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情報センサー2015年12月号 押さえておきたい会計・税務・法律

マイナンバー制度導入に当たってのポイントと留意点

公認会計士 太田達也
当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。

Ⅰ はじめに

マイナンバー制度が平成28年1月から実施されます。企業としては、個人番号の取得の方法、特定個人情報※1の保管の方法、安全管理措置など、検討すべき事項が多岐にわたります。
本稿では、制度の導入直前を控えて、企業としての本制度への対応について、そのポイントと留意点を解説します。制度導入に当たっての再確認・チェックにお役立ていただければ幸いです。なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りしておきます。

Ⅱ マイナンバー制度の趣旨

マイナンバー制度とは、わが国の住民票を持つ個人全員に対して「個人番号」を付与し、社会保障および税に関する行政手続等で利用するものです。マイナンバー制度は、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現するための社会基盤であり、マイナンバーの導入により行政事務の効率化、社会保障や税の給付と負担の公平化などを図ることを目的にしています。
社会保障(健康保険、年金保険、労働保険、労災保険等)や税務の手続において、個人ごとに付与された共通の番号を利用することにより、行政事務の効率化、所得の正確な捕捉が可能となります。
また、社会保障における給付金の申請や税の特例を受けようとする場合に、申請書や申告書に住民票の写しや所得証明を添付することが求められてきましたが、マイナンバー制度により、行政機関や地方公共団体をつなぐ「情報提供ネットワークシステム」が整備され、行政機関間の必要な情報のやり取りがされるため、このような添付書類が不要となります(国民の利便性の向上)。

Ⅲ マイナンバー制度の仕組み

個人への番号の付番については、次の四つが前提となります。


① 悉皆性(しっかいせい) 住民票を有する全員に付番されること。 ② 唯一無二性 1人1番号であり、重複のないように付番すること。 ③ 視認性 行政機関と双方で確認できる見える番号であること。 ④ 最新の基本4情報とのひも付け 基本4情報「氏名」「住所」「性別」「生年月日」が常に最新情報であること。

マイナンバー制度は、付番された個人番号、法人番号により、各行政機関等が有している個人または法人に関する情報のうち、相互に活用するべき情報を連携する仕組みです。相互に活用するべき情報については、その情報の種別、利用される事務等を法律で明確化し、それ以外の事務や個人情報は連携させないことが定められています。
住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)訴訟に係る最高裁判決では、特定の行政機関が個人情報を一元管理することは、憲法13条のプライバシー権の侵害に当たるとしています。マイナンバー制度では、特定の行政機関が個人情報を一元管理することはありません。国税庁、各地方自治体、日本年金機構などがそれぞれ保有している「特定個人情報」※2は、行政機関ごとに別々に保有・管理がされます。
各行政機関の業務において、他の行政機関との情報連携を行うためには、必ず情報提供ネットワークシステムを通じて情報連携を行わなくてはなりません。各行政機関の情報連携に当たっては、個人番号を使用せず、行政機関ごとに個人番号から生成される符号により個人情報の授受を行います。情報提供ネットワークシステムは、各行政機関から要求された符号を他の行政機関の符号にひも付け、要求された行政機関に連携させる役割を果たします。
情報提供ネットワークシステムには、これら連携された個人情報の内容は蓄積されず、誰のどのような情報が、どの行政機関からどの行政機関に連携されているかというログ(記録)だけが残る仕組みになります。個人がアクセスできるマイポータルでは、このログを参照することで、行政機関が自分の情報をどのように利用したのかを監視できます。(<図1>参照)

(下の図をクリックすると拡大します)

