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情報センサー2016年8月・9月合併号 押さえておきたい会計・税務・法律

地方税法の改正を踏まえた自己株式の実務
-法律・会計・法人税・地方税との関係-

公認会計士 太田達也
当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。

Ⅰ はじめに

自己株式の取得は、会社法上、株主に対する「資本の払戻し」と捉えられており、剰余金の分配規制の対象でもあります。企業会計上も、その考え方を採用し、企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(以下、「自己株式等会計基準」)により、自己株式を取得したときは、取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除すると定めています(自己株式等会計基準7項)。法人税法上も、平成18年度税制改正以降は、資本の払戻しを前提とした規定が整備されています。
一方、平成27年度税制改正による地方税法の改正により、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額に関する重要な改正が行われ、法人税の取扱いと連動しない面が少なからず生じることになりました。
本稿では、自己株式の取得に係る法律、会計処理および税務処理を解説した上で、地方税法の取扱いを法人税と関連づけながら、具体例も交えながら詳しく解説します。

Ⅱ 自己株式の法律

1. 自己株式の取得の性質

自己株式の取得は、株式の発行会社が株主の有する自己の株式を取得して、取得の対価を株主に交付する取引です。取得の対価は金銭である場合が多いですが、金銭以外の資産を用いることも可能です。その点は、剰余金の配当を金銭以外の資産により行うことができる取扱い(いわゆる現物配当)と整合性が確保されています。株主に対して金銭等の交付が行われるため、「資本の払戻し」と表現されることがあります。
株主に対して金銭等を交付する取引であることから、剰余金の配当と経済的実質が近いという見方もできます。ただし、剰余金の配当は全ての株主に対して株主としての地位に基づき持株数に応じて平等に払い戻されるのに対し、自己株式の取得については通常は特定の株主に対して払い戻される点が明らかに異なります。また、その金銭の交付も、自己株式の取得の場合は取得する株式の対価として交付されるという性質の違いもあります。

2. 株主との合意による取得と法律上の規制

本来、自己株式の取得という行為は、弊害を生じさせる可能性がある行為だと考えられています。それは、①出資の払戻しと同様の結果を生じさせ、会社財産の不当な流出により債権者を害するおそれがある②取得の条件いかんによっては、株主間の不平等を生じさせるおそれがある③反対派株主から自己株式の取得を行うことにより、経営者が保身を図るおそれがあるなどの弊害です。平成13年の商法改正前は、自己株式の取得が原則禁止とされていたのは、このような弊害が生じることを避けるためでした。
そこで、会社法上は、そのような弊害が生じないように、次のような一定の規制をかけた上で、特定の株主からの自己株式の取得を認めるとしています。
第1に、自己株式を取得することについて、株主総会の承認決議が必要であり(会社法156条)、通常は普通決議でよいとされていますが(会社法309条1項)、相対で特定の株主から取得する場合は、より重い決議要件である特別決議による必要があります(同条2項2号)。また、特定の株主から取得する場合は、他の株主に売主追加請求権が認められています(会社法160条3項)。売主追加請求権とは、特定の株主からの自己株式の取得議案について、他の株主が特定の株主に自己をも加えたものを株主総会の議案とするように議案の修正を求めることができる権利であり、そのような請求がされたときは、会社はこれに応じなければなりません。株主平等原則に基づく取扱いであると考えられます。従って、特定の株主からの取得である場合は、他の株主が売主追加請求権を行使するのかどうかについて、慎重な判断が必要になります。
第2に、自己株式を取得するときは、剰余金の配当と同様に剰余金の分配可能額の範囲内で取得することが必要とされています(会社法461条)。違反した場合は払戻しを受けた株主および取締役等に支払責任が生じます(会社法462条)。また、自己株式を取得した結果、純資産額が300万円を下回ってはいけないという財源規制も課せられます。これらは、債権者を保護するための規制です。会社財産の流出により債権者を害することがないように手当てされているわけです。

Ⅲ 自己株式の取得に係る会計

自己株式の会計処理については、自己株式等会計基準がそのルールを明確に定めています。
会社法は株主に対する「資本の払戻し」という考え方を採用していますが、自己株式等会計基準もその考え方と整合する処理を定めています。すなわち、自己株式を取得したときは、取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除します(自己株式等会計基準7項)。仕訳で表すと次のとおりであり、この借方「自己株式」は資産ではなく、純資産のマイナスという意味です。


