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情報センサー2014年8月・9月合併号 業種別シリーズ

電力システム改革と電気事業

電力ガス業研究会 公認会計士 春日淳志
1996年、当法人に入所し、主に電力会社の監査業務を担当するほか、IFRS等アドバイザリー業務に従事。電力ガス業研究会において、執筆等のナレッジ発信を行っている。

Ⅰ はじめに

1. 日本の電気事業の沿革

わが国における事業としての電気供給は、1886(明治19)年の東京電燈の開業に始まっています。その後、電力需要の急激な増大に対応し、大正末期には五大電力会社が形成され、業界で激しい顧客獲得競争が続きました。この結果、供給設備の社会的な二重投資による不経済が各社の経営を悪化させ、高い電気料金やサービス悪化を招いたことなどから、1932(昭和7)年に電気料金の認可制が設けられました。
その後、第二次世界大戦時の国家管理体制を経て、51年に9配電会社が担当していた配電区域ごとに、民営の9電力会社が設立され、沖縄電力を加えた10電力体制として現在に至っています。

2. 電力システム改革

東日本大震災がもたらした環境変化に対応するため、経済産業省の電力システム改革専門委員会は、2013年2月に電力システム改革に関する報告書を取りまとめ、13年4月に電力システムに関する改革方針が閣議決定されました。その目的や骨子は<図1>のとおりです。
電力システム改革は3段階に分けて実施する予定とされており、第1弾改正法案は13年11月、第2弾改正法案は14年6月に成立しました。

(下の図をクリックすると拡大します)

Ⅱ 第2弾改正の影響

<表1>に記載されているとおり、16年をめどに、電力小売が全面自由化される見通しとなっています。これにより、一般家庭等も電力会社の選択が可能になります。また、電力小売参入が自由化されることにより、さまざまな事業者が参入して、価格面、サービス面での競争環境が生まれ、今までよりも多様な料金メニューやサービスが生まれることが考えられます。
電力システム改革の工程表では、第3段階で送配電部門の法的分離を行い、料金規制を完全撤廃するとしていますが、需要家保護を図るための措置として、完全撤廃までの期間は小売料金規制が継続するとされています。
また、従来は一般電気事業者等が発電から販売までを一貫して電気事業として行ってきましたが、小売参入の全面自由化に伴い、電気事業の類型を見直し、発電・送配電・小売の事業区分に応じた規制体系(ライセンス制)に移行するとされています。

(下の図をクリックすると拡大します)

Ⅲ 電気事業者の会計に与える影響

1. 従来の電気事業制度と電気事業会計

従来は、発電から販売までの垂直一貫体制による地域独占と、総括原価方式により投資回収を保証する電気事業制度の下、安定供給に資する大規模電源の確保と、地域への供給保証がなされてきました。長期的な視野による供給力確保が優先され、また、競争原理による重複投資等を避け、社会的損失の最小化を図る目的等により、電気事業制度はその機能を果たしてきました。
この制度の下で、電気事業会計は、投資家・債権者への情報提供という目的に加えて、適正な料金原価の算定という機能を有しており、一般電気事業者等は、電気事業法および電気料金制度を背景として、電気事業会計規則に基づく会計整理が求められています。
電気事業会計は、垂直一貫体制で営む電気事業の性質および総括原価方式を反映した電気料金制度とマッチして、従来、実務的に機能してきました。

2. 電力システム改革の影響

電力システム改革の第2弾改正により、総括原価方式による電気料金制度が撤廃されます。また、ライセンス制が導入され、第3弾改正によって送配電部門が法的に分離されることにより、垂直一貫体制も崩れることとなります。
総括原価方式の料金規制では、供給に必要なコストを料金に転嫁することが制度的に保証されてきましたが、電力システム改革により、制度的な枠組みが変更され、料金収入を見越して必要な投資や調達を行うという仕組みに転換されます。
今回の法改正による小売全面自由化と、ライセンス制の導入を含む電力システム改革の進展により、電気事業者をめぐる環境は変化していくことが予想されます。会計整理の在り方についても、あらためて検討する必要性が出てくると考えられます。

Ⅳ おわりに

電力システム改革は、事業者の機会拡大も目的の一つとなっており、電気事業への参入を検討している企業にとっては、ビジネスチャンスとなります。一方で、既存の電力会社にとっては、電力システム改革への対応が極めて重要な経営戦略となり、各社の環境の違いや企業風土などが反映されたものになると考えられます。
また、新エネルギーや原子力を含めた十分な供給力の確保があって初めて、健全な競争市場が形成され、電力システム改革の目的が達成されると考えます。


  • 発電および送電は日本発送電株式会社が単独で行い、配電は1地域1会社制による各地域の配電会社が地域独占的に行う。

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