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M&Aにおけるデューデリジェンスの主な目的とプロセス

2016年9月30日 PDF
カテゴリー Trend watcher

情報センサー2016年10月号 Trend watcher

EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
M&Aアドバイザリー 笹山 宏

国内大手証券会社および外資系証券会社において資本調達業務およびM&A業務に従事した後、EYグループに参画。国内外の買収、事業再編、経営統合に関してM&A戦略立案から案件執行までのアドバイザリーサービスを提供。公認会計士。

Ⅰ はじめに

M&Aにおいて買い手が意思決定を行う際には十分な調査と検討が必要となり、この調査はデューデリジェンス(以下、DD)といわれています。DDにおいては、専門性などの観点から弁護士・会計士・税理士などの外部専門家を登用することが多く、各専門家との円滑なコミュニケーションが重要になります。
本稿では、各専門家とのコミュニケーションの観点を踏まえつつ、DDの主な目的とプロセスについて、その概要と実務上の留意点を解説します。

Ⅱ DDの主な目的

案件ごとに重点を置くべき調査項目は異なりますが、一般にDDの主な目的は次の通りです。

1. ディールブレイカーの有無

ディールブレイカーとは、重要な権利や許認可の不存在など、M&Aの検討を取りやめるほどの重要な項目を指します。ディールブレイカーが存在する場合、検討は中断となるため、可能な限りDDの初期段階で確認することが必要となります。

2. 買収価格

ターゲット企業をどのような評価手法で採用するかにもよりますが、M&Aにおいて多く用いられているDCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)を採用する場合においては、ターゲット企業の将来事業計画の妥当性・実現可能性に関する調査が必要となります。加えて、買収シナジーの検討のための調査も必要です。最終的には、ターゲット企業の企業価値を踏まえて相手方に提示すべき買収価格が検討されます。

3. 買収スキーム

DDを通して得られた情報を踏まえて買収スキームの最終検討が必要となります。例えば、ターゲット企業に税務上の繰越欠損金が存在する場合、当該繰越欠損金を有効活用できるスキームを検討するケースがあります。

4. 契約内容

DDを通して得られた情報を踏まえて、買収リスクを抑制するために相手方に対して買収実行までの対応を要請すべき項目や、損害が生じた場合に補償を求める項目などの検討が必要になります。契約内容には買収価格や買収スキームも同様に記載されますが、どのような内容とすべきかは、DDの結果のみならず、交渉戦略の観点からも検討が必要となります。

5. 買収手続き

当局の認可や独占禁止法上の届け出など、買収手続きに必要な手続きの確認が必要となるケースがあります。特に、ターゲット企業が外国企業である場合や海外で大規模な事業展開を行っている場合は、海外での競争法手続きが必要となるケースがあるため、留意が必要です。

6. 買収後の事業運営方針

ターゲット企業の買収後の事業運営体制、事業運営方針などの検討のための調査が必要です。特に、買収完了までの期間が短い案件においては、買収後スムーズに事業を引き継ぐための各種検討を早期に行う必要があります。

Ⅲ DDのプロセス

1. DD方針の検討

DD実施前に、買収を検討する背景と重点調査項目について、専門家と共有・協議することが望まれます。これにより、専門家は専門分野を広くカバーすることに加え、買い手のニーズに沿った調査項目の深掘りが可能となります。
また、海外案件においては現地専門家を登用するケースがありますが、いざという時の相談相手として機能するか否か、専門家の選定やフォーメーションの検討の際には留意が必要です。

2. DD実施

前述のとおり、ディールブレイカーについては、可能な限りDDの初期段階で確認することが必要となります。また、調査の過程で状況に応じて重点調査項目の変更や追加が必要になるケースもあります。そのため、DD期間には専門家との密なコミュニケーションが不可欠となります。実務的には、随時各専門家とコミュニケーションをとるほか、定期的なコミュニケーションの場を設定することも考えられます。

3. DD結果の検討

DD結果を踏まえて、案件検討継続の可否、買収価格、買収スキーム、契約内容、買収手続き、買収後の事業運営方針などを検討します。最終的な買収条件は相手方との最終交渉を経て決定されますが、スムーズな最終交渉のためには、DDの結果と対応方針を最終交渉開始前に整理しておくことが肝要です。

図1 主なDD目的とDDプロセス

Ⅳ おわりに

M&AにおけるDDにおいては、複数の専門家が関与することが多く、その場合には各専門家との円滑なコミュニケーションが重要となります。また、M&Aにおいては案件ごとに置かれた状況が異なるため、実際のDDプロセスについては、案件ごとに財務アドバイザーや各専門家と密に協議した上で決定することが重要です。

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