Ⅳ 各種制限規定

マイナンバー法には、各種制限規定が置かれています。適切な安全管理措置を講じるためには、この各種制限規定を正確に把握する必要があります。

1. 個人番号の取得に係る制限

企業・団体は、「個人番号関係事務」を行うために、個人番号の提供を受けます。提供する側および提供を受ける側双方に、個人番号関係事務を処理する場合など、マイナンバー法が定める一定の場合に限って認められるとする制限が置かれています。
一般的な企業・団体において行う個人番号関係事務は、法令または条例の規定により個人番号を記載した書面を行政機関等に提出する事務を意味しています。当該個人番号を記載した書面を行政機関等に提出するという事務を処理するために、必要があるときに限って、他人に対して個人番号の提供を求めることができるということになります。
また、個人番号の提供を受けるときは、なりすましの防止の観点から、必ず法令に定める方法により、本人確認を行わなければなりません。

2. 個人番号の利用制限

事業者は、マイナンバー法で限定的に定められた社会保障や税に関する事務において、個人番号を利用することができます。他人の個人番号は(法令の規定による)、必要な限度でしか利用できません。代表的な例として、次のような事務が挙げられます。

  1. 従業員等から提供を受けた個人番号を給与所得の源泉徴収票、給与支払報告書に記載して、所轄の税務署長や市町村長に提出する。
  2. 従業員等から提供を受けた個人番号を健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届等に記載して、日本年金機構等に提出する。
  3. 税理士に対する顧問料や、地主に対する地代等を支払った場合に、その税理士や地主から提供を受けた個人番号を支払調書に記載して、所轄の税務署長に提出する。

なお、利用目的をあらかじめ特定し、本人に通知する必要があります。

3. 特定個人情報ファイルの作成に係る制限

特定個人情報ファイルは、個人番号関係事務を処理するために必要な範囲内で作成することができます。必要な範囲を超えて、特定個人情報ファイルを作成することはできません。
事業者の場合、通常、源泉徴収票作成事務、支払調書作成事務、健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届作成事務等で特定個人情報を取り扱うことになるため、それらの事務を行う範囲内で特定個人情報ファイルを作成することになります。

4. 個人番号の提供に係る制限

特定個人情報は、原則として提供することができません※3。ただし、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下、番号法)19条が定める一定の場合には、その提供をすることができます(番号法19条)。たとえ親子会社間であっても、特定個人情報の移動は提供に該当するので、「委託」のような一定の場合でない限り、認められません。親会社やサービスカンパニー等がグループ企業の特定個人情報を取り扱う場合は、この点に注意しなければなりません。

5. 特定個人情報の収集・保管の制限

他人の特定個人情報は、マイナンバー法で限定的に定められた場合のみ収集または保管することができ、それ以外の場合には収集または保管することができません。逆に、そのような事務を行う必要がないのに、特定個人情報を収集または保管することは違法になります※4

6. 廃棄に係る制限

個人番号関係事務などの事務を処理する必要がなくなった場合で、法令によって定められている保管期間を経過した場合には、その個人番号をできるだけ速やかに廃棄または削除しなければなりません。
扶養控除等申告書については法令により保管期間が定められていますが、給与所得の源泉徴収票や支払調書の控えについては法令上保管期間の定めはありません。ただし、それらの帳票が適切に作成されているかどうかを後でも確認できるように、その控えを保管しておく対応が一般的かと思われます。その場合は、システム上で保存している場合も多いと思われます。
この点について、支払調書を正しく作成して提出したかを確認するために支払調書の控えを保管することは、個人番号関係事務の一環として認められると考えられる旨の見解が出されています(マイナンバーガイドラインQ&A・Q6-4-2前段)。
また、給与所得の源泉徴収票や支払調書の控えを保管する期間については、確認の必要性および特定個人情報の保有に係る安全性を勘案し、事業者において判断する旨が示されています。ただし、税務における更正決定等の期間制限に鑑みると、保管できる期間は最長でも7年が限度であると考えられるということですので(マイナンバーガイドラインQ&A・Q6-4-2後段)、この点については何年間保管するのかをあらかじめ取扱規程等で明確化しておくことも考えられます。

