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オバマケア導入に伴う製薬会社の最近の会計トピック

2016年7月29日 PDF
カテゴリー 業種別シリーズ

情報センサー2016年8月・9月合併号  業種別シリーズ

ライフサイエンスセクター 公認会計士 塚本大作

2007年、当法人に入所。製薬業を中心に、建設業、観光サービス業、金融業や国立大学法人、学校法人など幅広い監査業務に従事。第114回日商簿記検定最優秀者。

Ⅰ 米国の医療制度の概要

米国では医療保険制度改革法(通称「オバマケア」)に基づく保険制度が2014年1月から本格的に導入されるまでは、日本と異なり国民皆保険制度は存在していませんでした。メディケア、メディケイドなどの公的医療保険制度が以前から存在していますが、その対象者は<表1>に示されるように、一部の国民に限られています。そのため、医療保険に加入したい国民は、民間の医療保険に加入するしかありませんでした。

表1 メディケア、メディケイドの概要

近年の医療技術の進展とともに、米国の医療費は著しく上昇しており、それに応じて医療保険料も高騰したため、医療保険に加入していない無保険者の増加が問題となっていました。

Ⅱ オバマケアの概要

このような問題を解決すべく、10年3月にオバマケアが成立し、14年1月から本格的に導入され、実質的な国民皆保険制度がスタートしています。オバマケアは無保険者の医療保険への加入を促すとともに、医療費を抑制し、医療の質の向上を目的とするもので、主に<表2>の施策が実施されています。

表2 オバマケアの主な施策

Ⅲ オバマケアの製薬会社への規制

オバマケアでは、医療保険取引所「エクスチェンジ」の運営や、メディケイドの適用者拡大などに伴う費用の財源を、個人や企業が保険に加入しない場合の罰金、高額所得者への増税、さらには医療関連産業からの拠出金で賄うこととしており、製薬会社に対しては主に<表3>の規制を課しています。

表3 オバマケアの製薬会社への主な規制

Ⅳ オバマケア導入に伴う製薬会社の最近の会計トピック

オバマケア導入で医療保険加入者が増え、その結果、処方箋医薬品の需要が増えたため、米国の製薬会社では収益が増加する一方で、<表3>の規制により、政府・州に対する支払も増加しています。ここでは、オバマケア導入に伴い、最近発生した会計トピックを三つ紹介します。

1. ファーマフィーの費用認識時期の変更

ファーマフィー(<表3>参照)について、従来は翌年の売上が発生した際に、前年度分に係るフィーを支払う義務があるとされていましたが、最終規定が14年7月に公表され、売上が発生する年度に支払義務が生じることが明確化されました。この改定に基づき、米国の製薬会社は費用認識時期の変更を行っています。

2. リベートに関する引当金

<表3>で示した各種の施策により、オバマケア導入後、製薬会社が政府などに支払うリベート金額が増加しています。米国では<表1>で示した以外にも多くの公的医療保険制度があり、また、それぞれの制度や処方箋医薬品の種類に応じて適用されるリベート率が異なるため、米国の製薬会社においてリベートの見積り過程は非常に複雑なものになっており、決算財務報告プロセスでも、その重要性はいっそう高まっています。

3. メディケイド・マネージド・ケアのリベートに関する引当金

マネージド・ケアとは、従来、医師と患者の間で決定されていた医療行為に対して、保険者などの第三者が介入し、その内容を規定する仕組みのことであり、この仕組みをメディケイドに適用したものをメディケイド・マネージド・ケアといいます。一般的にメディケイドの運営に当たる州が、医療費コスト削減のために、MCO(Managed Care Organization)などの民間保険会社にメディケイドの運営を委託しますが、オバマケア導入に伴うメディケイド適用対象者の拡大に伴い、医療費を抑制する目的でメディケイド・マネージド・ケアを新規採用・適用拡大する州が増加しました。
オバマケア導入(10年3月)以前は、MCO経由で処方した医薬品は製薬会社が州に支払うメディケイドリベートの範囲から除外されていましたが、導入以後は、基本的にリベートの範囲に含まれることになったため、各州はMCOから処方箋医薬品の使用データを入手し、それを基に製薬会社にリベートの請求を行うことになりました。
ところが、多くの州では、製薬会社に対するリベート請求額を計算するプロセスが確立しておらず、請求書の発行にかなりの時間を要しました。
一方、製薬会社はリベート支払額をタイムリーに計上しなければならないため、各州からの請求書を入手するまでの間、限られた情報に基づいて引当金を計上する必要性が生じています。

このように、オバマケア導入により、さまざまな形で負担が増加したことで、製薬会社では、リベートなどの見積りを中心に多様な会計論点が生じており、これらの論点に適切に対応していくことが重要と考えます。

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