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物流・倉庫業における内部統制と会計処理のポイント

2016年9月30日 PDF
カテゴリー 業種別シリーズ

情報センサー2016年10月号 業種別シリーズ

物流セクター 企業会計ナビチーム

Ⅰ はじめに

近年は、欲しいモノがいつでも入手できる時代へと変化しています。それを可能にしているのは、物流・倉庫業です。当法人では、経済発展の下支えを行っている物流・倉庫業の経営環境や経営課題を整理し、会計処理に与える影響などを議論しています。
本稿では、物流・倉庫業の経営環境の変化、そして、内部統制上と会計上の論点を解説します。

Ⅱ 物流・倉庫業の経営環境

物流・倉庫業を取り巻く環境は<表1>のとおり、大きく変化しています。

表1 物流・倉庫業の経営環境の変化
図1 一般小売価格(軽油)(円/L)

Ⅲ 物流・倉庫業における内部統制のポイント

特に物流・倉庫業では、荷主に対して配送・保管・荷役・その他サービスと、多くの業務を提供します。社内の作業日報などを基に荷主へ請求を行うため、売上の計上根拠資料が社内の内部資料となることがあります。根拠のない不適切な売上が計上されるリスクを認識し、それらを予防・発見する内部統制を構築する必要があると考えます(<表2>参照)。

表2 内部統制のポイント例

Ⅳ 物流・倉庫業における会計処理のポイント

1. 収益計上基準

物流業においては、短期間に貨物を大量輸送し、同質のサービスを反復継続していることなどを考慮して、実務上は影響が軽微であることを前提に、国内輸送における積込基準や、海上輸出におけるB/L(船荷証券)発行日基準など、会社が合理的と認める収益計上基準を継続して適用しているケースがあります。一方で、輸送が長期間にわたって行われる場合、作業の進捗(しんちょく)に応じて売上計上するケースがあります。
また、倉庫業においては、通常、保管業務の取引慣行として1カ月の保管料収入を10日ごとに分割して計上する、いわゆる3期制が採用されています。

2. 売上債権貸倒時の貸倒引当金計上

物流・倉庫業において売上債権の貸し倒れが発生した場合、債権回収の手段として商事留置権の行使が有効です。商事留置権とは、債権者、債務者ともに商人である場合、商行為によって生じた債権の弁済を受けるまで、債権者が商行為によって占有するに至った債務者所有の物または有価証券を留置する権利をいいます。貸倒引当金計上時には、商事留置権の影響を考慮する必要があります。

3. 燃料費に係るヘッジ取引

軽油購入取引の価格変動リスクを、原油デリバティブ取引を用いてヘッジする取引について、ヘッジ会計の要件を満たし、ヘッジ会計を適用できる可能性もあると考えられます。しかし、軽油と原油の価格変動には一定程度の相関関係はあると考えられるものの、ヘッジ有効性の評価における高い相関関係(金融商品会計に関する実務指針第156項)があるとはいえず、ヘッジ会計の適用要件を満たさない可能性も相当程度、存在すると考えられます。このため、このような取引については、ヘッジ会計の適用要件について慎重に判断する必要があります。

4. 減価償却方法の変更

物流・倉庫業においては、近年、安定的な設備の稼働や収益獲得が見込まれることなどから、倉庫内の設備やトラックなど有形固定資産の減価償却方法を定率法から定額法に変更するケースも見受けられます。

Ⅴ おわりに

物流・倉庫業を取り巻く環境は大きく変化しています。従来は荷主が強い立場にありましたが、近年は、消費者ニーズを満たすため、荷主にとっても物流・倉庫会社との連携が必要不可欠な時代となっています。物流・倉庫業の果たす役割は、今後さらに大きくなるものと考えられます。

当法人ウェブサイトの「企業会計ナビ」のコーナーでは、物流・倉庫業の内部統制上および会計上の論点を詳細に解説しています。以下のURLからご覧ください。

www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/

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