Ⅴ 安全管理措置

個人番号は、特定の個人を識別する機能を有するものであることから、それが漏えい等すると不正利用等によるプライバシー侵害の危険性が高まることになるため、適切に管理する必要があります。
個人番号および特定個人情報については、漏えい、滅失または毀損(きそん)の防止その他の個人番号および特定個人情報の管理のために、必要かつ適切な安全管理措置を講じなければなりません(番号法12条)。
個人番号や特定個人情報についての安全管理措置は、マイナンバーガイドライン(特定個人情報保護委員会・平成26年12月11日)に従って講じることになります。安全管理措置の内容は、基本方針の策定、取扱規程等の策定、組織的安全管理措置、人的安全管理措置、物理的安全管理措置、技術的安全管理措置が挙げられます。
各企業においては、責任者および事務取扱担当者を明確にする必要があります。また、ガイドラインの内容を十分にしん酌し、安全管理措置を講ずることが必要です。個人番号に関して発生する事務のフローを想定し、取得、利用、保管、廃棄の各段階において情報漏えいが発生しないような体制づくりが必要不可欠といえます。

Ⅵ マイナンバー対応費用の取扱い

個人番号を管理するために、システム整備等の対応を行った企業が多いと思われます。給与計算ソフトの年末調整システムにマイナンバーをひも付けるためのプログラムの更新、源泉徴収票や支払調書の作成ソフトにマイナンバーを記載するプログラムの更新等、ソフトウエアの改訂を行うことが考えられます。
固定資産を使用していく上で、固定資産の原状の効用、原状の価値を維持するために必要な費用は修繕費とされます。一方、固定資産に対して新たな機能の追加や機能の強化を図るための費用は資本的支出とされ、資産計上する必要があります。マイナンバー制度に対応するためのプログラムの更新費用については、どのように考えたらよいのかが問題となります。

1. 修繕費となる場合

消費税率が5%から8%に引き上げられる時に、会計ソフトなどのプログラムを8%に対応する内容に更新したことは記憶に新しいところです。また、それ以前にも、減価償却限度額の算定方法に係る税制改正に伴い、減価償却計算システムを更新しました。このように法律の改正等に伴い、その固定資産(この場合はソフトウエア)の原状の効用(価値)を維持する上で必要な費用、言い換えるとこれまでどおりに使用し続けていく上で必要な費用は、原則として修繕費に該当します。今回のマイナンバー制度に対応するためのプログラムの更新のための費用についても、同様に取り扱われるものと考えられます。
マイナンバー対策と無関係な新たな機能の付加や機能の向上が併せて行われた場合は、その部分が資本的支出となることは当然です。

2. 新たな資産の取得となる場合

マイナンバー制度に対応するために、新たにパソコンやサーバーを購入することもあり得ます。この場合は、新たな資産(器具備品)の取得に該当するので、資産計上することになります。ただし、取得価額が10万円未満であれば損金経理による損金算入、10万円以上20万円未満であれば一括償却資産として取り扱うことができます。また、中小企業者等であれば、取得価額30万円未満であれば(1事業年度当たり300万円を超えない範囲で)損金経理による損金算入が認められます。
また、情報セキュリティーの強化対策のために、暗号化ソフトを導入する場合も、新たな資産(ソフトウエア)の取得に該当し、原則として資産計上することになります。それが少額減価償却資産または一括償却資産に該当する場合は、先ほどと同様です。
なお、修繕費として損金算入できるものと資産計上が必要なものが両方発生することもあり得ますので、業者からの請求書に内訳をきちんと記載してもらう対応が必要になります。


  • ※1個人番号を含む個人情報をいい、特に厳格な安全管理措置が求められる。
  • ※2特定個人情報とは、個人番号をその内容に含む個人情報をいう。
  • ※3「提供」とは、法的な人格を超える特定個人情報の移動を意味するものであり、同一法人の内部等の法的な人格を超えない特定個人情報の移動は、「提供」ではなく、「利用」に該当する。利用の制限に係る規定に従うことになる。
  • ※4例えば金融機関が身元確認の手段として、個人番号カードの提示を受けた場合に、写真等を確認して身分確認するにとどまらず、個人番号を書き取ったり、個人番号が記載されている個人番号カードの裏面をコピーして保存することは違法になる。

情報センサー 2015年12月号