刊行物
情報センサー2015年12月号 EY Advisory

グローバル事例に学ぶシェアードサービス 後編

EYアドバイザリー(株) 近田修一
外資系コンサルティングファームを経て、現職。現在はEYアドバイザリー(株)にて、製造業を中心とした戦略策定、プロセス/ITの再構築、組織再編(シェアードサービス構築、ビジネスプロセスアウトソーシングを含む)、PMI(M&A後の統合計画の策定・実行)をテーマとしたコンサルティング業務に従事。

Ⅰ はじめに

前号では、Global Business Services(以下、GBS)の概要、構築の成功要素、アプローチについてご紹介しました。今回はGBS構築事例を参考に、構築の進め方について解説します。

Ⅱ 消費財メーカーA社 GBS構築事例

消費財メーカーA社は、1990年代、各国でシェアードサービスセンターを構築しました。その運営は、各国に任されており、業務プロセスおよびシステムも各国でバラバラという状況でした。
そのような状況で、経営リポートを作成しようとすると、手作業による集計時間がかかり、経営判断の遅れによる損失や、また、そもそも集計値の作られ方が異なり拠点間の比較ができないために、各国では、膨大なITコストが発生していました。
そこで、グローバルにおける業務プロセスの標準化とシステム統合を図るため、国別の間接業務を撤廃し、3極の地域ごとに集約し、またそれに合わせ、システムをERPに統合しました。
しかし、次の新たな問題が発生します。企業買収を行った後、対象会社の業務をなかなか統合できず、その統合作業に多くの時間と想定外の費用が発生しました。
そこで、A社は、バックオフィス機能を再編し、企業買収に対する支援機能を強化し、2年後には、企業買収の早期効果創出のため専門組織まで設けました。
しばらくすると、今度は人員が肥大化し、運営コストが問題となります。そこで、人材・コストの最適化のため、BPOベンダーの活用による機能再配置を実施しました。
そして現在は、バックオフィス機能の側面から10年後の企業の姿を見据えたプランを策定し、組織の刷新を試行しており、A社のGBSは、今なおその変化を模索しています。

Ⅲ GBS構築のKSF(Key Success Factor)

前号では、GBS構築プロジェクトにおいて、次の事項がKSFであることに触れました。

  • 重要な関係者の適切なタイミング・方法での巻き込み
  • GBSに対する適切な期待値コントロール(過度な期待をさせない)
  • 企業や地域の状況に応じた柔軟な対応

A社では、これらを具体的にどのように実現したかを解説します。
A社のGBSの構築は、数年を要する大規模プロジェクトでした。そのような長い大規模プロジェクトを成功させた要因は、企業の戦略と整合した「ストーリー」を描いたことにあったと考えます。
「ストーリー」とは、ビジネスケースの設定、つまり「今の姿」と「目指す姿」への遷移を可視化したものを指します。

Ⅳ ビジネスケースの設定

A社はビジネスケースとして、<図1>の8項目を設定しました。


図1 ビジネスケース8項目

8項目は、GBSがカバーする業務プロセスの範囲(①)、業務プロセスの標準化レベル(②)、ビジネスとGBS保有の業務プロセスの適合度(③)、業務プロセスにおける自動化レベル(④)、システムの統合レベル(⑤)、地域ごとの業務プロセスの統合範囲(⑥)、グローバルでのGBSセンターの拠点数(⑦)、GBS要員の賃金(コスト)(⑧)を表し、グローバルにGBSを構築する際の戦略を表すのに適していると考えます。
また、このビジネスケースの設定は、誰が実施してもよいものではありません。トップマネジメントが設定する必要があります。それはこの8項目が経営としての戦略と達成目標であることを社員に示す必要があるからです。そして、A社ではトップマネジメント自らが検討に参加し、わずか12週間での設定を行いました(<図2>参照)。

(下の図をクリックすると拡大します)


  • 最初の2週間:現状の把握のための情報を収集
  • 次の8週間:CEOなどの経営者とあるべき姿や今後の方針の討議を実施
  • 最後の2週間:今後のロードマップとして、経営の判断ポイント、リスクの洗い出し、対応策を明確化

GBSは、ビジネスの視点で、複数の機能(例:人事、会計)を統合したサービスを提供するものであり、それをグローバルで実現するためには、関係者に共通認識を持たせることが不可欠となります。
その点、A社のGBS構築の過程では、この8項目に常に戻りながら、構築を進めることで、さまざまな価値観を有する人々を一つにまとめられたと考えます。
GBSの成功には、リーダーとなる人の存在や推進をサポートするアドバイザーの選び方など、さまざまな要因があります。しかし大事なことは、関わる人々が何を目指すかという共通認識を持てるようにすることだと、われわれは考えます。
2号にわたりGBSとは何か、またその構築方法について解説しました。今後、グローバルにビジネスが広がる中、GBSの必要性はさらに高まっていくと予想されます。一方、GBS構築は非常に難しく、長い時間を要します。そのような険しく長い道のりを歩むためにも、A社のようなアプローチが非常に有効ではないかと考えます。


情報センサー 2015年12月号