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情報センサー2015年8月・9月合併号 特別対談-新日本人-

企業と社会の課題解決に向けて

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EY ジャパンエリア
アシュアランスリーダー
新日本有限責任監査法人
経営専務理事 大木一也(写真左)
フリーキャスター
菅原美千子(写真右)

「グローバル対応」と「監査改革」がキーワードです。


さらなるチャレンジが期待される日本企業

菅原
日本の会計業界をリードするエグゼクティブパーソンの視点に迫る「特別対談―新日本人―」。今回は、経営専務理事の大木一也さんに、これからのEY Japanと課題解決への取り組みについてうかがいます。さて、昨今は株式の時価総額がバブル期を上回るなど明るいニュースが報じられていますが、クライアントサービス本部長でもある大木さんは、EYJapanとクライアントを取り巻く環境をどう捉えているのでしょうか。
大木
確かに世界経済は上向いてきていますが、地域による温度差がありますね。例えば、北米は非常に良いけれど、欧州はやや厳しい。中国は以前ほどではありませんが、まずまずです。そうした中、日本はアベノミクス効果もあって、株や為替は好調で、GDPの成長率も2%を上回っています。ただ、底堅さ、力強さまでにはいっていないのではないかと思います。日本企業には、まだまだチャレンジが必要な状況ではないかと思います。その一つとして、日本の大企業も中小企業も、その多くが海外への進出にチャレンジしています。
菅原
もちろん、海外進出は大きなチャレンジですが、株価が上がり金融緩和も継続している現在、起業も増えているのではないでしょうか。
大木
そうですね。リーマンショックの翌年となる2009年の新規公開株(IPO)は20社弱でしたが、14年には70~80社。今や、IPOは年間100社の時代に入ったとも言われます。ここ数年で、日本でも起業家が活躍できる土壌ができたと言ってよいでしょう。当法人としてもIPOのサポートは重要なミッションですから、さらに力を入れていかなければと考えています。
菅原
企業が積極的に海外に進出し、IPOが年間100社となると、人材不足が懸念されるのではないでしょうか。
大木
優れた人材の確保と育成は、「会計プロフェッションへの貢献度ナンバーワン」を目指す当法人としても、大きなテーマです。毎年300人前後を継続的に採用し、優れた専門家に育て、監査だけでなく税務やアドバイザリー、あるいは企業内の財務部門など、多分野で活躍できる会計プロフェッショナルを輩出していきたいと考えています。

万全の体制でクライアントをサポート

菅原
現在の活発な経済状況下において、クライアントはどんな経営課題に取り組み、どんなサポートを求めているとお考えですか。
大木
クライアントの課題は、裏を返せばわれわれへのリクエストです。その視点から言えば、「グローバル対応」と「監査改革」がキーワードになるでしょう。「監査改革」に対しては、EYがここ数年で「オーディットトランスフォーメーション」というプロジェクトで対応しています。オーディットトランスフォーメーションとは、ステークホルダーのニーズ合致した監査サービスへの変革を目指しています。例えば、監査業務全体をマネジメントする新しいシステムを開発したり、より高度なデータ分析を行うなどにより、ステークホルダーにとって真(しん)に役立つ監査サービスを提供するもので、これをEY Japanでも導入していきます。
菅原
クライアントの課題をサポートしていく万全の仕組みを整えていこうというわけですね。
大木
EYが掲げる大目標「Vision 2020」の中に、「エクセプショナルクライアントサービス(ECS)を提供する」という項目があります。これは、クライアントに最適なチーム編成を行い、タイムリーかつ継続的に優れたサービスを提供するのみならず、先見性を持ってアドバイスを行っていこうということです。
菅原
そうなると、先ほど挙げられたキーワード「監査改革」も含まれてきますね。
大木
クライアントが直面する課題だけでなく、今はまだ見えていない将来の課題にも対応していくことによって、アシュアランスリーダーとしてクライアントの期待にお応えしていく所存です。

業界のリーダーであり続けるためには日々変化していくことが重要です。


PPPや震災復興支援にも尽力

菅原
ところで、私は今回初めて知ったのですが、EY Japanは官民連携パートナーシップ(PPP)にも関与しているそうですね。具体的にどのような取り組みなのでしょうか。
大木
空港や上下水道、道路などは、これまで国や地方自治体が建設し、運営もしていましたが、インフラの効率化、財政負担等の観点から限界があります。そこで民間の力を入れていこうというのがPPPの基本的なアイデアです。例えば、設備の建設・保有は官が行うけれど、運営は民が行うことで、事業の収益性を高め、活性化しようというプロジェクトです。EY Japanが取り組んでいるのはその企画提案と、プロジェクトマネジメントサポートです。
菅原
民間が参加し、そこにEY Japanのような監査機関も関与することで、国や地方公共団体の無駄遣いがあれば是正され、財政の透明性が保たれるわけですね。
大木
さらには、収益が生まれるオペレーションを実現していく狙いです。
菅原
年次報告書には仙台空港の案件が出ていましたが、これはやはり震災復興支援の意味合いもあるのでしょうか。
大木
そうですね。PPPに限らず、東北の復興支援はわれわれも積極的に行っていきたいと思っています。先日も、東北ブロック長の話を聞く機会がありましたが、福島の起業家をサポートすることで復興に役立ちたいと語っていました。また、東北復興応援のためのチャリティーリレーマラソンのように、被災地と東京の中学生が1本のたすきをつなぐイベントに特別協賛し、伴走者や運営ボランティアとして参加しています。

