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情報センサー2015年12月号 Trend watcher

保険会社の海外M&A

EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
マーケッツ 島田英海
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)において、金融部門を中心に海外M&A業務に従事。銀行、保険、ノンバンクなどの金融機関をはじめとして、自動車、商社、テクノロジー会社の販売金融やリース、流通・クレジット・リテール金融、フィンテックの分野で日系企業の海外展開を支援。

Ⅰ はじめに

保険市場のM&Aは、日系保険会社の欧米市場での大型買収や新興国市場への進出により、活況を呈しています。保険市場はどのように変化を遂げているのでしょうか。日系保険会社による欧米の保険会社の大型買収は、今後も続くのでしょうか。そして、人口増加が続く新興国は日系保険会社にとってフロンティアとなるのでしょうか。新たな外部成長のシナリオを描く、日系保険会社の海外M&Aが今回のテーマです。

Ⅱ 生命保険と損害保険の動向

1. 人口の減少による生命保険の成長鈍化

日本は少子高齢化および人口減少の課題を抱えています。日本の人口は、2010年にピークを迎えてから減少基調にあり、50年には1億人を割り込むといわれています。そのため、生命保険業界では各社の経営努力にもかかわらず、生命保険の保有契約の減少が続いており、今後も伸び悩みが続くと予想されています。

2. 災害の発生と自動車保険の伸び悩み

最近の度重なる台風や災害の保険金の支払いにより、多くの損害保険会社の採算は悪化しました。主力の自動車保険は、エコカー減税の効果や保険料率の値上げで収益は維持しているものの、国内自動車市場の伸び悩みや若者の自動車離れなどで苦戦しています。
日本市場においては、生命保険および損害保険の市場で国内の成長シナリオが描きにくくなっています。日系保険会社は、規模の拡大と地域リスク分散のため、世界市場を目指して海外M&Aを積極的に進めています。

Ⅲ 世界の保険市場

1. 世界の保険市場

世界の人口は新興国を中心に増加を続け、生命保険収入および損害保険収入は共に高い伸びを示しています。保険の普及は、保険浸透度(GDPに対する保険料の割合)と保険密度(国民1人当たりの保険料)という指標で示すのが一般的です。保険浸透度は、新興国は数パーセントにも満たず、先進国では10%を超えるといわれています。保険密度は、新興国では約1万円程度と保険に使う金額は少なく、先進国はその30倍とも見積もられています(<表1>参照)。日系保険会社は、ここ数年、潜在的な成長性が大きい新興国市場に進出してきました。ところが、最近目立つのは欧米企業に対する大型買収です。


表1 先進国と新興国

2. 欧米先進国でのM&A

欧米の有力な保険会社の中には、日系保険会社との戦略的提携や100%出資を受け入れる事例が出てきています。欧米の保険会社にとって、リスク資産の価値下落や、高利回り商品の運用利回り低下による採算性の悪化から、財務基盤が脆弱(ぜいじゃく)となっており、自己資本の増強は喫緊の課題です。手元資金に余裕があり、急激な経営変革を求めない日系保険会社は、欧米保険会社の安定的な株主として存在感を増しています。
日系保険会社としては、欧米保険会社への出資を通じて、国際人材の育成、先進国市場の獲得、連結ベースでの保険料収入の増加を実現し、グローバル経営体制を構築するチャンスです。また、商品開発力やリスク管理のノウハウ習得の意義は大きいといえます。

3. アジア新興国でのM&A

国内市場が頭打ちの状況の中、日系保険会社は、アジアの新興国をターゲットとして、M&Aを活発に行っています。今後の生命保険市場の開拓余地が大きい国に早めに参入して販売基盤を開拓することで、大きなシェアを獲得するチャンスがあります。また、新興国では自動車保険、工場設備の火災保険、運輸貨物のあらゆる分野で損害保険のニーズは高まっています。しかし、日本から新興国に投資するに際して、外国資本の出資比率や規制当局による自己資本の制限があるため、留意が必要です。
ここ数年、欧米金融グループ傘下の保険会社は、事業再構築の過程でアジアでの事業売却を進めており、日系保険会社によるM&Aは今後も続くと予想しています。

Ⅳ おわりに

日系保険会社の投資先は、市場拡大とグループ収益への貢献が求められます。また、市場リスクやコンプライアンスなどのさまざまなリスクにも対応する必要があります。保険事業は規制業種であるため、日本の規制当局の認可(または届出)に留意するとともに、投資先の国の規制当局への報告にも対応が求められます。
日本の本社のグループ経営をベースに、海外子会社のコーポレートガバナンス、内部統制、コンプライアンスなどの課題に対応が求められます。また、連結会計の対応、無形資産の評価、会計制度の差異分析やレポーティングも早めに準備すべきです。
出資後の運営・管理態勢を早めに構築するとともに、事業計画の策定と実行がポイントとなります。業績向上のため、販売チャネル、商品、顧客の観点から収益構造を分析して、KPIの設定や予算実績の管理手法を導入し、シナジー効果を発揮することが重要です。


情報センサー 2015年12月号
保険会社の海外M&A (PDF:455KB)