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情報センサー2014年12月号 業種別シリーズ

欧米における化学物質規制の動向について

化学産業研究会 公認会計士 倉持太郎
2003年10月、当法人に入所。化学産業を中心に、非鉄金属や電気機器メーカーの監査業務のほか、IFRS関連業務にも従事。現在は、アジアを中心とした新興国へのアドバイザリー業務にも従事しつつ、国内企業の監査業務を主に担当している。

Ⅰ はじめに

化学物質は私たちの生活と密接に関係しており、近年、製造・販売のために利用される化学物質は、より多種多様になっています。これらの化学物質が環境や人体にもたらすリスクを規制するために、各国地域で管理規制が実施されています。
本稿では、代表的な化学物質管理規制である欧州の「REACH(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)」規制、および米国の「TSCA(Toxic Substances Control Act)」ならびにTSCAの改正法として審議されている「CSIA(Chemical Safety Improvement Act)」の概要を解説します。また、前記規制に関する国際会計基準(IFRS)および米国会計基準の取扱いも、併せて解説します。

Ⅱ 欧州におけるREACH規制の概要とIFRSにおける取扱い

1. REACH規制の概要

REACH規制は、2007年6月に発効された、欧州における化学物質規制です。化学物質の登録、評価、認可・制限のプロセスに合わせた規制で、欧州化学物質庁(ECHA)が執行します。REACH規制では、EU域内における化学物質ごとの年間の製造・輸入量が事業者当たり1トンを超える場合、製造・輸入事業者はECHAへ当該化学物質を登録する必要があります。
ただし、欧州既存商業化学物質インベントリー(EINECS)に記載されている物質など、すでに登録済みの化学物質(段階的導入物質)は、EU域内における化学物質ごとの年間の製造・輸入量が事業者当たり1トンを超えた時点から6カ月以内に予備登録を実施すると、登録期限(18年5月31日)まで本登録が猶予されます。
なお、現在は年間100トン未満の製造・輸入が実施される化学物質のみ、予備登録が可能です。また、予備登録は登録期限である18年5月31日を1年以上残して実施する必要があります。
REACH規制の概要は、本誌Vol.75(12年10月号)に詳細が記載されているので、併せてご参照ください。

2. IFRSにおける取扱い

REACH規制に対応するために企業が負担する費用の例として、次が想定されます。

  • 登録が必要な化学物質を特定するための費用
  • 既存の登録企業から登録のために必要なテストデータを取得する費用
  • ECHAに支払う登録料

これら費用は、一般的には企業の研究開発活動の一環として生じるため、IAS第38号「無形資産」に基づき、会計処理が行われます。登録が必要な化学物質を特定するための費用は、IAS第38号における研究と見なされるため、発生時に費用として認識します(IAS第38号56項)。既存の登録企業から登録のために必要なテストデータを取得する費用は、個別に取得した無形資産として資産計上します。また、ECHAに支払う登録料が、自己創設無形資産の計上要件を満たす場合も、当該費用は無形資産として資産計上すると考えられます(IAS第38号57項)。

Ⅲ 米国におけるTSCAの動向と米国会計基準における取扱い

1. TSCAの概要

TSCAは、1977年1月に発効された、米国における化学物質規制です。TSCAの既存化学物質リスト(TSCAインベントリー)には、75年1月1日以降に米国で製造・加工または輸入された物質が収録されています。当該リストに収録されていない新規化学物質につき、年間10トン以上の製造・輸入がされる場合、米国内の事業者は米国環境保護庁(EPA)へ事前申請します。また、リストに収録されている既存化学物質につき、EPAが注意喚起のために作成する重要新規利用規則(SNUR)に掲載されている場合にも、EPAへの事前申請が必要となります。
EPAは90日間で評価を実施し、重要なリスクが生じる可能性があると判断した場合は、申請者へ利用制限などを課します。また、申請者以外の第三者にも同様の制限を課すために、EPAはSNURを公布する場合があります。

2. CSIAの概要

TSCAは制定から約40年が経過しており、化学産業を取り巻く環境の変化に伴い、規制内容の見直しが求められました。その結果、TSCAの改正法として包括的に見直され、13年に公表された法律案がCSIAです。14年9月末現在、当該法案は上院に提出された段階であり、まだ発効されていないため、今後の動向に留意が必要です。次に、14年9月末現在の法案に基づき、CSIAの概要を解説します。
CSIAでは化学物質の評価方法として、次の3段階での評価を求めています。

  • (1)重要度の付与

EPAは、企業が利用している全ての化学物質についてリスク評価を実施し、高リスクと低リスクに分類します。
高リスクの化学物質は、詳細な安全性評価が実施されます。一方、すでに詳細な評価が実施されている化学物質は低リスクに分類され、安全性評価は省略されます。ただし、低リスクと判断されても、その後に新たな事実が発見された場合など、状況に変化が生じた際は、高リスクの化学物質として取り扱われる可能性があります。

  • (2)安全性評価の実施

高リスクの化学物質は、最新の分析手法に基づいた詳細な評価が実施されます。なお、評価に際し、企業からEPAへ開示される機密情報の取扱いについては、主に次の点において見直しが行われています。

  • 機密情報のため開示しない理由を事前に文書化しておくことが求められる。
  • 環境や人体を保護するために必要とEPAが判断した情報は、EPAへの開示が求められる。

  • (3)結論の表明

EPAは、化学物質が意図された状況下で環境や人体にとって安全か検討します。
化学物質が安全基準に適合しないと判断した場合、EPAは当該化学物質の利用禁止や、段階的な廃止などを要求できます。
CSIAが施行された場合は、全ての化学物質に対するリスク評価がEPAにより実施され、企業に追加調査や情報提供が求められる可能性があります。そのため、企業の追加負担が生じる場合があると思われます。

3. 米国会計基準における取扱い

米国会計基準では、資産除去債務に関する会計基準において、TSCAに関する記載があります。ただし、環境に関する法令としてTSCAの目的などが記載されるにとどまっており、TSCA特有の会計処理は定められていません。
CSIAは審議中の法令であるため、現時点では米国会計基準にCSIAに関する記載はありませんが、施行された場合は企業の負担が増加し、財務諸表への影響が生じる可能性があるため、今後の米国会計基準の動向に留意が必要です。


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