アシュアランスリーダーであり続けるために

菅原
クライアントのサポートや社会貢献など、さまざまな取り組みについてうかがってきましたが、大木さんは、EY Japanがこれからも業界のリーダーであり続けるために何が必要だと考えますか。あえて他ファームと比較した場合、何か足りないものがあるとお考えですか。
大木
あえて一つ挙げるとしたら、アグレッシブさでしょうか。例えば、先ほどお話したエクセプショナルクライアントサービス(ECS)という観点では、われわれは適時性や先見性を重視しています。しかし、クライアントからリクエストされていない部分にも積極的に出て行って、結果的に自分たちのビジネスにつなげるということには、やや控えめな気がします。それが私どものカラーなのかもしれません。しかし、良さは失わないようにしつつ、もう少しスパイスを利かせていくことも考えなければいけないのかなと思います。
菅原
柔らかさの中にもピリッとさせていくということですね。
大木
大木一也氏
業界の中で自らをどのように位置付け、どういったコンピテンシーを持ち続けるかについては、継続的なディスカッションが必要ですが、いずれにしても現状に甘んじていてはいけません。一般の企業でいわれているのと同じく、われわれも日々変化していくことが、業界のリーダーであり続けるために欠かせない努力だろうと思います。
菅原
現状に甘んじることなく成長していくためには、やはり日々の積み重ねが重要ですよね。
大木
そうです。われわれの目指す成長は、売上を増やすことだけではありません。さまざまな意味で、われわれとクライアント、そして社会全体がより良くなっていくことです。あるいは、形骸的な成長ではなく、本質的な成長と言い換えることができるかもしれません。組織としても、個人としても、少しずつでも確実に変えていくということにコミットし、そこにアグレッシブにならなければいけないと思います。

気分転換や休息は大切です。
無理をして働いても良い発想は浮かびません。


高校球児から一転して財務会計の道へ

菅原
さて、ここからは、大木さんの「人間力」に迫ってみたいと思うのですが、まず、大木さんが会計士になったきっかけを教えていただけますか。聞くところによれば、小中高と野球に打ち込まれていて、甲子園大会出場の経験もお持ちだそうですが、野球少年が公認会計士を目指したきっかけは何なのでしょうか。
大木
大きな転機があったわけではなく、大学に進学するに当たり、何かしっかりした資格を取ろうと思ったのです。小学生のころソロバンを習っていたこともあり、数字が好きだったので、どうせなら難易度の高い公認会計士、という選択だったと思います。ところが、入学したら気が緩んでしまい、3年になってから慌てて勉強して、何とか在学中に合格しました。
菅原
驚異的な集中力ですね。卒業後は、EYの前身となるアーサー・ヤングに入られていますが、若手時代の思い出などありましたら、教えてください。
大木
英語では苦労しました。帳簿に「pension cost」と書かれていたので、ペンションを持っているのですかと聞いたこともあります。その後、勉強して海外赴任が務まる程度にはなりましたが、英語はどこかの段階でしっかり学ばないと厳しいですね。
菅原
海外赴任はニューヨークでしたね。いつ頃のことですか。
大木
1994年から99年の5年間です。上の子が1歳半の時に行って、下の子が向こうで生まれました。
菅原
業務内容やクライアントとの関係性などで、日本とは違うところ、日本でも取り入れたほうが良いと感じたことはありますか。
大木
担当クライアントが日系企業だったこともあり、業務内容で大きく違う点はありませんでした。ただ、関係は非常に密接で、日本ではクライアント内で処理されるようなことでも、アドバイスを求められることが多かったです。社内の陣容が日本国内より薄いですから、必然的に社外のプロフェッショナルに頼ることになるのでしょう。こうしたことから、米国ではさまざまなサービスラインが一体となってクライアントをサポートすることの大切さを経験しました。こうした体制は、日本でも目指すところです。

オンとオフを意識的に切り替える

菅原
経営専務理事として、クライアントサービス本部長として、日々ご多忙を極めていると思いますが、気分転換はどのように図っているのでしょうか。
大木
私の場合は、身体を動かすことで気分をリフレッシュさせています。それと、疲れた時は無理をしないで休むようにしています。働き続けてしまうと、どうしても疲れがたまっていくので、オンとオフのスイッチを意識して切り替えています。
菅原
菅原美千子氏
最近、レジリエンス(復元力)という言葉をよく耳にしますが、大木さんのレジリエンスは、気持ちの意識的な切り替えから生まれるのですね。昔からそのようなワークスタイルだったのでしょうか。
大木
全く逆で、パートナー初期の頃は土日も働いていました。でも、無理をしても良い発想は浮かばないことが分かってからはやめました。これは、若い方にもぜひアドバイスしたいことですね。
菅原
意識的に休むのは簡単ではないですよね。レジリエンスの高い人は、長く走れるそうですが、柔軟にワークスタイルを変える大木さんは、レジリエンスも相当高いのではないでしょうか。末永いご活躍に期待します。本日は、どうもありがとうございました。

情報センサー 2015年8月・9月合併号