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情報センサー2015年6月号 業種別シリーズ

投資事業有限責任組合に関する実務指針第38号の改正
-投資事業有限責任組合の財務報告の枠組みの整理に伴う改正ポイント

VC&ファンドセクター 公認会計士 佐々木浩一郎
ベンチャーキャピタルや投資事業組合の監査業務のほか、一般事業会社に対する業務にも従事。ベンチャーキャピタルやファンドに関する主な著書に『ベンチャーキャピタル&ファンドの会計実務』(中央経済社)、監修した資料に「プライベートエクイティ投資評価のベストプラクティス※1」などがある。日本公認会計士協会 業種別委員会 投資事業有限責任組合専門部会 部会長。

Ⅰ はじめに

日本公認会計士協会(JICPA)は、平成26年4月に監査基準委員会報告書(以下、監基報)800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」を公表し、特定の利用者のニーズに応じて、特別な利用目的に適合した会計の基準(財務報告の枠組み)に準拠して作成された財務情報に対する監査上の実務指針を明らかにしました※2。これに伴い、既存の法定監査として実施されている投資事業有限責任組合(以下、有責組合)においても、財務報告の枠組みの観点から検討し、この監査業務を「特別目的・準拠性」の枠組みとして整理することとなりました。これは、特に有責組合の会計の特徴である、保有する未上場株式を時価評価する必要があるが、どのように時価評価を行うかは組合員間の合意に基づく組合契約に定めることになっていること(中小企業等投資事業有限責任組合会計規則 第七条第2項、第3項)が、特別目的の財務報告の枠組みが意図する「特定の利用者」、すなわち組合員のニーズを満たすように策定されたものと解されるためです。
本稿では、有責組合の会計上及び監査上の取扱いを定めた業種別委員会実務指針第38号の改正論点について、解説します。なお、本文中の意見に関する部分は筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 実質的に変わらない点

「特別目的・準拠性」の枠組みとして整理され、後述のⅢに挙げるように実務指針自体にはさまざまな改定が加えられていますが、有責組合監査の基本となる次の事項に実質的な変更はありません。

1. 「準拠性」意見

従前より、有責組合の監査意見は「評価基準の組合契約への準拠性」と「財務諸表等が適正に作成」の2点で構成されていましたが、改正により一元的に「準拠性意見」とされています。ただし、適用される会計処理方法、表示方法についても基本的に変更はなく、監査の保証水準についても従前と変わりません。

2. 未上場株式等の時価評価は「回収可能価額」を斟酌(しんしゃく)

「時価」は組合員間の合意に基づく組合契約に定めるものの、組合員が評価時点で受取れると合理的に期待できる金額、すなわち回収可能価額で見積もる必要がありますが、この概念に変更はありません。

3. 有責組合における「継続企業の前提」の概念

設立当初から事業の存続期限が定められ、かつ関係者にそれが周知されている有責組合は、その期限までに資産の回収及び負債の返済を終え、組合財産を分配する責務を有しているという前提のもと、貸借対照表日の翌日から存続期限までの期間が一年未満となる場合、存続期間内での資産の回収及び負債の返済が完了されないおそれがある状況が「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況」に該当するとしていましたが、この概念にも変更はありません。

Ⅲ 主な変更点と解説

1. 例外的に投資証券の換金化が完了せずに存続期限が到来した場合の準拠性意見表明と「処分可能価額」

存続期限の到来時に、例外的に投資証券の換金化が完了せず、投資証券が残存するケースがありますが(Ⅱ. 3参照)、今般の「特別目的・準拠性」の枠組みとしての整理に伴い、その場合でも次の点に留意することで、準拠性意見の表明が可能なものとして整理されました。

(留意点)
  1. 速やかに換価処分されることを前提とした「処分可能価額」により評価されること
  2. 当該処分可能価額による評価方法は具体的に注記されること

これは、組合契約に定める有責組合の評価方法は、回収可能価額を斟酌するという基本的な考え方がある一方で、監基報800第9項の「重要な解釈」の考え方などを踏まえ、存続期限において処分可能価額の適用が可能と整理されたものとされています※3
通常事業年度における回収可能価額と存続期限における処分可能価額の関係は、<図1>のように整理されると思われます。


図1 回収可能価額と処分可能価額の関係

なお、本取扱いは有責組合の有期限性の観点から、存続期限までに組合事業は完了するという前提を一切変更するものではなく、あくまで例外的な事象に対する措置になります。例えば、売却先及び売却価額等の処分方針がほぼ決定しているにもかかわらず、存続期限を迎えざるを得なかった状況などへの対応であることに留意が必要だと考えます。
また、処分可能価額の適用に関しては、受入可能性の判断に関連して、実務上困難な場合を除き、監査契約の解除を検討する必要性の検討ならびに意見不表明、否定的意見の判断に関する記載もあるので、留意が必要です。

2. 「特別目的・準拠性」の枠組みにおける監査上の受入可能性の判断のための注記

特別目的の財務諸表に対する監査においては、適用される財務報告の枠組みが適切に記述されていることが前提となるため、(監基報800第11項)、次の有責組合特有の会計処理及び表示について注記の必要性を明確化しています。特に、(2)について、従来はその記載までは要求されていなかったため、留意が必要です。

  1. (1)受入可能性の前提となる注記として、冒頭に「1. 財務諸表等作成の基礎」の記載
  2. (2)組合契約で定める「投資資産時価評価準則」における「回収可能価額」とその概要を開示
  3. (3)有責組合での継続企業の前提の考え方、未実現損益の処理方法を記載

3. 監査報告書における配布・利用制限の記載

監基報800第14項の規定に従い、配布・利用の制限を想定した監査報告書の文例を付録として掲示しています。なお、有責組合の場合、財務諸表等について組合債権者に閲覧及び謄写が認められていること、さらに関係当局への提出も想定されているため、配布制限の文言に留意する必要があります。


  • ※1当法人ウェブサイトにてお申し込みが可能です。
  • ※2詳細は、本誌2014年8月・9月合併号(Vol.96)を参照
  • ※3平成27年3月31日 JICPA「業種別委員会実務指針第38号『投資事業有限責任組合における会計処理及び監査上の取扱い』の改正について(公開草案)に対するコメントの概要及び対応について」参照