刊行物
情報センサー2015年12月号 EY Institute

開示後に求められるコーポレートガバナンス・コード対応
-特に注目度が高い原則の取り組みにおける重要ポイント

EY総合研究所(株) 未来経営研究部 主席研究員 藤島裕三
1994年、慶應義塾大学大学院法学研究科修了後、同年に株式会社大和総研入社。企業調査部アナリスト、経営戦略研究部 主任研究員、企業経営コンサルティング部 副部長などを経て、2014年5月、EY総合研究所(株)入社。コーポレートガバナンス、IR、敵対的買収対応を専門分野とする。著書に『コーポレートガバナンス・マニュアル 第2版』(共著、中央経済社)、『Q&A コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップコード』(共著、第一法規)などがある。

Ⅰ 問題の所在

東証は2015年6月1日より「コーポレートガバナンス・コード」(以下、コード)の適用を開始しました。これによって上場会社は、新書式によるコーポレートガバナンス報告書において、コードの対応状況を記載する必要があります。
コーポレートガバナンス報告書が求めている記載は、「コードの各原則を実施しない理由」と「コードの各原則に基づく開示」です。前者はコード各原則のうち実施しないものがある場合に、当該原則を実施しない理由(エクスプレイン)を記載するものです。そのため、全原則を実施(コンプライ)する場合は不要となります。一方で後者は、「特定の事項を開示すべきとする原則」(以下、開示11原則)につき、どのように実施しているか記載しなければなりません※1
従って、企業におけるコード対応としては、まず開示11原則に重点を置いて検討しているケースが多いものと考えられます。一方で、その他原則※2については、エクスプレインしない限り記載は義務付けられないため、「コンプライの程度」に大きな差が生じている可能性があります。極端なケースとしては、十分な検討がなされないまま「コンプライしているもの」と片付ける企業も存在するかもしれません。
ただし、開示11原則は単独で意味を持つわけではなく、その他原則とも密接に関係しています。そのため、機関投資家と開示11原則について対話する中で、その他原則に話が及ぶケースは十分に想定されます。その場合、前記「極端なケース」の企業では、対応不足が露呈する恐れは否定できません。さらに開示11原則は現状を記載して終わりではなく、各社におけるコーポレートガバナンスの改善活動を踏まえて、記載内容を継続的に見直す必要があります。すなわちコード対応において、コーポレートガバナンス報告書の開示は初期対応にすぎないといえます。
開示11原則から特に注目度が高いと思われる以下の四つにつき、その他原則との関連性を踏まえて、どのような取り組みが開示後に求められるかを考察します。

原則1-4. いわゆる政策保有株式
原則3-1. 情報開示の充実(ⅲ)役員報酬
補充原則4-11③. 取締役会の実効性評価
補充原則4-14②. 役員トレーニング

Ⅱ 原則1-4. いわゆる政策保有株式

上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。

政策保有株式について原則1-4は、①保有方針の開示②中長期的な経済合理性や将来見通しの検証③検証を反映した保有のねらい・合理性の説明④議決権行使基準の策定・開示、の4点を求めており、開示事項は①と④に限定されます。もっとも同原則の趣旨を整理し直すと、取締役会で毎年②を実施することを前提に、機関投資家と③を巡って対話することで、①と④の開示、ひいては政策保有自体の継続的な見直しにつなげる、といった内容になります。従って、同原則において最も重要な位置付けにあるのは②と考えられます。
②中長期的な経済合理性や将来見通しの検証を実施する際においては、「資本政策の基本的な方針」(原則1-3)、「資本効率等に関する目標」(原則5-2)を意識する必要があります。そもそも政策保有株式は事業に直接貢献しない非事業資産で、極端に配当利回りが高くない限り、資本効率性の重要指標であるROE(自己資本利益率)を押し下げます。政策保有株式の検証なくしてROE重視を訴えても説得力不足でしょう。
また、この検証は取締役会で実施することが求められており、「2人以上の独立社外取締役」(原則4-8)に期待される「少数株主の意見を適切に反映させる役割」(原則4-7)が問われます。機関投資家はじめ少数株主にとって政策保有株式は、ROE低下のみならず安定株主化という観点からも、許容し難い慣行との見方が根強くあります。政策保有株式の検証において独立社外取締役が期待される役割を果たせるかは、機関投資家によって大いに注目されています。
このように、政策保有株式はコーポレートガバナンスの主要論点(ROE重視、独立社外取締役)が色濃く反映されるテーマであり、原則1-4の②検証はコーポレートガバナンスに対する各社の「本気度」を測る格好の取り組みといえます。最も重要なこととして、単に検証すればよいのではなく、政策保有株式の売却といった具体的なアクションにつながることが求められます。そのようなアクションに踏み出せるか、また実質が伴ったものとできるかは、自社コーポレートガバナンスの実効性に信認を得るための試金石といえるでしょう。

