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情報センサー2015年8月・9月合併号 業種別シリーズ

ドラッグストア業界の現状と調剤事業の概要

小売セクター 公認会計士 田村智裕
2007年8月に当法人に入所。小売業、建設業、不動産業、卸売業などの分野に関する大手企業の会計監査や株式上場支援業務に従事。その他、IFRS導入アドバイザリー業務や書籍執筆、セクターナレッジ活動にも携わっている。

Ⅰ はじめに

少子高齢化が進む日本社会において、ドラッグストア業界が果たす役割に対する期待が高まっています。安倍内閣の日本再興戦略の中で「国民の健康寿命の延伸」がテーマとなり、軽度な身体の不調は自分自身で手当てするというセルフメディケーションの推進が掲げられています。健康増進や予防および生活支援を担う市場・産業を創出・育成する必要性が提起され、ドラッグストアには地域のヘルスケアステーションとして、セルフメディケーションの推進拠点となることが求められています。

Ⅱ ドラッグストア業界の現状

日本チェーンドラッグストア協会によると、2013年度の市場規模は6兆円超と成長を続けています。主力企業の業績も軒並み成長路線にありました(<図1>参照)。

(下の図をクリックすると拡大します)


しかし、業界内での激しい出店競争や、一般用医薬品の登録販売者制度開始やインターネット販売解禁などの規制緩和による異業種参入を背景に、国内市場は飽和化しつつあります。また、販売価格戦略、取扱品目の増加、調剤併設店舗の増加、コンビニエンスストアとの融合店舗などの新業態開発、介護事業等の医療関連分野への進出など、差別化を図る戦略は各社各様ですが、戦略の巧拙が業績の明暗を分けはじめています。さらに、地域一帯の商圏獲得を狙った企業買収などによる業界再編も加速しています。大型のM&A案件が頻発し、業界地図は瞬時に一変する様相です。

Ⅲ ドラッグストアと調剤事業

1. 調剤事業の位置付け

ドラッグストア業界の収益モデルの一つに、低粗利ながら日常生活に必要な食品・日用雑貨類で集客を確保し、相対的に高粗利率の医薬品・化粧品類で収益を稼得するモデルがあります(<図2>参照)。しかし、近年は消費の低迷により、主力品目である医薬品・化粧品類の売上が伸び悩み、苦戦する企業も見受けられます。その中でも成長を続けているのが、医薬品類の調剤事業です。


図2 品目別売上高割合

2. 点分業と面分業

日本の医薬分業の過程で、初めに増加したのは門前薬局でした。門前薬局とは、大病院の周囲に開設され、その病院の処方箋を取り扱う薬局であり、点分業型の薬局といわれます。しかし、昨今は少子高齢化や狭商圏化により、各地域に開設され、不特定多数の病院の処方箋を取り扱う面分業型の薬局が増加しています。
調剤併設型のドラッグストアは、面分業型の薬局として患者の服薬状況を一元管理する、かかりつけ薬局の機能を有するとともに、地域に密着した健康情報の発信基地となっています。また、過疎化や高齢化により日常の買物が困難な状況にある買物弱者のニーズにも対応します。そのため、ドラッグストアはセルフメディケーションの推進に必要不可欠な存在であり、この業界の大きな特色・強みといえます。

3. 調剤売上の構造

調剤売上は、調剤技術料、薬学管理料および薬剤料等で構成され、厚生労働省が定める調剤報酬点数表(原則2年ごとに改定)により計算された合計点数に、1点当たり10円を乗じて算定されるものをいいます。
保険適用の調剤売上は、患者負担分と患者が加入する健康保険組合などへの請求分に分けて管理されます。前者は主に店頭での現金売上ですが、後者は売上時点で売掛金として計上されます。調剤事業者はレセプトといわれる診療報酬明細書を社会保険診療報酬支払基金などの審査機関に提出し、認可された請求分が、健康保険組合などから審査機関を通じて、調剤事業者に支払われます。

4. 薬価改定に関する会計上の留意点

薬価改定は、薬剤料の基礎となる薬価を市場価格に合わせるために行われます。一般的に市場価格は自由競争により年々下落するため、薬価も改定の度に引き下げられていることから、調剤事業を営む企業の経営成績に直接的な影響を及ぼします。
ここで、薬価改定時期に仕入単価が未確定のまま、医療用医薬品の仕入が行われることがあります。この場合、会計上は仕入単価に薬価改定に伴う仕入価格改定の影響を適切に反映させる必要があります。
また、改定により薬価が大きく引き下げられた品目が棚卸資産に計上されている場合は、正味売却価額が貸借対照表価額を下回ることにより、収益性の低下に伴う評価減の計上が必要となる可能性があります。

5. 調剤売上に関する税務上の留意点

消費税法上、保険適用の調剤売上は非課税取引となります。これに対して、医療用医薬品の仕入取引は課税取引となります。調剤売上の増加に伴う課税売上割合の低下や消費税率の引上げにより、控除対象外消費税が増加する場合には、企業の経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

Ⅳ おわりに

15年3月に経済産業省が公表した報告書の中で、ドラッグストアの社会的・経済的役割が示されています。国家戦略や超高齢化社会の到来と相まって、事業環境や経営戦略はさらに多様化し、競争はこれまで以上に激化すると見込まれますが、ドラッグストア業界のさらなる躍進が注目されます。


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