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スペインの外国持株会社特別税制ETVEについて

2016年9月30日 PDF
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情報センサー2016年10月号 JBS

バルセロナ駐在員 公認会計士 脇崎喜範

2002年当法人に入所。化学品・食品製造業をはじめ、幅広い業種の国内企業の会計監査を中心に、上場準備、IFRS導入準備などのアドバイザリー業務に従事。14年よりEYバルセロナ事務所に現地日系企業担当として駐在中。スペインに既進出、進出予定の日系企業の会計・税務・法務・M&A関連業務などのサポート業務に従事している。

Ⅰ はじめに

日本の親会社が外国子会社から配当を受け取る場合、子会社所在国の税法に従い、配当源泉税が課せられます。
本邦法人税法の外国子会社配当益金不算入制度では、外国子会社が配当を行う際に課せられる源泉税に対する税額控除はないため、外国子会社の配当源泉税の軽減は、連結ベースでの納税額の削減に直接的な影響をもたらします。
本稿では、日本の親会社がスペインに中間持株会社を持ち、その下に各国孫会社がある場合を例に、配当に関する各段階の課税関係とスペインの外国持株会社特別税制(Entidades de Tenencia de Valores Extranjeros:ETVE)の利用について解説します。
(<図1>参照)

図1 関連図

Ⅱ X国孫会社での配当源泉税の取扱い

配当を行う孫会社の所在するX国の税法に従い、配当源泉税が課せられます。X国が欧州連合(EU)加盟国の場合や、スペインと二国間租税条約を締結している場合には、X国の税法に定められている税率より有利となります。

1. EU親子会社指令

スペインはEU加盟国であるため、X国がEU加盟国の場合、EU内の親子会社関係となります。この場合、EUの親子会社指令※1に沿ったX国税法に基づいて、EU親子会社間の配当源泉税は基本的にゼロとなります※2

2. 二国間租税条約

X国が非EU加盟国でスペインと二国間租税条約を締結している場合、二国間租税条約による配当源泉税率はX国の税法による税率より有利となり、配当源泉税が軽減されます。スペインと租税条約を締結している国は約90カ国と広範囲に及びますが、特に数多くの中南米諸国と租税条約を締結している点が特徴です。
(<表1>参照)

表1 主要中南米諸国とスペインとの租税条約による配当源泉税率(%)

Ⅲ スペイン子会社での受取配当金と配当源泉税の取扱い

スペイン中間持株会社の段階においては、スペイン子会社の法人税の課税所得計算上の受取配当金の取扱いと、スペイン子会社が日本親会社に行う配当に対する配当源泉税の取扱いがポイントとなります。

1. 資本参加免税制度

他EU加盟国と同様にスペインでも、一定要件の下で外国子会社がスペイン親会社に対して実施する配当や、キャピタルゲインを免税とする資本参加免税制度(Participation Exemption Regime)が定められています。2015年1月より施行されたスペイン改正税法における資本参加免税制度の適用要件は以下になります。

  • 保有要件
    直接または間接保有割合が5%以上または株式取得価額2千万ユーロ以上で、かつ保有期間が1年以上であること。
  • 課税要件
    子会社所在国がスペインと同一または類似した法人税制度を持ち、課税を行っていること。具体的には子会社所在国の法人税制において、10%以上の税率を定められていることが必要。なお、スペインと租税条約を締結している国は本要件を満たしていると見なされ、スペイン税法上タックスヘイブンに指定されている国は本要件を満たしていないと見なされる。

前記要件を満たすX国孫会社がスペイン子会社に対して行う配当は、スペイン子会社の法人税の課税所得計算上、100%益金不算入となります。なお、別に外国税額控除の制度もあり、資本参加免税制度の要件を満たさない場合はこちらを利用することも可能です※3

2. スペインと日本の二国間租税条約

スペインと日本は二国間租税条約(以下、日西租税条約)を締結しています。スペインの法人税法による配当源泉税は19%ですが、日西租税条約により、一定の要件(配当が支払われる事業年度末の6カ月以上前から直接的に議決権の25%以上を保有する)を満たす場合には、日本の親会社に対する配当に対してスペインで課税される配当源泉税は10%となり、要件を満たさない場合には15%となります。

3. ETVE

(1) ETVEの特徴

ETVEは、1995年に制定されたスペインにおける外国持株管理会社のための特別税制です。配当に関してETVEを利用するメリットは、以下の通りです(他にキャピタルゲインに関するメリットもあります)。

