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情報センサー2017年2月号 Trend watcher

非上場会社の種類株式の活用と評価

EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
バリュエーション&ビジネス・モデリング 米国公認会計士 三森亮平
国内大手事業会社などの財務・経理部門を経て、2008年にEYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)に参画。主に事業・株式価値算定、ハイブリッド証券、オプション性金融商品の価値算定業務を担当。日本証券アナリスト協会 検定会員。

Ⅰ はじめに

非上場会社、特に今後の成長の可能性と共にリスクも併せ持つベンチャー企業へ投資する際、かつては普通株式による投資というスキームが一般的でした。しかし、『ベンチャー白書2016』(一般財団法人 ベンチャーエンタープライズセンター)によると、組合投資内における株式投資のうち、種類株式の占める割合は25%程度(11年度)から55%超(15年度)の水準まで増加し、着実に種類株式の活用が拡大しています。本稿では、種類株式の活用のメリットと評価実務の一例を説明します。

Ⅱ 種類株式活用のメリット

種類株式による投資が好まれる理由は、投資家と発行体の双方にとって次のメリットがあるためと考えられます。

1. 投資家にとってのメリット

(1) 経済的優位性

優先配当権・残余財産分配権を保持することで、普通株主に比して優先的な経済的利益を享受することが可能となります。

(2) 支配権獲得

議決権、種類株主総会などを通じて、会社への一定程度の支配力を保持することが可能となります。

(3) Exit手段の多様化

優先配当権・残余財産分配権を踏まえると、転換権を付与されていたとしても、普通株式に転換するメリットはないと考えられます。しかし、種類株式が非参加型である場合には、普通株式での残余財産の分配を享受する方が経済合理的な場合に、転換権を行使することが考えられます。

2. 発行体にとってのメリット

(1) 資金調達手段の多様化

投資家のリスクを限定することで、資金調達しやすくなります。つまり投資家が求めるリスクリターンに応じた商品設計をすることで、投資家の参加を募りやすくなります。

(2) 経済的価値と支配をコントロール

種類株式に議決権を付与しなければ、経済的価値のみを種類株主に還元させるものの、会社に対するコントロールは普通株主が維持するという設計が可能となります。

Ⅲ 種類株式評価

1. 評価目的

前記を踏まえると、非上場会社の優先株式発行増加の傾向の可能性が高く、今後はさらなる種類株式の適切な評価が非常に重要になると思われます。種類株式の評価目的としては、主に次の二つが考えられます。

  • 会計目的
    IFRSの導入により、公正価値評価が必要となる場合
  • トランザクション目的
    発行時における発行条件、Exit時の譲渡価格の交渉のための理論価値の把握が必要となる場合

2. 評価手法

非上場会社の種類株式の価値評価において、Option Pricing Method(以下、OPM)を使用する局面が増加しています。『Valuation of Privately-Held-Company Equity Securities Issued as Compensation』(以下、AICPAのガイドライン)において、非上場会社の種類株式評価に関し、OPMを採用した評価例が明示されていることによる影響が大きいと思われます。また、IFRSではOPMの具体的な取扱いは言及されていないため、IFRSに基づいた公正価値評価においても、実務上はAICPAのガイドラインを参照する局面が多くなっています。

3. OPMの具体例

OPMでは、企業価値をコール・オプションのペイオフ・ダイアグラムとして見たてることとなります。そして、満期時のコール・オプションのペイオフ・ダイアグラムに基づき、評価対象の種類株式と普通株式に価値を分配することとなります。
次に、AICPAのガイドラインで紹介されている事例を見ていきます。以下が株式総価値、種類株式および普通株式の発行条件になります。

  • 株式総価値:$15.654Million(MM)
  • 種類株式
  • 優先配当権:なし
  • 残余財産分配:$1/株 合計$7.5MM
  • 流動化事象における参加権:非参加型(優先権の行使額を超えた部分の配分への参加権はなし)
  • 発行済み株式数:7.5MM
  • 転換権:対象会社の売却または合併時に、1:1の比率にて普通株式に転換可能
  • 普通株式
  • 残余財産分配権:優先株式に劣後(優先株式に分配後に普通株式に分配)
  • 発行済み株式数:11.25MM

例えば、会社清算時(優先株式は普通株式へ転換しない場合)における、普通株式へのペイオフ・ダイアグラムは以下となります。株式総価値が、優先株式の残余財産分配権を下回る場合には、普通株式価値はゼロとなります。株式総価値が、優先株式の残余財産分配権を上回る場合には、株式総価値-優先株式の残余財産分配権が普通株式価値となります。(<図1>参照)


図1 普通株式へのペイオフ

次に、優先株主が普通株式に転換する分岐点は、希薄化後の1株当たり普通株式価値が1株当たりの残余財産分配権価値$1となる時点です。完全希薄化後の普通株式数は18.75MM株(普通株式数11.25MM株+優先株式から転換の普通株式7.5MM株)ですので、株式総価値が$18.75MM(完全希薄化後1株当たり株式価値が$1)を超過する場合に、優先株主は普通株式に転換することとなります。全てのイベントを考慮した場合の普通株式と優先株式へのペイオフ・ダイアグラムは以下となります。(<図2>参照)


図2  普通株式と優先株式へのペイオフ

  • 1段階目のペイオフ
    株式総価値が$7.5MM以下→100%優先株主へ帰属
  • 2段階目のペイオフ
    株式総価値が$7.5MM以上$18.75MM以下→100%普通株主へ帰属
  • 3段階目のペイオフ
    株式総価値が$18.75MM以上→60%普通株主へ帰属、40%優先株主へ帰属

ダイアグラム内での各分岐点を超過する価値は、分岐点を行使価格とするコール・オプションの価値として算出できます。そのため、種類株式の価値は、コール・オプション(行使価格$0)の価値-コール・オプション(行使価格$7.5MM)の価値+40%×コール・オプション(行使価格$18.75MM)の価値となります。

Ⅳ おわりに

評価手法の選択は、評価目的、コスト(時間と費用)、評価手法の説明力などによって、案件ごとに判断する必要があります。また、評価手法自体も日々進化しており、従前に認められた評価手法が有効でないこともあるため、慎重に検討することが必要です。
今後の産業を築いていく可能性がある非上場会社への投資活動は、経済活性化のためには欠かすことのできない重要なファクターです。その前提として、投資に関しては、適切な評価に基づいて判断する必要があります。また、投資後の継続的なモニタリングや会計目的としての継続的な投資先の評価においても、適切な評価は重要となります。
新たな評価手法の登場と一般実務への普及は、評価対象の状況に応じた評価方法の採用が可能となり、種類株式の活用がさらに促されるため、企業の経済活動の活性化への一助となることを期待しています。


  • 米国公認会計士協会

情報センサー 2017年2月号