自己株式  XXX / 現預金  XXX

期末に保有する自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾に自己株式として一括して控除する形式で表示します(自己株式等会計基準8項)。自己株式の取得は、株主に対する資本の払戻しと考えられるため、企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」に基づき、純資産の部のうち株主資本の部において、控除形式で表示するものとされています。
純資産の部の株主資本の末尾に一括してマイナス表示するだけであり、株主資本の各項目(資本金、資本準備金、利益準備金、その他資本剰余金、その他利益剰余金)のうちのいずれの項目に対応するのかという考え方を採っていない点が重要なポイントです(<表1>参照)。


表1 貸借対照表

この自己株式は、処分した場合には処分差益はその他資本剰余金に計上し、処分差損はその他資本剰余金の減少として処理します(自己株式等会計基準9項、10項)。また、消却したときはその他資本剰余金の減少として処理します(自己株式等会計基準11項)。それらの会計処理の結果、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、会計期間末において、その他資本剰余金を零とし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します(自己株式等会計基準12項)。

Ⅳ 自己株式の税務

1. 法人税の取扱い

税務上も、平成18年度税制改正以降は、自己株式の取得は株主に対する「資本の払戻し」として整理されています。株主に対する「資本の払戻し」は、法人税法上、法人税法24条1項の規定の適用を受けます。いわゆる「みなし配当」事由です。
すなわち、自己株式を取得した発行法人は、①資本金等の額を減算し、②交付金銭の額(払戻額)が、①の資本金等の額の減算額を上回る場合はその超過額についての利益積立金額の減算として処理します。要するに、株主に対する資本の払戻しを、資本金等の額からの払戻しと、それを上回って払戻ししたときの利益積立金額からの払戻しに区分計算するものとされ、この利益積立金額からの払戻しがあったときに、これを「みなし配当」、すなわち税務上配当とみなして取り扱うことになります。
具体的には、取得直前の(会社全体の)資本金等の額を直前の発行済株式(自己の株式を除く)の総数で除し、これに取得する自己株式の数を乗じて計算した金額(取得資本金額という)について資本金等の額を減算し、交付金銭の額(払戻額)がその額(取得資本金額)を超えるときにその超過額を利益積立金額の減算(株主にとって配当とみなされる)とします(法令8条1項18号、9条1項13号)(<表2>参照)。

(下の図をクリックすると拡大します)


ただし、上場会社等が市場取引によって自己株式を取得した場合は、交付金銭の額(払戻額)について資本金等の額を減算し(法令8条1項19号)、利益積立金額の変動はないものとされます。みなし配当も生じません。

2. 地方税の取扱い

(1) 平成27年度税制改正の内容

平成27年度税制改正により、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額に関する重要な改正が行われました。改正点は2点あります。
第1に、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額は、法人税法上の資本金等の額に次に掲げる金額を加減算した金額であるとされました(地法292条1項4号の5)。平成27年4月1日以後に開始する事業年度について適用されます(<表3>参照)。


表3 法人税法上の資本金等の額に加減算すべき額

前記は無償増減資等に係る加減算規定ですので、自己株式の取得について本改正の影響はありません。影響が生じ得るのは、次の改正です。
第2に、法人住民税均等割の税率区分の基準である資本金等の額が、資本金に資本準備金を加えた額を下回る場合、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額を資本金に資本準備金を加えた額とすると規定されました(地法52条4項)。適用時期は、先と同じ平成27年4月1日以後に開始する事業年度になります。


法人住民税均等割の税率区分の基準である資本金等の額 < 資本金の額 + 資本準備金の額 →法人住民税均等割の税率区分の基準となる額を、資本金の額+資本準備金の額とする。

改正前は、法人住民税均等割の税率区分の基準となる資本金等の額は、法人税法2条16号に規定する資本金等の額とされ規定されていましたので(旧地法292条1項4号の5)、法人住民税均等割の税率区分の基準となる資本金等の額と法人税法上の資本金等の額は常に一致していました。しかし、これらの改正により、法人住民税均等割の税率区分の基準となる資本金等の額と法人税法上の資本金等の額が常に一致するとは限らないことになりましたので、毎期チェックしなければなりません。

(2) 自己株式の取得における影響

自己株式を取得したときに、先の二つ目の改正の影響を受ける場合が生じます。すなわち、自己株式を取得しますと、すでに説明しましたように、法人税法上の資本金等の額は減少します。従って、先の不等式の左辺が減少します。しかし、自己株式を取得するときに、資本金や資本準備金を減少することは通常ありませんので、右辺は変動しません。その結果、左辺が右辺を下回り、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額は、右辺の資本金の額に資本準備金の額を加えた額となりますので、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額は従前のまま変わらないということになります。改正前は法人住民税均等割が下がるケースがありましたが、改正後は直ちに下がることはないということになります。

(注)文中、法令条文等は、以下の通り略して記載しています。
   法令:法人税法施行令
   地法:地方税法
   地規:地方税法施行規則


(下の図をクリックすると拡大します)