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情報センサー2015年7月号 会計情報レポート

「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」の解説

会計監理部 公認会計士 吉田 剛
会計監査業務およびIFRS関連業務に従事するほか、監査部門等に対する情報提供・質問対応(コンサルテーション)などの業務にも従事。現在、日本公認会計士協会 会計制度委員会 実務指針等改正検討専門委員会の専門委員を務める。著書(共著)に『ケースから引く 組織再編の会計実務』(中央経済社)など多数。

Ⅰ はじめに

企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成27年5月26日に企業会計基準適用指針公開草案第54号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」(以下、適用指針案)を公表しました。
我が国の税効果会計の体系は、「税効果会計に係る会計基準」(平成10年10月 企業会計審議会)(以下、税効果基準)を中心とし、それ以外に日本公認会計士協会で作成された各種委員会報告が実務上の指針として機能しています。これらの委員会報告等をASBJへと移管するプロジェクトの中で、今回公開草案が公表された「繰延税金資産の回収可能性」に係る取扱いに関しては、現行の監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下、66号)に対する問題意識が特に強く聞かれることから、先行してその審議が進められてきたものです。
以下では、適用指針案の概要について、改正点を中心に解説します。なお、本解説は、あくまで本公開草案における提案を示しているものであるため、最終化された適用指針において、その内容をご確認ください。また、文中意見に係る部分は筆者の私見である旨、あらかじめ申し添えます。

Ⅱ 改正の概要

将来減算一時差異等(<表1>参照)は、将来回収が見込まれるもののみ、繰延税金資産として計上されます(税効果基準 第二 二)


表1 将来減算一時差異等の内訳

このため、いわゆる「繰延税金資産の回収可能性」を検討する必要がありますが、具体的には、次の要件を満たすことが必要とされています(日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」21項)。

  • 収益力に基づく課税所得が十分かどうか
  • タックスプランニングが存在するかどうか
  • 将来加算一時差異が十分かどうか

このうち、一番目に記載した「収益力に基づく課税所得が十分かどうか」については、66号の定めに従い、会社を(分類1)から(分類5)までの五つの分類に区分する取扱いとなっています。そして、それぞれの分類ごとに、具体的に計上すべき繰延税金資産の額の算定方法が決められているというのが現行ルールです。
今回の改正でも、このように会社を五つの分類に分け、それぞれの定めに従って繰延税金資産の額を算定するという基本的なルールに変わりはありません。しかし、硬直的な運用がなされていたとの意見が聞かれる(分類3)のときの見積可能期間の取扱いなどのように、企業の実態をより適切に反映するために、一部の定めについては見直しを行うことが提案されています(<表2>参照)。

(下の図をクリックすると拡大します)

Ⅲ 適用時期など

移管後の適用指針は、平成28年4月1日以後開始する年度の期首から原則適用とすることが提案されています。なお、併せて平成28年3月31日以後終了する年度の年度末からの早期適用を可能とする取扱いが示されています。
また、移管後の適用指針の適用が「会計方針の変更」に該当することから、適用初年度期首の影響額に関して、適用指針案では利益剰余金等に直接加減し、損益には計上しないとする取扱いが示されています。ただし、ASBJにおける審議の過程では、利益剰余金等に直接加減する取扱いへの反対意見もあったとされ、この点に関して、ASBJからコメントが求められています。

Ⅳ 今後の流れ

適用指針案は、約2カ月間(7月27日まで)のコメント募集期間の後、寄せられたコメントも受け、最終化に向けた審議が進められていくことになると考えられます。前述のように、3月決算の会社では当期(平成28年3月期)末からの早期適用が可能ということもあり、また、原則適用(平成29年3月期から)を予定している場合であっても、自社の決算への影響を早めに検討しておくことが必要と考えられます。