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情報センサー2017年3月号 業種別シリーズ

新たな収益認識基準が業種別会計に与える影響
第2回 建設業

建設セクター 公認会計士 田島哲平
主に上場会社の監査業務のほか、IPO準備会社の監査関連業務に従事。業種は建設業を中心に、サービス業、製造業などを担当。当法人の建設セクターナレッジメンバーとして執筆や各種ワーキンググループの活動を実施。

Ⅰ はじめに

2014年5月、国際会計基準審議会(IASB)はIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を公表しました。これを踏まえ、企業会計基準委員会(ASBJ)は日本基準の体系の整備を図り、日本基準を高品質で国際的に整合性があるものとするなどの観点から、収益認識に関する包括的な会計基準の開発について検討を進めています。
本連載では、こうした状況を踏まえながら、業種に特化した収益認識の論点などについて解説します。
なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 建設業における収益認識の特徴および論点

1. 工事の認識単位

(1) 工事契約会計基準の取扱い

日本基準における建設業の収益認識については、「工事契約に関する会計基準」(企業会計基準第15号:以下、工事契約会計基準)に基づいて行われています。工事契約会計基準において、工事の認識単位は当事者間で合意された実質的な取引の単位に基づくこととされています。
建設業は工事の完成までに契約の追加変更が行われることが多い業種だといえます。追加変更契約の内容について、従前の契約に包含されるものか、別個の新たな契約かを検討し、前述の当事者間で合意した実質的な取引の単位に基づいて会計処理が行われます。

(2) IFRSの取扱い

IFRS第15号では、契約が単一の商業的な目的を有し、包括的に交渉されているなどの一定の要件を満たし、「同一顧客」と「同時又はほぼ同時に」締結した複数の契約については、それらを結合して単一の契約として取り扱われます。単一の契約とされた取引については、契約に含まれる別個の財又はサービスを移転する約束のそれぞれを履行義務として識別し、この履行義務ごとに会計処理が行われます。
また、仕様の追加変更契約については、追加の内容が既存の契約と別個のものであり、かつ、対価が独立販売価格に適切な調整を反映した価格である場合には独立した契約として処理します。この条件を満たさない場合、変更時点で残存する財又はサービスが契約変更日において移転済みの財又はサービスと別個のものと判断されれば、既存の契約を終了して新たな契約を締結したかのように処理しますが、別個のものと判断されない場合には契約の変更を既存の契約の一部として処理することになります。

(3) ASBJの検討状況

工事の認識単位について、工事契約会計基準と基準開発の出発点であるIFRSは、いずれも契約の実質を勘案して判断するという点で、大きな差がないものと考えられます。
ただし、賃貸ビルの建設において、発注者との契約による設計・新築工事と、入居テナントとの契約による内装工事の両方を行う場合などの「同一の顧客」や「同時又はほぼ同時に」の判断、建設工事における追加変更契約についてのIFRSにおける要件への当てはめについては、判断が困難だという意見が寄せられています。いずれのケースも国内で広く見られる取引であることから、ASBJでも今後検討すべき課題として認識しています。
このように、わが国の実務に照らして判断が難しい事項については、実務における適用を容易にする観点から、ガイダンスの追加や設例の作成の要否について引き続き検討が行われる予定です。

2. 工事収益の認識基準

(1) 工事契約会計基準の取扱い

工事契約会計基準において、工事の進捗(しんちょく)部分について成果の確実性が認められる場合、すなわち工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進捗度の三つの要素について信頼性をもって見積もることができる場合には工事進行基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用します。
ただし、工期がごく短い工事契約については金額的な重要性が乏しいと考えられることから、工事完成基準の適用が認められています。

(2) IFRSの取扱い

IFRS第15号においては、企業が約束した財又はサービスを顧客に移転することによって履行義務を充足した時に、又は充足するにつれて、収益を認識することになります。一定の期間にわたり履行義務が充足していくというためには、企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産の創出又は価値の増加につれて、顧客が当該資産を支配するなどの一定の要件を満たす必要があります。その要件を満たし進捗度を合理的に算出できる工事については、履行義務の充足に合わせて、収益を認識していくことになります(工事進行基準)。一方で、進捗度を合理的に算出できない工事については、履行義務の結果を合理的に測定できるようになるまで、発生したコストが回収されると見込まれる範囲でのみ収益の認識を行うことになります(原価回収基準)。
なお、IFRSにおいては、工事契約会計基準のように工期がごく短い工事契約についての明文はありません。

(3) ASBJの検討状況

(2)に記載の通り、IFRSにおいて一定の期間にわたり履行義務が充足される要件を満たす場合には工事進行基準が適用されるため、工事契約会計基準との差異はありません。ただし、IFRSで要求されている一定の期間にわたり充足される履行義務の要件の判断が困難であるという意見や、規定の解釈が難しく工事1件ごとに工事進行基準に該当するかの判断を行うことは、実務上困難であるという意見が寄せられています。これを受けてASBJでは、収益認識に関する包括的な会計基準において、IFRS第15号の日本語訳で用いられている表現を見直した上で利用するかどうかや、追加的なガイダンスの要否について検討を行っています。
また、IFRSにおいては、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができない場合には、発生したコストの範囲内で回収が見込まれる金額で収益を認識する、原価回収基準が適用されると考えられます。工事契約会計基準において、簡便的に取り扱われている工期がごく短い工事契約についても、一定の期間にわたり充足される履行義務の要件が満たされる場合、原則として工事進行基準が適用されることになります。
この点、ASBJでは「小口工事や工期がごく短い工事」と「原価回収基準」について重要性に関する課題として認識しており、企業間の比較可能性を損なわせないかどうか、重要性を定性的なものとするか、定量的なものとするかという点を中心に、今後議論が進められる予定となっています。

Ⅲ おわりに

建設業においては、工事契約会計基準に従った会計処理を行っており、IFRS上の要件の当てはめや重要性に関する解釈によっては、システムの改修・変更を含めて検討する必要が出てきます。現在、ASBJでは意見募集に対して寄せられた意見や課題を踏まえ検討を行っており、17年6月までに公開草案を公表することを目標として開発を進めています。要件の整理や重要性の考え方も含め、今後のASBJの動向について注視していく必要があります。