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情報センサー2015年12月号 Law update

最新税務判例ポイント解説
-ネット販売事業に用いていたアパート等は「恒久的施設」に該当

EY弁護士法人 弁護士・ニューヨーク州弁護士 北村 豊
EY弁護士法人 マネージングパートナー。前京都大学法科大学院 非常勤講師(税法事例演習)(2010~15年)。長島・大野・常松法律事務所(00~09年)、金融庁総務企画局政策課金融税制室 課長補佐(09~12年)を経て、EYグループに参加。法務・税務・会計その他の専門家が協働することにより付加価値の高いサービスを提供することができる税務訴訟、税務調査対応、金融取引に関する法務・税務等に注力している。

Ⅰ 「恒久的施設」の意義

東京地裁は、平成27年5月28日、米国居住者がインターネット経由で自動車用品を日本の顧客に販売する事業に用いていた日本国内のアパート等が「恒久的施設」に該当するか否かが争われた税務訴訟において、これを肯定する判決を下しました。
「恒久的施設(Permanent Establishment)」とは、事業を行う一定の場所であって、企業がその事業の全部または一部を行っている場所をいいます(日米租税条約5条1項)。米国企業は、日本国内の「恒久的施設」を通じて日本で事業を行わない限り、米国においてのみ課税されます。他方、日本国内の「恒久的施設」を通じて日本で事業を行う場合は、日本で課税されます(同条約7条1項)。すなわち、米国企業にとって日本国内の「恒久的施設」の有無は、日本で課税されるか否かを決定づける分水嶺(れい)になります。
この「恒久的施設」のコンセプトは日米租税条約以外の租税条約にも広く用いられている基本的なもので、非居住者・外国法人に対する日本の課税の有無について考える上で、とても重要です。また、近時、インターネット経由での商取引が増加しており、本件のように「恒久的施設」の有無が問題となる事例が増加しています。このように「恒久的施設」の有無は、古くて新しい問題といえます。

Ⅱ 本件の争点

「恒久的施設」とは、前述のように、事業を行う一定の場所であって、企業がその事業の全部または一部を行っている場所をいいますが、当該場所での活動が「準備的または補助的な性格」である場合は、「恒久的施設」から除外されます(同条約5条4項)。
本件の米国居住者が営んでいた事業の内容は、①米国で自動車用品(商品)を仕入れて日本に輸入し、日本国内において保管する、②ホームページを運営し、インターネットを通じて、商品の注文を受ける、③顧客の注文を受けて、日本国内の保管先から顧客に対し、配送業者を介して商品を配送するというものでした。
そして、日本国内で賃借したアパートと倉庫(アパート等)を、①商品を保管しておき、②顧客の注文を受けて、個別に商品を梱包した上で顧客向けに発送し、③顧客からの返品があった場合には、返品された商品を受け取り、代替商品を発送するなどの業務を行う場所として用いていました。
従って、このアパート等が、事業の全部または一部を行う一定の場所であったことは明らかとされました。問題は、アパート等における活動が「準備的または補助的な性格」であったか、です。(<図1>参照)

(下の図をクリックすると拡大します)

Ⅲ 裁判所の判断のポイント

この点について、裁判所は、次の理由から、アパート等における活動は「準備的または補助的な性格」のものであるということはできず、「恒久的施設」に該当すると判示しました。
米国居住者は、ホームページ等において、自らが営む企業の所在地および連絡先として、アパートの住所および電話番号等を掲載し、販売活動を行っていましたが、インターネットによる通信販売を利用する者が取引の相手となる企業を選ぶに当たっては、当該企業が日本国内の企業であるかどうかを重要な判断要素の一つとしているものと考えられます。また、米国居住者が利用していたインターネット市場においては、日本国内に事業所があることを出品の条件としているところもあり、インターネット市場との関係でも取引の前提条件となる重要な要素であったといえます。
米国居住者は、アパートを所在地として販売活動を行っていたところ、販売活動が全てインターネットを通じて行われており、アパート等に保管された在庫商品を販売するという事業形態であったことを併せ考えれば、アパートはこの事業における唯一の販売拠点としての役割・機能を担っていたということができます。
さらに、通信販売という事業形態に鑑みれば、対面取引に比して、商品の購入者に対する商品の配送業務が事業の重要な部分を占めていることは明らかであり、通信販売においては、その性質上、配送後における返品の可能性が相対的に高く、顧客からの返品に対応することも重要な業務といえます。
そのため、米国居住者は、アパート等を販売拠点として販売活動を行い、その従業員がアパート等において通信販売事業にとって重要な業務である商品の保管、梱包(こんぽう)、配送、返品の受け取り等を実際に行っていたことに鑑みれば、アパート等における活動は「準備的または補助的な性格」のものとはいえないと結論付けました。
今後、インターネットを通じた商取引を行う企業の「恒久的施設」の有無を判断するに当たっては、この裁判例が挙げた各要素について慎重に検討することが必要になるでしょう。