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雇用保険法等の一部改正について第2回 介護関係

2016年9月30日 PDF
カテゴリー EY Law

情報センサー2016年10月号 Law update

EY弁護士法人 弁護士 久保田淳哉

国内大手法律事務所において、国内企業・外国企業を依頼者とするさまざまな人事労務案件に従事。2015年10月よりEY弁護士法人に入所。米ニューヨーク州弁護士、経営法曹会議 会員、第二東京弁護士会労働問題検討委員会 幹事。

Ⅰ はじめに

2016年3月29日、雇用保険法等の一部を改正する法律が成立しました(以下、本改正)。本改正は、雇用保険法のみならず、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、育児・介護休業法)などの複数の法律の改正を行うものです。本稿では、前回(本誌 16年8月・9月合併号)の育児関係に引き続き、本改正のうち育児・介護休業法改正による介護に関する諸制度の改正を取り上げます。介護に関する諸制度の今回の改正は非常に大きなものですので、一層の留意が必要です。
なお、本稿のうち下線を付した部分は、脱稿時(16年7月28日時点)にいまだ成立していない、本改正に関わる厚生労働省令案・指針事項案に基づく記載ですので、ご留意ください。

Ⅱ 育児・介護休業法の改正による介護関連諸制度の改正内容(17年1月1日施行)

本稿では、本改正による改正後の条文番号を記載しています。

1. 対象となる「家族」の範囲の拡大

本改正前は、介護休業、介護休暇、時間外労働の制限などの介護に関する制度の対象となる「対象家族」は、以下の者とされていました。

①配偶者(事実婚を含む)

②父母

③子

④配偶者の父母

⑤祖父母(同居かつ扶養が必要)

⑥兄弟姉妹(同居かつ扶養が必要)

⑦孫(同居かつ扶養が必要)

本改正により、前記⑤から⑦までの者について、同居・扶養要件が削除されます(育児・介護休業法施行規則)。つまり、本改正の施行後は、祖父母・兄弟姉妹・孫について、同居や扶養の有無を問わず、介護休業をはじめとする介護関連の諸制度の利用が可能となります。なお、前記の①から④までの者については、本改正前から同居や扶養の有無は問題とならず、介護休業をはじめとする介護関連の諸制度の利用が可能です。

2. 介護休業の改正①(有期雇用労働者の範囲)

本改正前は、有期雇用労働者については、二つの要件を満たす場合に限り、介護休業の申出ができることとされていました(<表1>参照)。

表1 有期雇用労働者の介護休業申出要件(育児・介護休業法11条)

第172回労働政策審議会(雇用均等分科会)での配布資料(資料1)として公表されている指針事項(案)において、改正後の要件②の解釈について説明がなされており、以下がそのポイントとなります(指針事項案1(2))。

①介護休業申出の時点で判明している事情に基づく判断であること

②93日経過日から6カ月が経過する日までに不更新が生じることが契約(口頭合意を含む)上確実である場合以外は、「満了することが明らかでない」場合になること

有期雇用労働者からの介護休業の取得申出については、前記に十分留意して取り扱うことが大切です。

3. 介護休業の改正②(取得期間・取得回数)

本改正前は、介護休業の取得には、二つの制限がかかっていました。
一つ目は、一度ある対象家族について介護休業を取得した場合、同じ対象家族が前回の介護休業開始から引き続き要介護状態にあるときには、原則として新たな介護休業は取得できないという制限です※1
二つ目は、対象家族ごとに、介護休業の日数のみならず、これと時短措置などの諸措置を受ける日数の合計での上限が93日とされているという制限です。
本改正により、これらの制限は大幅に変更されました。
まず、第一の制限については、要介護状態の継続に限らず、対象家族ごとに3回まで介護休業を取得できることとされました(育児・介護休業法11条2項1号)。
そして、第二の制限については、対象家族ごとに、時短措置など介護関連の配慮措置を受ける日数とは関係なく、介護休業のみでの日数の上限を93日としました(育児・介護休業法11条2項2号)。

4. 介護休暇の改正

本改正により、介護休暇は「子の看護休暇」と同様に取得できることとなりました。詳細は、本誌 16年8月・9月合併号をご覧ください。

5. 介護のための所定外労働免除制度の創設

本改正により、介護のための所定外労働の制限制度が導入されました(育児・介護休業法16条の9)。
制度の内容は、育児のための所定外労働の制限制度(育児・介護休業法16条の8)とほぼ変わらず、育児のための所定外労働の制限制度の条文をほぼそのまま準用する形で立法されています。
介護のための所定外労働の制限制度からは、育児のための同制度と同じく、労使協定により一定の労働者を適用対象から除外できますが、あくまでも労使協定が必要とされている点※2には留意すべきです。

6. 介護のための所定労働時間の短縮等の措置

本改正前も、使用者の措置義務は存在しましたが、前記のとおり、対象家族ごとに、介護休業の日数と合わせて93日間を上限とするものでした。
本改正により、使用者の措置義務は、介護休業の日数とは関係なく、労働者による申出の日から起算して3年間以上の期間、所定労働時間の短縮その他の措置を講ずる義務となりました(育児・介護休業法23条3項、4項)。この「その他の措置」の内容については、フレックスタイム制、始業時刻又は終業時刻の繰り上げ又は繰り下げ制度、労働者が負担する費用の助成などが想定されています。また、この3年間以上の期間において、少なくとも2回以上の申出を可能とする必要があります。
この措置義務の対象からは、労使協定により、以下の労働者を除外することが可能です(育児・介護休業法23条3項1号、2号)。

①勤続1年に満たない労働者

②1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

Ⅲ おわりに

本稿で解説した介護関連の改正は、前回解説した育児関連の改正と合わせ、就業規則に定めを要する事項ですので、来年(17年)1月1日までに、本改正の内容に留意しながら、関連する社内規程の改訂作業を進めていく必要があります。

※1同じ対象家族についても異なる要介護状態であれば新たな介護休業の取得は可能

※2現在、育児に関して労使協定が存在しても、それではカバーされない点

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