Ⅲ 原則3-1. 情報開示の充実(ⅲ)役員報酬

上場会社は、法令に基づく開示を適切に行うことに加え、会社の意思決定の透明性・公正性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、(本コードの各原則において開示を求めている事項のほか、)以下の事項について開示し、主体的な情報発信を行うべきである。(ⅲ)取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続

主体的な情報発信を求める原則3-1の項目として、役員報酬の決定方針および手続が挙げられています。同原則は方針や手続の内容について言及していないため、方針については有価証券報告書が求める「報酬等の額またはその算定方法に係る決定方針」と同じ記載、手続に関しては「取締役会で決定」程度の記載でも要件は満たすことになります。
一方で、経営陣の報酬については「中長期的な業績と連動する報酬の割合」や、「現金報酬と自社株報酬との割合」を適切に設定すべきとあります(補充原則4-2①)。また報酬決定の手続に関しては、「独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会」の設置が例示されています(補充原則4-10①)。これらから原則3-1の記載に際しては、役員報酬において業績連動や自社株を活用する方針、および独立社外取締役の関与で説明責任を強化した手続につき、明らかにすることが望ましいという方向性が透けて見えます。
特に業績連動型報酬の設計においては、評価指標が最も重要な要素といえます。投資家目線で考えた場合は、ROEやTSR(株式総合利回り)などが挙げられます。一方で役員報酬が「持続的な成長に向けた健全なインセンティブ」(補充原則4-2①)として機能するためには、成長ステージや事業特性を反映したKPI(重要業績指標)を、各企業さらには各役員に応じて設定することを検討するべきでないでしょうか。中長期的な業績と連動させるためには、複数年度の平均値や中期経営計画の達成度で評価することが考えられるでしょう。
「健全なインセンティブ」としての役員報酬とは、取締役会が決定した「会社の目指すところ」「具体的な経営戦略や経営計画」(原則4-1)の実現に資するよう、その進捗(しんちょく)度や達成度に優れて連動するものだと考えられます。従って、全ての企業に適用可能な報酬制度など存在しないはずであり、むしろ報酬制度は企業独自の価値観や将来像を映す「鏡」であるべきでしょう。自社に最適な役員報酬スキームを検討することが望まれます。

