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IASBによる新たなリース基準の公表

2016年5月31日 PDF
カテゴリー IFRS実務講座

情報センサー2016年6月号 IFRS実務講座

IFRSデスク 公認会計士 米国公認会計士 小山智弘

アーンスト・アンド・ヤング グローバルIFRSリース論点グループメンバー。財務会計基準機構(ASBJ)リース会計専門委員会 委員。日本公認会計士協会 会計制度委員会IASB対応専門委員会 委員、ASBJ対応専門委員会 委員。

Ⅰ 新基準の概要

国際会計基準審議会(IASB)は、2016年1月にIFRS第16号「リース」(以下、IFRS第16号又は新基準)を公表しました。09年1月にリースのディスカッション・ペーパーが公表されてから7年が経過しており、紆余(うよ)曲折の議論を経ての公表となりました。

1. 考え方の転換

現行基準であるIAS第17号「リース」では、リース取引を売買取引との比較で捉える「リスク・経済価値モデル」が採用されています。一方IFRS第16号では、IFRS第10号「連結財務諸表」やIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」と同様の「支配モデル」が採用されています。
この転換は、借手がリース取引により認識する資産の性質に影響を及ぼします。IFRS第16号では新たに認識する資産を、ある一定の期間において、リースの対象物を使用する権利の束として捉えています。これを「使用権資産」と称しており、原資産そのものとは異なります。「権利」といえば無形資産に近いと考えられますが、IFRS第16号ではその性質を明らかにしていません。
この基本的な考え方の転換により、IFRS第16号では、リースの定義や、借手の処理が変更されました。

2. 転換の背景

IAS第17号からの最も大きな変更は、新基準では借手がファイナンス・リースとオペレーティング・リースの分類をしなくなる点です。現行基準におけるオペレーティング・リースの借手は、新基準ではほとんどの場合にリース資産とリース負債を認識することになります。
これは、IAS第17号では、オペレーティング・リースの借手はリース料を費用として処理するのみで、リースに関する資産や負債を認識しないため、貸借対照表が取引の実態を表していないという批判に応えるものです。
新基準と併せて公表された影響分析では、IFRS又は米国会計基準を採用している上場企業のオフバランス・リースに関する将来の最低リース料の現在価値見積りは、2.18兆米ドルであることが示されています。また、特に影響の大きな業種は、航空、小売、旅行及びレジャーであり、2.18兆米ドルの多くを占める上位1,022社に関する分析では、これらの業種の現在価値見積りの資産合計に占める割合は、20%程度になります。
新基準はこのようなオフバランス・リースに関する処理の変更を求めることで、財務諸表の読み手がリース取引の実態を理解できるという観点に立っています。

3. FASBによるリース基準書

IASBは、IFRS第16号を米国財務会計基準審議会(以下、FASB)との共同プロジェクトの成果として公表しています。FASBの新たなリース基準でもIFRSと同様に、借手はほとんどのリースを貸借対照表に認識することになります。ただし、IASBとFASBは一部の論点について異なる処理を採用したため、IFRSと米国会計基準の間には差異が生じることになりました。例えば、FASBの基準では、借手は従来通りリースを分類することになります。
この結果、IFRSの新基準と米国のリース新基準は、現行基準よりも差異が拡大することになります。

4. 新基準の適用時期

新基準は、19年1月1日以降開始する事業年度から適用されます。早期適用も認められますが、その場合には、IFRS第15号を既に適用しているか、IFRS第16号と同時に適用する必要があります。
例えば、セール・アンド・リースバック取引における売却が生じたか否かの判定には、IFRS第15号を参照する必要があるため、IFRS第15号を適用することがIFRS第16号を適用するための前提になります。
以下、ポイントごとにIAS第17号からの変更点と併せて解説します。当該変更点は、日本の現行リース基準との相違点としても概ね当てはまります。

Ⅱ 契約にリースが含まれているか否かの判断

IFRS第16号では、リースは、「資産を使用する権利を一定期間にわたり、対価と交換に移転する契約」と定義されます。大きくは以下二つが要件となります。

1. 資産の特定

リースに該当するためには、契約が「特定された資産」に関係しなければなりません。この特定された資産は、建物のフロアのように物理的に区分して把握できる必要があります。

2. 支配

顧客が以下の両方の権利をもつ場合に、契約は「資産の使用を支配する権利を移転」することになります。

  • 資産の使用から生じる「経済的便益のほとんどすべて」を得る権利
  • 資産の使用を「指図」する権利(使用方法と目的)

【IAS第17号との相違】

IFRS第16号におけるリース識別のガイダンスは、現行基準のIFRIC第4号「契約にリースが含まれているか否かの判断」とは異なるため、契約にリースが含まれるか否かに関して、IAS第17号に基づく判断とは異なる結論になる可能性があります。
これは、IAS第17号は「リスクと経済価値の移転」と「支配の移転」を組み合わせたガイダンスですが、新基準では「支配の移転」のみからリースの識別が行われるためです。具体的にはIFRIC第4号に含まれていたリース料の価格を検討する形式要件がなくなっていることが大きく影響します。

