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情報センサー2014年10月号 会計情報レポート

「企業結合に関する会計基準」等の改正による当期純利益の表示変更の影響

会計監理部 公認会計士 矢島 学
第Ⅰ監査事業部および会計監理部に所属。日本公認会計士協会 会計制度委員会 委員、開示検討専門委員会 専門委員、非営利組織会計検討会 委員。2008年から11年まで企業会計基準委員会(ASBJ)に出向。主な著書(共著)に『「経理の状況」作成マニュアル』『会計処理アドバンストQ&A』(いずれも中央経済社)がある。

Ⅰ はじめに

現行の連結損益計算書における当期純利益は、税金等調整前当期純利益に法人税等と少数株主損益を加減して最後に算定される金額であり、わが国の連結開示実務において伝統的に重視されてきた業績指標と考えられます。
ところが「企業結合に関する会計基準」等の改正により、税金等調整前当期純利益に法人税等のみ加減して算定される金額が当期純利益とされました。すなわち、現行の「少数株主損益調整前当期純利益」が、今後は「当期純利益」となります。
本稿では、当該改正による表示変更の概要とともに、このような重要な改正に至った経緯を概観して、連結開示実務に及ぼす影響を検討します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 改正の概要

企業会計基準委員会(ASBJ)が平成25年9月に公表した「企業結合に関する会計基準」及び「連結財務諸表に関する会計基準」等の改正(以下、本会計基準等の改正)により、連結財務諸表の表示方法について、これまでとは大きく異なる取扱いが定められました※1
ポイントは、当期純利益に少数株主損益も含めることであり、少数株主から非支配株主に表現を見直したことと合わせて、現行の取扱いと比較すると、改正後は<表1>のようになります。また、連結損益計算書の純利益計算区分の表示形式で比較すると<図1>のようになります。当該改正により、例えば、少数株主のいる重要性の乏しい子会社を連結子会社とするか、持分法適用非連結子会社とするかにより、当期純利益の金額が変わってくることになります。
本会計基準等の改正は、平成27年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用とされています。表示方法に係る変更は早期適用が認められていないので、同じ決算期の会社は一斉に適用になります。
なお、本会計基準等の改正を受け、平成26年3月に連結財務諸表規則等を改正する内閣府令が公布されており、有価証券報告書や四半期報告書における連結財務諸表の表示科目及び様式についても、同様に改正されています。


表1 改正後の取扱い

(下の図をクリックすると拡大します)

Ⅲ 改正までの経緯

本会計基準等の改正により、当期純利益は、親会社株主た?けて?なく、少数株主に係るものも含めることとされました。
わか?国て?は、少数株主持分を株主資本と区別し、株主資本に対応する成果て?ある親会社株主に係る損益を当期純利益として連?(れんけい)させており、連結財務諸表の作成において親会社株主の視点か?重視されてきました。一方て?、主に国際財務報告基準とのコンハ?ーシ?ェンスの観点から検討か?進められたASBJの企業結合フ?ロシ?ェクトにおいて、当期純利益を国際的な会計基準のように、少数株主に係る損益も含めたものにすへ?きかか?論点となりました。
本会計基準等の改正につなか?るASBJの検討開始段階て?は、投資家の意思決定に有用と考えられるとして、親会社株主の視点を重視する現行の取扱いを継続することか?適当とする方向性か?示されていました。
一方、そのような方向性を示した論点整理へのコメントや、その後のASBJの審議において、国際的な会計基準と同様に連結財務諸表の表示を行うことて?、比較可能性の向上を図るへ?きという意見か?多くありました。そのため、当期純利益には少数株主に係る損益も含めるとされています。

Ⅳ 改正の影響

それでは、本会計基準等の改正により、連結開示実務において、親会社株主に係る損益の重要性は後退していくでしょうか。
成果たる当期純利益に、少数株主に係る損益も含めるのであれば、対応する元手には少数株主に係る持分も含めるのが整合的です。しかし、本会計基準等の改正では、引き続き親会社株主に係る持分のみを株主資本として表示するとされました。理由として、親会社株主に係る成果と、それを生み出す原資に関する情報は、投資家の意思決定に引き続き有用と考えられること、親会社株主に係る損益と株主資本との連?に配慮したことが示されています。
そもそも、当期純利益の表示変更をしても、市場で取引されているのが企業集団ではなく親会社の株式であるため、親会社株主に係る損益が投資意思決定に有用であることは変わりようがありません。
また、当期純利益と株主資本との連?は、わが国の会計基準に共通する考え方として重視されてきましたが、当期純利益の表示変更に当たっては、株主資本の範囲を変えておらず、親会社株主に係る損益との連?において実質的な見直しはされていないことになります。
さらに、重要な業績指標である1株当たり当期純利益については、従来と同様に、親会社株主に帰属する当期純利益を基礎として算定することとなりました。
当期純利益の表示変更は、国際的な会計基準に準拠した連結財務諸表との比較可能性の向上が改正の趣旨であること、併せて検討された株主資本や1株当たり当期純利益に係る対応を踏まえると、表示変更後も、現行の当期純利益、すなわち、改正後の親会社株主に帰属する当期純利益の重要性が後退していくような影響はないと考えられます※2


  • ※1会計処理についても改正されており、支配が継続している場合の子会社株式の追加取得や一部売却に伴う親会社持分変動による差額は、のれんや売却損益でなく資本剰余金として処理することになる。また、当該一部売却時に減少した持分に相当する、のれんの未償却額は減額せず、売却後の償却額は少数株主には負担させないことになる。このような会計処理の見直しは、現行の当期純利益に金額的な影響がある。
  • ※2平成26年8月に企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令が公布されており、有価証券報告書における主要な経営指標等の推移(いわゆるハイライト情報)では、従来と同様に、親会社株主に帰属する当期純利益を開示することとされている。