた減損損失として、どこのセグメントで発生したかをセグメント情報で確認できます。

  • (3)営業キャッシュ・フローのマイナスと資金残高の減少

売上の減少は、営業キャッシュ・フローの減少を伴うことが多いと思われます。また、営業キャッシュ・フローの減少に対応し、財務キャッシュ・フローの増加が伴わない場合には、企業の資金が前期末と比較して減少することとなります。

  • (4)業績悪化に対する経営者の施策

業績悪化の顕在化を受け、経営者は対応策を固めますが、業績悪化の局面における経営者の施策としては、次のような例が考えられます。

①配当の減配から無配へ
配当に関しては「第4【提出会社の状況】3.配当政策」に記述があります。業績悪化が深刻化する時点においては、既に無配となっていることもあります。

②不採算事業からの撤退と事業所の閉鎖
事業撤退ないし事業所閉鎖に伴う損失は、事業撤退損失や構造改善費用として特別損失に計上されることが多くあります。また、大規模なものであれば「第2【事業の状況】」で詳細を知ることができます。

その他に、③賞与支給額の減額、④割増退職金の計上等についても経営者の施策として考えられます。

4.業績悪化が深刻化して継続企業の前提に影響する段階

業績悪化に対応した経営者の施策の効果が表れないうちに、さらなる業績悪化が進んだ場合には、継続企業の前提に疑義を生じさせるような事象または状況が存在しているか否かについての検討が行われ、「継続企業の前提に関する注記」が記載される場合があります。

本書の執筆は、当法人のウェブサイトで企業会計ナビのコンテンツを作成・運営している公認会計士陣が行っています。
企業会計ナビでは、経営者や経理実務者に有用な情報を提供しています。ぜひご活用ください。


情報センサー 2014年6月号