Ⅲ 借手の会計処理

1. 当初認識及び測定

借手は、リース料の支払義務である「リース負債」と、リース期間にわたり原資産を使用する権利である「使用権資産」を当初認識します。
リース負債は、リース期間にわたり支払われるリース料総額の現在価値に基づいて測定します。使用権資産は、リース負債に前払リース料、リース・インセンティブ、初期直接コスト、及び原状回復の見積りコストを調整した金額で測定します。

(1) 短期リース

借手は、リース期間が12カ月以内のリースについては、「原資産の種類ごと」に、IAS第17号のオペレーティング・リースの会計処理と同様に、リース資産とリース負債を認識しないことができます。

(2) 少額資産のリース

借手は、原資産が少額なリースについては、「個々の原資産ごと」に、IAS第17号のオペレーティング・リースの会計処理と同様に、リース資産とリース負債を認識しないことができます。

【IAS第17号との相違】

IFRS第16号では、借手はリース取引をファイナンス・リース又はオペレーティング・リースに分類することはありません。したがって短期リースと少額資産リースを除いて、単一の会計処理方法が適用されることになります。

2. 事後測定

借手は、利息の計上に伴いリース負債を増額し、リース料の支払に伴いリース負債を減額します。一方、使用権資産は、IAS第16号「有形固定資産」に従って減価償却を行います。リース負債の計上に伴う支払利息が発生することにより、借手のリースに係る費用は、リース負債の残高の多いリース期間の初期においてより多額に生じることになります。借手は、一定の事象が生じた時点でリース負債を再測定し、通常は使用権資産を調整します。
また借手は、事後測定として、IAS第16号の「再評価モデル」やIAS第40号「投資不動産」の「公正価値モデル」を使用権資産に適用することができます。
なお、使用権資産に関しては、IAS第36号「資産の減損」に従って、減損テストの実施が求められます。(<図1>参照)

図1 リースの借手の会計処理イメージ

3. 表示

貸借対照表においては、使用権資産は、他の資産と区分して表示するか、注記において個別に開示します。リース負債も同様に他の負債と区分して表示するか、注記において個別に開示します。
損益計算書では、減価償却費と支払利息を一つにまとめることはできません。
キャッシュ・フロー計算書では、リース負債の元本の返済は財務活動に表示し、支払利息はIAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」に従って選択された会計方針に基づいて表示します。

Ⅳ 貸手の会計処理

1. 当初認識及び測定

新基準における貸手の会計処理は、現行のIAS第17号の会計処理から基本的には変わりません。貸手は、IAS第17号と同じ原則を用いて、すべてのリースをオペレーティング・リースかファイナンス・リースに分類します。
オペレーティング・リースに関しては、貸手は原資産の認識を継続します。
ファイナンス・リースに関しては、貸手は原資産の認識を中止し、現行基準と同様に、正味リース投資未回収額を認識します。販売損益がある場合には、リースの開始時点で認識します。

【IAS第17号との相違】

IFRS第16号では、借手と貸手の処理は、これまで以上に対称性がなくなります。これにより、例えば親子会社間のリース取引を連結相殺消去する際には注意する必要があります。

2. 事後測定

オペレーティング・リースに関しては、貸手は、定額法か原資産の使用から生じる便益の逓減パターンをより適切に表す他の規則的な方法により、リース収益を認識します。
ファイナンス・リースに関しては、貸手は、受取利息の認識に伴い正味リース投資未回収額を増額し、受領したリース料を正味リース投資未回収額から減額します。
リースに関する債権には、IFRS第9号「金融商品」の認識の中止と減損に関する規定を適用します。(<図2>参照)

図2 ファイナンス・リースの貸手の会計処理イメージ

Ⅴ セール・アンド・リースバック取引

売手/借手と買手/貸手は、IFRS第15号に基づいて、セール・アンド・リースバック取引(<図3>参照)においてセール(売却)が生じたか否かを判断します。IFRS第15号の要件に従って、原資産の移転が売却と判断された場合には、当該取引をセール・アンド・リースバック取引として会計処理します。IFRS第15号の売却の要件が満たされない場合には、当該取引をファイナンス取引として会計処理します。

図3 セール・アンド・リースパック取引

【IAS第17号との相違】

IAS第17号でのセール・アンド・リースバック取引の会計処理の検討は、リースバック取引がファイナンス・リースに該当するか否かの判断によりその後の会計処理が異なるため、当該判断が重要なポイントでした。この点、新基準では売却が生じたか否かが重要なポイントになります。
IFRS第16号では、リースバック取引をオンバランスしなければならないため、オフバランス手段としてのセール・アンド・リースバック取引は減少するかもしれません。

Ⅵ 新基準による影響

新基準では、多くのリース取引がオンバランスされることになるため、リース取引の契約自体が減少すると言われることがあります。
これと同様に、オンバランスされることにより減少すると言われた制度に確定給付制度があります。ただし、この確定給付制度にしても、そのリスクの精査とベネフィットとの比較による見直しは行われているものの、その存在には意義があると認められています。
同様に、リース取引にもオフバランス以外の目的として、資産保有の容易化、資金調達、資産所有のリスク低減、税務上の恩典等の意義が考えられます。これらの意義を踏まえた上でリース取引の今後を見るのであれば、オンバランスされたリース資産とリース負債が、他のオンバランス資産や負債と同じように、リスクとベネフィットによる評価が行われるようになる点に新基準の意義があると思われます。

※例:リース期間の変更、指数又はレートに応じて決まる変動リース料の変更

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