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情報センサー2015年4月号 業種別シリーズ

残価設定型クレジットの概要と会計上の留意点

自動車セクター 公認会計士 山ノ川 遼
2007年12月に当法人に入所し、事務機器メーカー、電子部品メーカー、ファンドなどの監査業務のほか、会計支援業務を経験する。現在はグローバルに展開している自動車メーカーの販売金融子会社の監査チームの主査として従事している。

Ⅰ はじめに

完成車メーカーにとって、自動車販売をサポートする販売金融子会社の重要性が増しています。販売金融子会社は、クレジットやリースなどのサービスを提供し、消費者の車両購入を容易にすることで、販売台数の増加に貢献するのみならず、安定した収益を生み出して連結業績に貢献します。
本稿では、販売金融子会社が提供しているサービスの一つである残価設定型クレジットの概要と、会計上の留意点について解説します。

Ⅱ 残価設定型クレジットの概要

1. 商品の仕組み

残価設定型クレジットは、一般的に消費者が購入する車両について、最終支払時の買取保証額である「残価」をあらかじめ設定し、購入者は車両価格から頭金と残価を除いた部分を毎月分割払いしていく仕組みをいいます(<図1>参照)。購入者は、数年後の最終支払時に、車両を返却するか、残価を一括支払または再度クレジットを利用して購入するかを選択できます。


図1 残価設定型クレジットの仕組み

2. 購入者にとってのメリット

購入者は、残価の設定により月々の支払を抑えることができます。これにより、車両購入の選択肢が広がるメリットがあります。
また、最終支払時の車両価値が保証されるメリットがあります。例えば、家族構成の変化などにより数年後に車両が不要となった場合、車両価値が下落していても残価で引き取ってもらえるため、想定しないリスクを回避できます。

3. 販売金融子会社にとってのメリット

残価設定型クレジットの利用により月々の負担が抑えられ、新車購入層の拡大が見込まれることがメリットと考えられます。また、最終支払時に、車両返却について購入者とコミュニケーションをとる機会があるので、販売金融子会社または車両販売会社にとって、新たなビジネスチャンスがあると想定されます。

Ⅲ 残価設定型クレジットのリスクと会計上の対応

1. 貸倒リスク

販売金融子会社は購入者への融資時に、貸借対照表上に債権を計上しますが、残価設定型クレジットは通常のクレジットと同様に、購入者の支払能力による影響を受けるため、購入者から債権を回収できないことにより貸倒損失が発生するリスクが存在します。
これは企業会計原則注解 注18に定められる引当金の4要件を満たすと考えられ、引当金を設定する必要があります。

2. 車両価値変動リスク

数年後の最終支払時の車両の買取額を保証することにより、数年後に返却される車両の価値が当初設定された残価より低い場合には、車両を引き取る販売金融子会社が損失を被ることになります。
この中古車価格の変動による残価リスクに対しても、企業会計原則注解 注18に定められる引当金の4要件を満たすと判断する場合には、引当金を計上することになります。

Ⅳ リスクに対応した会計上の留意点

では、リスクに対応して引当金を計上する場合、計上すべき引当金の金額はどのように見積もるべきでしょうか。

1. 貸倒リスクに対する引当金

貸倒リスクについては、債権の区分ごとに貸倒見積高を算定し、引当金として計上することが考えられます。
一般債権については、債権全体または同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準により貸倒見積高を算定することができます。また、購入者がすでに滞納・破産等に陥っている場合には、債務者の状況に応じて個々の債権ごとに貸倒見積高を算定することが必要です(金融商品に関する会計基準28項)。

2. 車両価値変動リスクに対する引当金

車両価値変動リスクに対して引当金を計上する場合、考慮すべき主な要素としては次の二つが考えられます。

(1)車両返却時の残価と車両価値との乖離(かいり)

車両返却時の車両価値は、時価として中古車市場における価格を使用することが考えられます。そのため、車両返却時における車両価値が、クレジット契約時に設定された残価をどれだけ下回るかを予測する必要があります。
この場合、例えば車種別またはモデル別等の一定のグループに区分した上で、過去の中古車価格の動向などを基礎として、将来の車両価値を予測することが考えられます。将来の車両価値を予測するための算出ロジック、モデルについては、販売金融子会社が置かれた状況、経営陣の方針などさまざまな影響を受けるため、慎重な判断が求められます。

(2)車両の返却率

車両返却時の車両価値が残価を下回っていたとしても、車両が販売金融子会社に返却されない限り、損失は実現しません。そのため、契約満了時において車両が販売金融子会社に返却される可能性(車両の予想返却率)を、考慮することが考えられます。
車両の予想返却率は、例えば車種別またはモデル別等の一定のグループに区分し、過去の返却実績率等を基礎とするなど、合理的な基準により算定する必要があります。車両を返却するかどうかは、中古車市場の状況、中古車市場の状況に基づく購入者の最終支払時の選択傾向など、外部要因の影響を受けるため、車両の予想返却率算定の際には、十分に留意する必要があります。

Ⅴ おわりに

残価設定型クレジットは幅広い購入者に支持されており、今後も市場規模が拡大すると考えられます。販売金融子会社は、この商品のリスクを適切に財務諸表に反映していくことが必要となります。


  • ①将来の特定の費用または損失である②費用または損失の発生が当期以前の事象に起因している③発生の可能性が高い ④金額を合理的に見積ることができる

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