  • ETVE配下の外国子会社からETVEが受け取る配当金はETVEの法人税の課税所得計算上、100%益金不算入となる(前述の資本参加免税制度の適用要件を満たす必要がある)。
  • ETVEが行うETVE株主に対する配当のうち、ETVEの配下の外国子会社の利益を源泉とする部分はスペインでの獲得所得と見なされず、源泉税がゼロとなる(スペインETVEから日本親会社への配当の際、スペインでの配当源泉税がゼロとなる)。

(2) 適用申請と要件

ETVEの利用に当たっては、①「外国子会社の運営管理」がETVEの事業目的となっている②人的物的な組織を伴って外国子会社の運営管理を行っている、の二つの要件を満たして税務当局に申請を行う必要があります。ETVEの事業目的は、外国子会社の運営管理のみである必要はありません。スペインで営業活動を行っている既存子会社が要件を満たすよう事業目的を追加し、外国子会社の運営管理を行えば、新規に適用することが可能です。なお、ETVE自体の事業活動によって生み出された所得を源泉とするETVE株主への配当は、スペインでの獲得所得となり配当源泉税はゼロとはならず、日西租税条約の10%または15%が適用されます。
また、ETVE制度の利用は、スペイン法人税法の他の規定の利用を妨げるものではありません。例えば、スペインにETVEを含んだ複数のグループ会社が存在し、当該企業グループが連結納税制度を利用する場合には、ETVEを連結納税グループに含めることが可能です。

Ⅳ 日本親会社での受取配当金の取扱い

日本親会社において、外国子会社からの受取配当金は本邦法人税法の外国子会社配当益金不算入制度に従い、一定の要件(保有割合が25%以上で、配当などの額の支払義務が確定する日以前6カ月以上保有)を満たす場合には、受取配当金の95%が益金不算入となり、残りの5%が益金として法人税の課税所得となります。外国子会社で支払った配当源泉税に対する税額控除はありません。

Ⅴ ETVEを利用した場合の課税関係

ETVEを利用した場合の配当に関する各段階の課税関係は<図2>の通りです。

図2 ETVEを利用した場合

1. X国の課税関係

X国孫会社での獲得利益に対してX国の法人税が課税された後は、当該X国がEU加盟国の場合は配当源泉税はゼロとなり、EU非加盟国の場合は二国間租税条約またはX国税法に従った配当源泉税が課せられます。

2. スペインの課税関係

ETVEを利用することで、外国子会社からの受取配当金はETVEの法人税の課税所得計算上100%益金不算入となり、それを財源とした親会社への配当に関する配当源泉税はゼロとなります。いわゆるゼロイン・ゼロアウトで、外国子会社から受け取った配当をそのまま日本の親会社に還元することが可能です。

3. 日本の課税関係

日本親会社の法人税の課税所得計算において、スペインのETVEから受け取った配当金の95%が益金不算入となります。

Ⅵ おわりに

ETVE制度の利用に関するメリットをまとめると以下になります。特に外国子会社がEU加盟国に所在している場合や、スペインが租税条約を広く締結している中南米諸国に所在している場合に、連結ベースでの配当金に関する源泉税負担を軽減するのに有効なスキームであるといえます。

①スペインはEU加盟国であるので、EU親子会社間の有利な税制を利用できる(EU加盟国子会社の配当源泉税がゼロとなる)。

②スペインが広範囲に有している租税条約(特に中南米諸国)を利用し、各国配当源泉税を軽減できる。

③ETVEを経由することで、スペインの中間持株会社段階での課税をゼロにできる(ゼロイン・ゼロアウト)。

※1親子会社指令(Parent-Subsidiary Directive)は、EU加盟国間の親子会社関係での二重課税排除を目的として制定された指令。原則として、EU加盟国が指令に従った国内法を規定することで、効力が生じる(各国の裁量により、全く同一の国内法ではない場合がある)。

※2ただし、最終親会社の所在国が日本(非EU加盟国)である場合には、制度適用に関する乱用防止規定について注意が必要

※3X国孫会社収益の70%以上がその下の子会社(ひ孫会社)からの配当やキャピタルゲインで構成されている場合、当該ひ孫会社についても資本参加免税制度の適用要件を満たしていることが必要

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