刊行物
情報センサー2015年11月号 会計情報レポート

税効果会計に関する論点の解説

会計監理部 公認会計士 山澤伸吾
2006年に当法人に入所以来、監査業務に従事。現在は監査業務のほか、会計監理部で監査部門からの会計処理に関する相談を受ける業務および会計に関する情報提供などの業務に従事。著書(共著)に『ケースから引く 組織再編の会計実務』(中央経済社)がある。

Ⅰ はじめに

企業会計基準委員会(ASBJ)において、現在、税効果会計に関する適用指針の開発が審議されており、日本公認会計士協会(JICPA)の実務指針から移管するに当たって、実務上のさまざまな課題が洗い出されてきました。その中で、繰延税金資産の回収可能性に係る取扱いに対する問題意識が特に強く聞かれることから、先行して審議が行われています。また、その他の課題についても、適用指針として開発していく予定であるとされており、ASBJとその税効果会計専門委員会において、早急に対応すべき論点が挙げられています。
本稿では、早急に対応すべきものとして挙げられた税効果会計に関する論点について、概要を解説します。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 論点の概要

1. 開示に関連する論点

公表されている公開草案「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」では、開示に関する定めを設けるには、相当程度の時間を要する可能性がある等の理由から、注記事項を追加する提案は行われませんでした。しかし、現行の「税効果会計に係る会計基準」において定められている注記事項だけでは、繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性を分析できないという意見が、財務諸表利用者から聞かれています。
今後の審議においては、繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性に対する財務諸表利用者の理解に資するものとして、どのような注記情報が有用なものとして開示される必要があるか、企業にとっての注記作成コストとベネフィットの観点も踏まえて検討されると思われます。

2. 税効果会計に適用される税率(公布日基準)の取扱い

現行の「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下、個別税効果実務指針)において、改正税法が決算日までに官報にて公布されて、将来の税率が確定されている場合、改正後の税率を税効果会計に適用することが明示的に定められています。このいわゆる公布日基準に対して、官報にて公布されていなくとも期末日までに改正税法が国会で成立したのであれば、改正後の税率を適用した方が期末日における企業の実態を表すのではないかという意見が聞かれています。
今後は公布日基準を変更するとしても、税制改正の過程のどの時点を基準として適用する税率を決定するのかが、検討されると思われます。

3. 子会社の留保利益に係る税効果

子会社の投資に係る将来加算一時差異の取扱いについては、個別税効果実務指針と「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」で差異が生じています。具体的には、個別上は将来加算一時差異について原則として繰延税金負債を認識する(後述5. (2)参照)のに対し、連結上は留保利益のうち、売却により解消する一時差異について、親会社が子会社の売却を親会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に売却を行う意思がない場合には、繰延税金負債を認識しないと定められています。このとおり、個別上と連結上で異なる定めになっていることから、早急に対応すべき論点として取り上げられています(<図1>参照)。今後、個別と連結で取扱いを合わせるのかが検討されると思われます。

(下の図をクリックすると拡大します)


4. 未実現損益の消去に係る税効果(繰延法か資産負債法か)

未実現損益の消去に係る税効果については、税効果会計の原則とされる資産負債法とは異なり、売却元の売却時点の税率を用いる繰延法が採用されています。繰延法によれば、売却元の売却時の課税所得に基づき計上額が制限される代わりに、回収可能性又は支払可能性の判断が行われません。しかし、このような例外を設けるべきではないという意見が出ており、早急に対応すべき論点として取り上げられました。今後は、未実現損益の消去に係る税効果について原則とされる資産負債法に統一するか、このまま例外として維持すべきか検討されると思われます。
なお、資産負債法に統一した場合、連結決算のために必要な情報が変わる点(<表1>参照)については、留意する必要があります。


表1 未実現損益の消去に係る税効果を連結上計上するために必要な情報

5. その他の論点

前述のほか、早急に対応すべきものとして、次の論点が挙げられています。

(1) 連結納税と企業結合における税効果会計の整合性

連結納税加入と吸収合併は、法人税について一体の納税主体となる点で類似するにもかかわらず、繰延税金資産の回収可能性に係る取扱いが異なることから、両者の平仄(ひょうそく)を合わせるかが検討事項として挙げられています。

(2) 繰延税金負債の支払可能性

個別税効果実務指針上、繰延税金負債を計上しない場合について、「会社が清算するまでに明らかに将来加算一時差異を上回る損失が発生し、課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合」であると極めて狭く解釈されています。この取り扱いをASBJで開発する適用指針に引き継ぐかが検討事項として挙げられています。

(3) 関連会社の留保利益等に係る税効果

持分法適用会社の留保利益に係る税効果については、国際会計基準(IFRS)における取扱いとの文言レベルでの違いを合わせる必要があるかが検討事項として挙げられています。


  • 繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳、評価性引当額、重要な税率差異の原因となった主要な項目別の内訳

情報センサー 2015年11月号