Ⅳ 補充原則4-11③. 取締役会の実効性評価

取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。

前述した政策保有株式の検証(原則1-4)と同様に、取締役会で毎年実施すべきとされているのが、補充原則4-11③が求める「取締役会全体の実効性について分析・評価」することです。同原則はわが国の慣行に馴染(なじ)んだプラクティスとは言い難く、開示11原則の中でもエクスプレインとする事例が目立っており、コンプライでもコードが想定している実態が伴っているとは考えにくい開示が散見されます。特に同原則は「結果の概要」を開示することを求めていますが、不十分な記載にとどまるケースが少なくありません。
同原則は「各取締役の自己評価」を実施手法の例に挙げており、具体的には各取締役を対象にアンケートやヒアリングを実施することが考えられます。その際に聴取する項目は、取締役会の役割・責務として掲げられている、「会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、戦略的な方向付けを行う」(原則4-1)、「経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行う」(原則4-2)、「独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行う」(原則4-3)、ことを確認するものであるべきでしょう。
ただし、取締役会が果たすべき役割・責務は、各社が構築すべきコーポレートガバナンスの在り方によって異なります。例えば、業績が長期低迷している企業の取締役会においては、事業の方向性を大胆に転換して積極的なリスクテイクを促す、いわゆる「攻めのガバナンス」の発想が強く求められます。一方、業績好調で事業の方向性に問題のない企業であれば、取締役会はコンプライアンスや内部統制など「守りのガバナンス」について充実を図ることが優先されるのが自然ではないでしょうか。各企業ひいては各事業に望ましい「攻め」と「守り」のバランスを反映することこそ、取締役会の「実効性」だと考えられます。
なお、取締役会の実効性を「評価」するといっても、単純に良しあしを判定すれば済むわけではありません。重要なことは「課題」を抽出することです。「実効性に問題ありません」とする開示が散見されますが、例えばグローバル水準のROEをはるかに上回っており、かつ株主総会ではほぼ満票の賛成を得ている、といった実態が伴わない限り、課題が何もないとは言えないのではないでしょうか。自社の持続的な成長に資する独自のコーポレートガバナンスを鍛えるため、真摯(しんし)な姿勢で取り組むことが期待されます。

Ⅴ 補充原則4-14②. 役員トレーニング

上場会社は、取締役・監査役に対するトレーニングの方針について開示を行うべきである。

補充原則4-14②の役員トレーニングについては、具体的内容として「会社の事業・財務・組織等に関する必要な知識」と「取締役・監査役に求められる役割と責務(法的責任を含む)」を就任時および継続的に提供すべきで(補充原則4-14①)、また「個々の取締役・監査役に適合した」内容が求められています(原則4-14)。従って同原則の「方針」としては、社外役員と社内役員の別に応じた新任役員向けオリエンテーションを実施し、その内容を適宜更新すると定めることが、一つの解釈といえるでしょう。
ただし、前述した取締役会の実効性評価と同様に、取締役会(ひいては取締役および監査役)が果たすべき役割・責務は、各社が構築すべきコーポレートガバナンスの在り方によって異なります。大胆な戦略転換など「攻めのガバナンス」が求められる企業の役員は、M&Aや事業再編を積極的に検討するため、コーポレートファイナンス理論に精通する必要があるでしょう。事業特性などから「守りのガバナンス」を徹底すべき企業の役員は、最新のリスクマネジメント手法を習得するべきかもしれません。
また多くの企業において、社内取締役が一般に執行を兼務していること(業務執行取締役、執行役員兼務取締役など)を鑑みると、業務執行におけるリーダーシップを養う観点からトレーニングを実施することも有効ではないでしょうか。特に次期経営トップ(CEOやCFO、COOなど)の育成カリキュラムを構築することは、「最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)」(補充原則4-1③)の整備に直結します。補充原則4-14②は「取締役・監査役」に対象を限定した書きぶりになっていますが、自主的な取り組みとして執行役員など幹部候補生まで拡大し、育成方針を確立することは望ましいといえるでしょう。
なお、社内取締役(および執行役員など)を対象とするトレーニングで取り上げるべき内容は、その企業に独自・独特の専門的な知見を深めるというよりは、全ての企業経営に共通のマネジメント資質を培うことに主眼が置かれることになります。従って、外部提供の研修プログラムを利用するメリットが大きい分野と考えられます。物理的な集合研修だけでなく、eラーニングなどウェブサイトを活用する余地も大きいでしょう。


  • ※1マザーズおよびJASDAQ上場会社は除く。
  • ※2基本原則5、原則30および補充原則38のうち開示11原則を除く62原則