刊行物
情報センサー2017年4月号 Trend watcher

IoTやAIなどによる新たなテクノロジーや事業機会を自社に取り込んでいくためのM&Aの活用について

EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) 岩本昌悟
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)マネージング・ディレクター。事業戦略策定、新規事業開発支援、海外参入戦略、M&A戦略策定支援、M&Aの実行支援(ロングリスト、ショートリスト作成、候補先企業の評価など)、提携戦略の策定、事業評価、出資後のバリューアップなどの業務に従事。主に成長戦略の実現に向けた事業戦略の策定支援や、事業投資の評価および実行支援を中心としたマネジメントコンサルティングに携わってきた。

Ⅰ はじめに

今後の成長分野として、現在、Internet of Things(IoT)、人工知能(AI)が注目されています。今後のテクノロジーにより拡大が予想される新しいビジネスの領域は、どのようなものでしょうか。
企業は今までとは違う競合と相対し、新しいテクノロジーを取り込んで他社と協業することが成長には必要となります。また、新しいテクノロジーをM&Aにより自社に取り込んでいくためには、先端技術に関する専門的知識が必要です。自社に新しい技術や新たな事業領域を取り込んでいくためのM&A動向をまとめました。

Ⅱ IoTが既存ビジネスへモデルに与える影響

ITが出現した当初は、業務オペレーションを支える位置付けでしたが、業界構造に大きな影響を与えることはありませんでした。しかし、現在IoTには業界構造を大きく変換するほどの影響力があります。例えば、スマートフォンの登場で個人までIoTを活用する機会が拡大し、車を持たないタクシー会社、土地や建物を所有しない世界規模のホテルチェーン、回線を保有しない電話会社などが誕生したのもその例です。IoTは、私たちのビジネスを大きく変える力を持っています。企業は、成長するためにそのテクノロジーをうまく取り込むことを検討する必要があります。

Ⅲ IoTの活用によるビジネスの競争環境の変化

1. 自動車業界への影響

自動車業界は、IoTの影響を大きく受けています。既存の自動車会社は、今後違う分野での競合と戦っていく必要があります。例えば、今までは、自動車会社のライバルは、自動車メーカーでしたが、今後はソフトウエア会社が競合になり得ます。
業界の既存ビジネスモデルはIoTにより変わってきています。自動車を所有しないタクシー会社などは、タクシー業界に影響を与えただけではなく、自動車産業の在り方を変えています。米国や日本などでは、自動車の個人所有率に関してはピークを迎えつつあります。今後も自動車の所有率は減少していくという予測もあります。個人所有という考え方から、他人とシェアし、必要な時だけ使用するシェアリングという考え方が一般的になりつつあります。今後必要な交通手段としての車の数は、減っていく可能性もあるのです。

2. 物を売る時代からサービスが収益の中心となるビジネスへの変換

IoTは、他の業界へも今までと違うビジネスモデルを提示してきました。製造業も製品を売るというモノ売りを軸としたビジネスから、サービスを軸としたサービスプロバイダとなり、サービスから主な利益を得ることになります。例えば、産業機器をIoTを使いネットワークで監視することにより故障を事前検知、あるいは稼働履歴を把握することで燃費を向上させるなどのサービスが出現しています。ソフトウエア業界では、ライセンス販売から、必要に応じてレンタルして、都度活用する方式がすでに一般的となりました。ソフトウエア業界にとっては大きな打撃となりましたが、他の業界にとってはソフトウエアをより便利に使う機会を提供されました。

3. M&Aターゲットの変化

テクノロジーとファイナンスが融合する分野では、ホストコンピューターやパッケージに依存したモデルではなく、ブロックチェーンを活用した新しいビジネス機会が生まれてきます。フィンテックが一例です。
製造業のM&A対象先は、同業種の製造力や販売網ではなく、ヘルスケア事業、IoT、AI領域がターゲットとなってきています。人口増加が見込まれる新興国では、既存の商品を販売する市場開拓のM&Aが注目を集めていますが、一方でテクノロジーの分野における新事業参入のための異業種M&Aは、技術革新の進んだ先進国に目を向けた企業の選別が必要となります。

Ⅳ 新たなテクノロジーを取り込んでいくためのM&Aの傾向

欧米ではM&Aで企業を買うという考え方ではなく、タレント(人材)を手に入れるという考え方もあります。ある企業はM&Aに巨額の投資をしましたが、実際はその企業の100人の優秀なエンジニアを手に入れるためだったと考えられています。ビジネスがサービス中心にシフトしているという証拠です。この考えは、少し前からソフトウエア企業が自社のハードウエア部門を売って、ソフトウエア企業の買収を進めていたことからも見て取れます。
日本の企業は、そのようなビジネスモデルの変更に対応するためのM&Aに対して、新たな方法を検討する必要があるのではないでしょうか。
企業価値の評価は従来のキャッシュ・フローだけでは測れない場合があります。人材や知的資産、技術を適切に評価し、現在の損益が赤字でも将来のシナリオで価値を見いだすアプローチも考慮に入れる必要があります。
テクノロジーの領域は、医療、自動車、情報通信、住宅などのあらゆる異業種が参入する最も活発なM&A市場となっています。また、テクノロジーの普及はグローバルで急速に進みます。先進国でプラットホームを創造して、新興国で並行して普及するモデルが、急速なイノベーションの普及を進めています。
企業はさまざまな技術の開発や生産を自社単独で行うモデルから、手元現金を使ってイノベーションを起こす可能性のある企業を買収することを考える必要があります。異業種や新市場に参入するためには、時間と人材に投資するM&Aは有効な手段と言えます。

Ⅴ 買収によるイノベーション事業の取り込み

従来は、イノベーションの実現には、自社の技術や研究開発分野に投資するという考え方が一般的でした。
しかし、現在、自社で全てを実現することは難しく、他社との提携や協業によりイノベーションを実現する取り組みが進んでいます。自社に取り込む上では、M&Aは欠かせません。このイノベーション分野のM&Aは、同一業種におけるM&Aとは異なります。つまり、異業種や他の産業における先端領域に関する知見が必要になります。例えば、製造業が自社の中核技術を生かして、従来取り組んでいなかったライフサイエンス事業へ参入するためにメディカル企業を買収する、銀行がテクノロジー企業、テクノロジー企業がサービス企業を買収するなど、他産業における将来性や投資先の目利きが必要になります。

Ⅵ おわりに

さまざまな業種において、新たなテクノロジーを活用するためのM&A戦略の策定が必要になっています。EYは、企業の成長に必要で自社に取り込むべき候補先となる異なる業界のテクノロジー企業や、イノベーションを実現し、新たなビジネスの潮流に対応するための対象企業の調査、リストアップなど、各種業界の専門家とグローバルネットワークを活用して、クライアントの成長を支援しております。