刊行物
情報センサー2017年4月号 JBS

ミャンマーで新投資法が成立、改正の背景と現状の運用

ミャンマー駐在員 公認会計士 後藤洋平
2008年、当法人に入所。主に製造業、飲食業などの国内企業の監査、J-SOX導入支援、IFRS導入支援などに携わる。16年よりEYミャンマーに出向し、ヤンゴン駐在。現地日系企業のビジネス展開、会計・税務を中心としたサポートを行っている。

Ⅰ 新投資法成立の経緯

1. 外国投資法改正の経緯

ミャンマーでは、民政移管後の2012年、それまで約50年間続いた閉鎖的な軍事政権下で大きく後れを取った経済の発展を目的として、24年ぶりにForeign Investment Law(外国投資法)の改正を行いました。本改正により、税務上の恩典および土地の長期リース期間の強化を図り、外国企業により有利な投資機会を提供するとともに、それまで曖昧だった投資認可に関する手続きが明確になりました。

2. 民政下の経済成長

民政移管後に打ち出された管理変動相場制の導入や輸入自由化といった経済開放政策が国際社会からも肯定的に評価された結果、欧米諸国の経済制裁解除につながりました。日本も10年近く停止していた政府開発援助(ODA)を12年に再開するなど、15年までは右肩上がりに外国直接投資が増加し、世界でも有数の高い経済成長を実現しています(<図1>参照)。


図1 ミャンマーのFDIと経済成長率推移

しかし一方で、外国投資法のみならず、不動産譲渡制限法、ミャンマー投資委員会(MIC)通達、会社法などの既存法制度が実務上の外資規制として複雑に働き、外国企業にとって分かりにくいものとなっていました。

3. 統一的な投資規制としての新投資法

15年の総選挙の結果、アウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟が政権を獲得し、今後よりいっそうの経済開放、民主化が進むと考えられます。新政権の下で本格的にミャンマーでの投資環境を整備すべく、16年10月に外国投資法と内国投資法を統合する形で、Myanmar Investment Law(新投資法)が施行されました。これにより投資に関するルールを一本化し、これまで複雑だったミャンマーの投資規制を明瞭かつ合理的なものに一新することが期待されています。本稿では、新投資法のポイントを説明します。

Ⅱ 投資法の概要

新投資法は外資、内資を問わず、また既存、新規を問わず、ミャンマー国内の全ての投資に対して適用されます(新投資法第4条)。ここで、外資か内資の違いは、依然として外資規制が存在するため重要となります。外資の定義は会社法に従うものとされており、現在こちらも改正議論中の新会社法の下では、外国からの出資割合を35%とすることで検討されています。現行会社法では、1株でも外国からの出資があれば外資規制が適用されています。しかし、新会社法および新投資法では、マイノリティーの出資であればミャンマー内国会社と見做(みな)され、それゆえ外資規制の対象外となる可能性があり、これは投資形態の選択肢が大きく増えることを意味します。
新投資法ではMICの役割も変わりました。旧外国投資法では、規制事業については全てMICの許可を得なければならず、さらに免税措置や土地の長期リースといった投資インセンティブもMIC許可に付帯して自動的に付与されていました。新投資法では、MIC許可は一部の事業に限定され(同36条、37条)、税務恩典や土地長期リース権の取得は、規制事業以外の全ての事業に対して別途承認(Endorsement)を得ることで認められます(同37条)。投資インセンティブの付与と規制対象事業の認可手続を分離した点が、大きな改正ポイントです。

Ⅲ 投資規制

新投資法上の規制事業は、次のとおり示されています。

1. MIC許可が必要な事業(同36条)

国家戦略上重要な事業、資本集約的な事業、環境や地域社会に大きな影響を及ぼす事業など、一部の重要な分野に限定されています。

2. 禁止事業(同41条)

国家や公衆全般に悪影響を与える事業が列挙されています。

3. 制限事業(同42条)

政府のみ実施可能な事業、外資が行うことを禁止する事業、内資および外資の合弁企業のみ許可される事業、関連省庁の許可を必要とする事業と列挙されています。
具体的な業種が、今後MICからの通達という形でアナウンスされることとなりますが、経過規定が設けられており(同92条)、既存の通達が存続することが明記されています。従って、当面は旧外国投資法の運用基準として公表されている通達上の分類が判断基準となるでしょう。

4. 連邦議会の承認が必要な事業(同46条)

国家および国民の安全、経済、環境、国家利益に重大な影響を及ぼす事業とされています。

Ⅳ 投資インセンティブ

1. 不動産の長期リース権

従来はMIC許可を得た会社にのみ与えられていた権利ですが、新投資法の下では新たに規定された承認手続を行うことで、全ての会社に認められます。また、土地のみならず建物についても、承認を受けることで、長期リースが認められるようになっています。

2. 税務上の恩典措置

前記1.と同様に、承認手続が必要とされます。法人所得税の免税期間は地域の開発に応じて3、5、7年となります(従来はMIC許可の下で一律5年間)。また、税務恩典が受けられるのは、MICが指定する業種に限られます(同75条)が、具体的な業種については、今後、施行細則ないしMIC通達で明らかにされる予定です。

Ⅴ おわりに

過去の改正のいきさつを振り返ると、ミャンマーという国が大きく変わるタイミングで投資法が改正されてきたことが分かります。「アジア最後のフロンティア」と呼ばれ、世界の注目を浴びているミャンマーで、民主政権の下、新投資法が施行されたことは大変意義深いものと考えます。
しかし本稿執筆時点において、いまだ新投資法の下位規則がドラフト中と不完全であり、現在投資を検討中の企業には、法令の制定および実務の確立を待つというスタンスを取っているケースが多く見られます。ミャンマーでは法令、ルールと実務の間に乖離(かいり)がしばしば発生するため、今後の立法だけでなく実務面での運用についても留意が必要です。
新投資法ならびに執筆時点で第3次ドラフトとなっている投資法施行細則については、DICAウェブサイト(www.dica.gov.mm/en)にて入手できます。


情報センサー 2017年4月号