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情報センサー2015年7月号 業種別シリーズ

欧州自動車部品メーカーにおけるIFRS開示分析

自動車セクター 公認会計士 金丸哲也
2006年12月、当法人に入所し、製造業を中心に監査業務に従事するほか、国際会計基準(IFRS)導入支援業務等に携わっている。現在、主に自動車関連企業等のグローバル企業の監査業務を担当。

Ⅰ はじめに

国際会計基準(IFRS)を任意適用する企業が増加する中、国際的にビジネスを展開する自動車産業においても、今後IFRSの任意適用が増加することが見込まれます。
本稿では、IFRSを適用する欧州の自動車部品メーカー(主要メーカーより10社)を対象に、自動車部品メーカーに特有の論点について、2014年アニュアルレポートを基に開示分析を行います。

Ⅱ 開示分析

IAS第1号は、企業が利用者に財務諸表に使用した測定基礎(例えば、取得原価、現在原価、正味実現可能価額、公正価値または回収可能価額)を知らせることは重要だとしています(IAS1.118)。そして、経営者はIAS第1号に基づき、会計方針の開示を行うこととなります。自動車産業に特有の論点に関する開示は、次の通りです。

1. 収益認識

自動車部品メーカー、特にメガサプライヤーと呼ばれる企業においては製品の輸出取引が多く、その収益認識が重要な論点として挙げられます。
収益認識に関する会計方針の記載については、おおむねIAS第18号に記載の収益認識に関する要件に類似した記載となっていますが、具体的な収益認識基準を記載した事例も見られます。
例えば、フランス Faureciaの開示では、一般的に製品が船積されたときに収益が認識されるとしています。また、ドイツ Schaeffler AGでは、収益認識に関する要件を挙げた上で、通常は引き渡し日に収益認識の要件が満たされるとしています。
なお、自動車部品メーカーが下請けメーカーへ部品や原材料を有償支給して加工を依頼する場合、これらの取引を純額取引とするかといった論点などが考えられます。しかし、純額表示の論点に関しては、値引きや割戻後の純額で表示されるとの記載はあるものの、有償支給に関する明確な方針が記載されている事例は見られませんでした。一方、値引きや割戻に関し、予想されるリベートなどについて控除もしくは引当て処理をするとした開示が、ドイツ BASFで見られます。

2. 開発費

IAS第38号は、一定の要件を満たす開発費に関し、自己創設無形資産として計上することを求めています。
IAS第38号の記載に準じた要件を記載し、それを満たす開発費について、無形資産として計上する旨を会計方針に開示するケースが多く見られます。その中で、比較的詳細に記載がなされているのは、ドイツContinental AGの事例です。

Continental AG
研究開発費
(前略)
自動車部品製造(OEM) のための新規開発は、Continental AGが特定の車両、もしくは車種のサプライヤーとして指定され、かつ試作品をリリースするまで市場性がありません。特に、快適性および安全性に高い要求が課される場合には、試作品のリリースが製品の技術上の実行可能性を立証する必要条件となります。従って、開発費は、サプライヤーとして指名され、かつ特定の試作品をリリースした時より資産として認識されます。また、開発は、無条件の量産が最終的に承認された時に完了したとみなされます。このように、限られたごくわずかな開発プロジェクトのみが認識の要件を満たすこととなります。(後略)
※ 訳:筆者

なお、自己創設無形資産として認識された開発費については、10社中5社が無形資産の注記において開発費を別掲しています。大手各社の包括利益計算書における研究開発費と、財政状態計算書において無形資産として認識された開発費は<表1>の通りです。

(下の図をクリックすると拡大します)


ここで特筆すべき点は、多くの企業で包括利益計算書に機能別分類を採用しているにもかかわらず、試験研究費のみ別掲している点です。IAS第38号では、費用に認識した研究開発支出の合計額を開示しなければならないとされていますが、試験研究費については注記としてではなく、包括利益計算書において別掲をしています。さらに、10社中6社が注記において研究開発費の内訳を注記しています。このような点から、各社がいかに試験研究費および開発費を重要視しているかがうかがえます。

3. その他

日本基準とは異なり、複数の選択肢が示されているIFRSの各財務諸表における取扱いは、次の通りです。
財政状態計算書に関して、多くの企業(10社中8社)が固定性配列法を採用している点は装置産業である自動車部品製造業に特徴が見られると考えられます。
また、包括利益計算書における1計算書方式/2計算書方式及び機能別分類/性質別分類の選択については、ほとんどの企業(10社中9社)が2計算書方式及び機能別分類を採用しています。
キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローは、いずれの企業も間接法によって作成されています。ただし、出発点となる損益については各社ばらつきが見られ、10社中税金控除前損益を出発点としている事例が2社、税金控除後損益を出発点としている事例が4社、さらにEBITを出発点としている事例が3社でした。

Ⅲ おわりに

IFRSでは経営者の判断によるところが多く、各社各様の開示がなされています。今後IFRSの適用を検討する際には、その趣旨を理解した上で、その取引の実態に応じた会計処理および測定について、適切な開示を財務諸表利用者に示すことが重要と考えます。


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