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情報センサー2015年5月号 業種別シリーズ

建設業におけるIFRSの論点 -収益認識を中心に-

建設セクター 公認会計士 佐藤賢治
大手ゼネコンを中心として監査業務に従事。現在、日本公認会計士協会 業種別委員会 建設業研究部会 幹事。主な著書(共著)に、『業種別会計シリーズ「建設業」』(第一法規)などがある。

Ⅰ はじめに

国際会計基準(IFRS)の任意適用・任意適用予定会社数は、2015年3月時点で73社(東京証券取引所ウェブサイトより)となり、時価総額は日本の全上場企業の時価総額の約2割を占めます。
一方、建設業の上場会社(175社)は、前述の73社に含まれていない状況です。
本稿では、収益認識(IFRS第15号)を取り上げ、今後、建設会社がIFRSを適用する上で検討が必要となる主な論点(開示を除く)について考察します。

Ⅱ 建設業における収益認識の主な論点

1. 収益の認識

(1) 工事進行基準の適用の可否

建設会社がIFRSを適用する上で、工事進行基準の 適用の可否は重要な論点となります。
IFRS上、いわゆる工事進行基準を適用するためには、工事契約から識別される履行義務が、次の二つの要件(IFRS第15号第35項(b)、(c)参照)のいずれかを満たすことによって、一定期間にわたり充足されている必要があります。

  • 要件1
    建設会社による工事の履行により創出される資産(以下、建設物)を発注者が支配していること
  • 要件2
    建設物が他に転用できないこと、かつ、建設会社は、履行した部分に対応する工事代金の支払いを発注者から受ける強制可能な権利を有していること

建設会社は、発注者の支払い不履行に対する保護的権利として、建築中の建設物に留置権を有する一方で、一般に建設物は、発注者の土地に建てられるため、発注者が支配している可能性が高いとされます(BC129項参照)。
また、建設物は発注者の土地に建てられることに加え、発注者の仕様に基づき個別性が高いことから、他に転用できないものである可能性が高いと考えられます。
さらに、発注者都合により工事が中止された場合、建設会社は、通常、施工済部分の対価(発生コスト+適切なマージン)について発注者に請求する権利を有していると考えられますが、現行法令上、明文規定はなく、法的な整理が必要です。
この点について現在、改正が進められている民法(債権法)において、工事未完成の場合における請負人(建設会社)の報酬請求権を認めるための要件を整理、明確化が進められています。
以上より、一部法的な整理を要するものの、工事契約の多くは、前述の要件のうちいずれかを満たし、工事進行基準を適用できる可能性が高いと考えられます。

(2) 工事完成基準の適用の可否

日本基準では、工事収益、原価の総額および決算日における工事進捗(しんちょく)度の各要素について信頼性を持って見積もることができない場合、工事進行基準は適用できず、工事完成基準が適用されます(企業会計基準第15号 工事契約に関する会計基準9項)。
一方、IFRS上は、工事契約から識別される履行義務が、前述の要件1、2のいずれかを満たす限り、履行義務は一時点において充足されるのではなく、あくまで一定期間にわたり充足されると見なすため、いわゆる工事完成基準は適用されないことになります。
すなわち、日本基準上、工事完成基準を適用する工事であっても、IFRS上は発生原価を期間費用として処理するとともに、当該原価(の全てまたは一部)の回収ができる範囲で収益を計上することになります(原価回収基準)。

2. 収益の測定

(1) 対価の額が未確定の追加工事等

建設業においては、発注者による指示に基づき、対価の額が未確定のまま追加工事等を進める場合があります。
日本基準では、当該追加工事等に係る対価について、信頼性のある見積りができる場合には工事収益総額に反映させますが、その見積りプロセスの具体的な定めはありません。
一方IFRS上、変動対価として、次の二つのステップに基づき見積りを行う必要があります。

ステップA:権利を得ることとなる対価の金額の見積り

期待値ないし最頻値のいずれか適切な方法により、変動対価を見積る。

ステップB:変動対価の見積りの制限

不確実性が解消される場合、重大な収益の戻入れが生じないように、変動対価を制限する。

この他、物価スライド条項に基づく追加見込請負金の見積りに当たっても、同様の検討を要すると考えられます。

(2) 重要な金融要素

工事契約の支払条件には、施工割合とおおむね比例する条件がある一方、工事期間の各期末における工事債権の回収まで1年超となる施工割合に比して支払条件が悪い場合があります。
日本基準では、完成工事未収入金の時価注記が求められているものの、会計処理への反映は求められていません(企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準 第40-2項)。
一方、IFRS上、工事契約に重要な金融要素が含まれる場合には、原則として割引計算を行い、契約金額から金利相当部分を区別して会計処理する必要があります。ただし、実務上の簡便法として、財またはサービスに対する支配の移転から、1年以内に顧客の支払いが見込まれる場合には、金融要素について考慮する必要はないとされているため、実務上は、この簡便法の適用の可否の検討が重要です。

3. 受注前コスト

建設業では、受注の前段階において次のようなさまざまな費用(契約獲得費用)が発生します。

  • 入札価格を算定するための積算費用
  • 注文の引き合いがあった際に、適正な価格で受注可能かを判断するための原価の積算費用
  • 設計費用
  • 測量等の調査費用

日本の実務では、受注の可否が判明するまでの間、仮払金等で資産計上されているケースがあります。
一方、IFRSでは、契約を獲得するための増分コストのうち、回収が見込まれるもののみを資産計上するとされています。ここで増分コストとは、契約を獲得していなければ発生していなかっただろうコストです。
契約獲得費用の多くは、受注の可否にかかわらず発生するため、発生時に費用処理されると考えられます。

Ⅲ おわりに

IFRS第15号が公表されたことにより、本基準について、各業界における実務適用上の論点の検討が進められています。
建設業界においても、懸念されている実務への影響を少しでも和らげていくために、本基準をはじめ、想定される各論点を正確に把握した上で、現実的な対応に落とし込むべく検討、整理を進めることが重要です。


  • Basis for Conclusions

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