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雇用保険法等の一部改正について第1回 育児関係

2016年7月29日 PDF
カテゴリー EY Law

情報センサー2016年8月・9月合併号 Law update

EY弁護士法人 弁護士 久保田淳哉

国内大手法律事務所において、国内企業・外国企業を依頼者とするさまざまな人事労務案件に従事。2015年10月よりEY弁護士法人に入所。米ニューヨーク州弁護士、経営法曹会議 会員、第二東京弁護士会労働問題検討委員会 幹事。

Ⅰ はじめに

2016年3月29日、雇用保険法等の一部を改正する法律が成立しました(以下、本改正)。本改正は、雇用保険法のみならず、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、育児・介護休業法)などの複数の法律の改正を行うものです。本稿ではまず、本改正のうち育児・介護休業法改正による育児に関する諸制度の改正を取り上げます。本改正のその他の部分については、改めて解説を行っていく予定です。
なお、本稿のうち下線を付した部分は、脱稿時(平成28年6月13日時点)にいまだ成立していない、本改正に関わる厚生労働省令案・指針事項案に基づく記載ですので、ご留意ください。

Ⅱ 育児・介護休業法の改正による育児関連諸制度の改正内容(2017年1月1日施行)

本稿では、本改正による改正後の条文番号を記載しています。

1. 対象となる子の範囲の拡大

本改正前は、育児休業の対象となる「子」は、労働者と法律上の親子関係がある子、つまり、実子及び養子に限られていました。本改正により、以下の類型が育児休業の対象として追加されました。

①労働者が特別養子縁組の成立について家庭裁判所に請求し同審判手続が係属中であり、かつ、当該労働者が現に監護する者(育児・介護休業法2条1号)

②児童福祉法に基づく養子縁組里親制度により労働者に委託されている児童
及び養子縁組を希望しているが、事情により、児童福祉法に基づく養育里親制度により労働者に委託されている児童)(育児・介護休業法2条1号、同法施行規則

この拡大は、「子」の定義自体を拡大するものですので、育児休業のみならず、育児・介護休業法による育児関連の他の諸制度、つまり、子の看護休暇、所定外労働免除制度、時間外労働制限制度、深夜業制限制度などにも適用されます。介護休業の対象となる「対象家族」の中にも「子」が含まれていますが、こちらは拡大の対象とはなっていません(育児・介護休業法2条1号参照)。
なお、本改正により、育児休業給付金の支給対象となる子の範囲についても、同様の拡大が行われます※1

2. 育児休業取得可能な有期雇用労働者の範囲

本改正前は、有期雇用労働者については、二つの要件を満たす場合に限り、育児休業の申出ができることとされていました(<表1>参照)。

表1 有期雇用労働者の育児休業申出要件(育児・介護休業法5条)

要件②がわかりづらいというのが改正理由の一つであったのにもかかわらず、改正後も依然として一見して明確ではない書き振りとなってしまったのが、非常に残念なところです※2
第172回労政審議会での配布資料(資料1)として公表されている指針事項(案)において、改正後の要件②の解釈について説明がなされており、以下がそのポイントとなります(指針事項案1(1))

①育児休業申出の時点で判明している事情に基づく判断であること

②当該子が1歳6か月に達する日までに不更新が生じることが契約(口頭合意を含む)上確実である場合以外は、「満了することが明らかでない」場合になること

有期雇用労働者からの育児休業の取得申出については、前記に十分留意して取り扱うことが大切です。

3. 子の看護休暇

本改正前は、子の看護休暇は、1日単位で取得するものとされていました(ただし、企業によっては、すでに時間単位での取得を認めている例もありました。)が、本改正により、1日未満の単位(半日単位)での取得を義務的に認めることとなりました(育児・介護休業法16条の2第2項、同法施行規則)。ただし、一定の短時間労働者(1日の所定労働時間が4時間以下の労働者)は、この改正の対象からは除外されます。
この「半日単位」とは、1日の所定労働時間数の2分の1とされています。また、日によって1日の所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1日の平均所定労働時間数の2分の1となります。また、半日単位の休暇は、始業時刻又は終業時刻と連続することを要するものとされています。
また、「半日」については、労使協定で定めることにより、所定労働時間の2分の1以外の時間数とすることも可能とされます。

以下の労働者は、労使協定に定めることにより、子の看護休暇の取得対象から除くことが可能です(本改正前から同様)。

①勤続6か月に満たない労働者(育児・介護休業法16条の3第2項において準用する6条1項ただし書1号)

②1週間の所定労働日数が2日以下の労働者(育児・介護休業法第16条の3第2項において準用する6条1項ただし書2号、同法施行規則30条の2、同7条2号、平成23年3月18日厚生労働省告示58号)

本改正により、1日未満の単位での子の看護休暇の取得に限り、労使協定で対象から除外できる労働者が追加して定められました(育児・介護休業法16条の3第2項において準用する同法6条1項ただし書2号)。

③業務の性質若しくは業務の実施体制に照らして、1日未満の単位で子の看護休暇を取得することが困難と認められる業務に従事する労働者

第172回労政審議会での配布資料(資料1)として公表されている指針事項(案)においては、このような業務の例として、以下のような業務が挙げられています(指針事項案3)。

①国際路線等に就航する航空機において従事する客室乗務員等の業務等であって、勤務時間の途中まで又は途中から子の看護休暇を取得させることが困難な業務

②長時間の移動を要する遠隔地で行う業務であって、半日単位での子の看護休暇を取得した後の勤務時間又は取得するまでの勤務時間では処理することが困難な業務

③流れ作業方式や交替制勤務による業務であって、半日単位で子の看護休暇を取得する者を勤務体制に組み込むことによって業務を遂行することが困難な業務

ただし、これら以外であっても該当する業務はあり得、また、これらであれば直ちに困難と認められるわけでもないとされているため、労使協定の締結に当たっては慎重な検討が必要でしょう。

Ⅲ おわりに

本稿で解説した育児休業関連の改正は、就業規則に定めを要する事項であるため、来年(17年)1月1日までに本改正の内容に留意しながら、関連する社内規程を改訂する必要があります。

※1特別養子縁組成立前の監護中の子(前記①)については、本改正前からすでに支給対象とされていたが、法所定の育児休業の対象とはなっていないという問題点が指摘されていた。

※2労働政策審議会の議事録では、「法制局と法制的な調整をする中で、このような書き方となりました」と説明されている。

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