刊行物
情報センサー2015年12月号 会計情報レポート

経営者の見積りと会計監査

会計監理部 公認会計士 山岸 聡
監査業務を主とするが、品質管理本部 会計監理部の業務も兼務。より監査の現場に近い目線からのナレッジ情報発信を行っている。

Ⅰ 会計上の見積り

財務諸表に計上される一部の項目は正確に測定できず、見積りが必要になる場合があります。会計上の見積りとは、正確に測定することができないため、金額を概算することをいいますが、特に経営者が財務諸表で会計上の見積りとして認識又は開示するために選択した金額を、経営者の見積額といいます(監査基準委員会報告書(以下、監基報)540 会計上の見積りの監査 第2項、6項)。
会計監査では、この会計上の見積りに関する経営者の判断及び決定の監査に多くの時間を費やしていますが、今回は、その中でも一般的に見積りの要素が多い、固定資産の減損会計における将来キャッシュ・フロー等の見積りに関して取りあげます。

Ⅱ 固定資産の減損に係る会計基準と見積りの関係

固定資産の減損とは、資産の収益性低下により投資額の回収が見込めなくなった状態で、減損処理とはそのような場合に、回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理です。具体的には、固定資産の帳簿価額と将来キャッシュ・フローを比較して、帳簿価額よりも将来キャッシュ・フローの方が小さい状態をもって投資の回収が見込めないと判断します。
この将来キャッシュ・フローを見積もるにはさまざまな前提があり、大きく分けると、①投資の回収を図る単位②将来キャッシュ・フローを見積もる期間に関する要素があります。どちらも経営者の関与が大きいと考えられている部分です。 (<図1>参照)

(下の図をクリックすると拡大します)


1. 資産のグルーピング

固定資産の減損に係る会計基準 二 6. 資産のグルーピング(1)資産のグルーピングの方法では、「...資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行う。」とされています。実務的には、「...管理会計上の区分や投資の意思決定を行う単位等を考慮して定めることになると考えられる。」(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(以下、減損適用指針)第7項)、とされている点が、経営者が関与する部分です。
一般的に、資産のグルーピングをより細かく設定すると、益と損が相殺できない部分が生じるため、減損損失を認識する機会が多くなり、逆に大きく設定すると、減損損失を認識する機会が少なくなるため慎重に検討する必要があります(<設例>参照)。


設例

2. 減損の兆候

減損の兆候とは、資産グループに減損が生じている可能性を示す事象で、減損の兆候が把握された場合に、減損損失を認識するかどうかの判定を行います。
減損の兆候は減損適用指針の第11項から第17項に規定がありますが、あくまでも例示です(減損適用指針第76項)。つまり、個々の企業の状況に応じた具体的な事象を減損の兆候として把握する仕組みを構築する必要があり、仕組みがないと内部統制の観点から問題になることがある点に留意が必要です。

3. 減損損失の認識の判定

減損の兆候が把握されると、企業は取締役会等の承認を得た中長期計画の前提となった数値を、経営環境などの企業の外部要因に関する情報や内部の情報を整合的に修正して将来キャッシュ・フローを見積もります。監基報540 A21では、「経営者は、財務諸表を作成するために、適切な内部統制を含めた会計上の見積りを行う財務報告プロセスを構築する必要がある。」とされています。
ここで、留意すべきことは、主要な資産とそれに基づく将来キャッシュ・フローの見積期間です。主要な資産とは、資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産で(減損適用指針第22項)、主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方の期間が将来キャッシュ・フローを見積もる期間になります(減損適用指針第37項)。つまり経営者は、主要な資産の決定とは、将来キャッシュ・フローを見積もる期間を決定することでもあると認識し、これを決定しなくてはなりません。
経営者が主要な資産を決定し、その経済的残存使用年数が10年であれば、将来キャッシュ・フローは10年間見積もることになります。中長期計画が5年間存在するのであれば、当初の5年はこれを前提に見積もり、6年目から10年目は、それまでの計画に基づく動向を踏まえた一定又は逓減する成長率の仮定をおいて見積もることとされます(減損適用指針第36項(3))。

4. 減損損失の測定

割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回る結果となった場合、減損損失を認識します。減損損失の測定とは、この割引前将来キャッシュ・フローを現在価値まで割引く計算を行うことをいいます。一般的に、割引率を高く設定すると現在価値は小さくなり、測定される減損損失の金額は大きくなります。
また、減損損失を計上した後も減価償却を継続させますが、経営者の観点からすると、将来に残す償却負担額を決めるのが減損損失の測定という重要な手続きでもあると認識されているかもしれません。

Ⅲ おわりに

固定資産の減損に係る会計基準は、将来キャッシュ・フローの見積りが経営者の見積りに関する論点であると理解されている向きがありますが、実はもっと広く、この周辺に経営者のさまざまな意思が入り込んでいます。今号で述べたそれぞれの要素は全て測定された減損損失と関係があります。減損損失の金額を監査することとは、これらの要素の整合性を確認し、なぜ減損に至ってしまったのかを経営者の方々と一緒に整理するような意味もあると筆者は思っています。


情報センサー 2015年12月号