情報センサー

平成29年3月決算会社での有価証券報告書最終チェック

2017年4月28日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2017年5月号 会計情報レポート

会計監理部 公認会計士 加藤圭介

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『業種別会計シリーズ 自動車産業』(第一法規)などがある。

Ⅰ  はじめに

本稿では、平成29年3月期の有価証券報告書の作成に当たり、当期の会計基準等の主な改正による開示への影響、金融庁による有価証券報告書レビュー(以下、有報レビュー)の重点テーマ審査項目を踏まえた留意事項を解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ  会計基準等の主な改正による開示への影響

1. 開示府令の改正のうち有価証券報告書の記載に関連するもの

平成29年2月14日に、内閣府令第2号「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部改正」が公布され、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令)が改正されています。

(1) 概要

開示府令の改正は、平成28年4月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の提言を踏まえ、「経営方針」について決算短信ではなく有価証券報告書における開示項目とするために行われたものです。

(2) 具体的な変更点

開示府令の様式において、「事業の状況」における「対処すべき課題」が「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に変更されるとともに、記載上の注意において、経営方針・経営戦略等の内容を記載すること、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、その内容について記載することが追加されています(第二号様式 記載上の注意(32)、第三号様式 記載上の注意(12)等)。
「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の欄の記載に当たっては、企業と投資者との建設的な対話に資するとの観点から、投資者の投資判断に必要な情報や対話に資する情報を、各企業がそれぞれの経営内容に即して記載することが考えられます。また、将来に関する事項を記載する場合には、当連結会計年度末現在において判断したものである旨を記載するとされていますが、記載事項が当連結会計年度末から提出日までの間に変更された場合には、変更された旨及び変更後の内容を記載することが考えられます。

2. 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」

企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、回収可能性適用指針)は、平成28年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用されています。

(1) 会計方針の変更

適用初年度の期首において、以下の3項目を適用するため、これまでの会計処理と異なる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことになります(回収可能性適用指針第49項(3))。

  • (分類2)で、スケジューリング不能将来減算一時差異を回収可能とする取扱い
  • (分類3)で、課税所得の合理的な見積可能期間を5年超とする取扱い
  • (分類4)の要件に該当する企業が、(分類2)に該当するものとする取扱い

(2) 適用初年度の注記

有報提出会社がⅡ 2.(1)に該当する場合には、連結財務諸表及び個別財務諸表のいずれについても会計方針の変更の注記を行いますが、連結子会社及び持分法適用会社でのみⅡ 2.(1)に該当する場合には、連結財務諸表にのみ会計方針の変更の注記を行うこととなります。従って、適切な注記を行うためには、有報提出会社のみならず連結子会社及び持分法適用会社が前記Ⅱ 2.(1)の3項目を適用したかどうかを確認する必要があります(<表1>参照)。

表1 回収可能性適用指針の適用初年度の注記

3. 「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」の適用

(1) 会計方針の変更

平成28年度税制改正を受けて、実務対応報告第32号「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」(以下、減価償却取扱い)が公表されています。従来、法人税法に規定する普通償却限度相当額を減価償却費として処理し、建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法について定率法を採用している企業が、平成28年4月1日以後に取得する当該すべての資産に係る減価償却方法を定額法に変更するときは、法令等の改正に準じたものとし、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うとされています(減価償却取扱い第2項)。また、前記以外で減価償却方法を変更する場合には、自発的に行う会計方針の変更として取り扱うことになり(減価償却取扱い第3項)、正当な理由(企業会計基準適用指針第24号「会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準の適用指針」第6項)に基づくものであることを説明する必要があります。

(2) 注記

前記Ⅱ 3.(1)に従って、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う場合、平成28年4月1日以後に建物附属設備又は構築物を取得したかどうかにかかわらず、連結財務諸表及び個別財務諸表において、次の事項を注記する必要があります(減価償却取扱い第4項、第18項なお書き)。

  • 法人税法の改正に伴い、減価償却取扱いを適用し、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法を定率法から定額法に変更している旨
  • 会計方針の変更による当期への影響額

4. 法人税等会計基準

企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税に関する会計基準」(以下、法人税等会計基準)が平成29年3月16日に公表され、同日以後適用されています。
法人税等会計基準は、従来、監査・保証実務指針第63号「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」等に定められていた取扱いを基本的に踏襲しており、実質的な内容の変更は意図されていないため、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当しないものとして取り扱います。

5. 「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」

実務対応報告第33号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」(以下、リスク分担取扱い)が平成29年1月1日以後適用されています。これに伴い、「退職給付に関する会計基準」等の関連する会計基準等及び財務諸表等規則、連結財務諸表規則とそれらのガイドラインの改正が行われています。
リスク分担型企業年金は、会計上の分類が確定拠出制度と確定給付制度のどちらに該当するかを判断した上で、その分類に応じ、会計処理及び開示を行うこととなります。
なお、連結財務諸表を作成している場合は個別財務諸表における注記は不要です。

(1) 確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金の注記

① 企業の採用するリスク分担型企業年金の概要

例えば、次の内容を記載するとされています。

  • 確定拠出制度の概要において、当該リスク分担型企業年金に関する説明
  • 標準掛金相当額の他に、リスク対応掛金相当額があらかじめ規約に定められること
  • 毎事業年度におけるリスク分担型企業年金の財政状況に応じて給付額が増減し、年金に関する財政の均衡が図られること
② リスク分担型企業年金に係る退職給付費用の額

確定拠出制度に係る退職給付費用の額に含めて記載することとされています。

③ 翌期以降に拠出することが要求されるリスク対応掛金相当額及び当該リスク対応掛金相当額の拠出に関する残存年数

(2) 確定給付制度に分類されるリスク分担型企業年金の注記

確定給付制度の開示(「退職給付に関する会計基準」30項、財務諸表等規則第8条の13、連結財務諸表規則第15条の8)に含めて行うものと考えられますが、企業の採用する退職給付制度の概要において、リスク分担型企業年金の概要の説明を行うことが考えられます。

(3) 適用初年度の注記

確定給付制度の一部を確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金へと移行した場合には、追加情報として次の項目を注記することが考えられます。

  • 確定給付制度の一部を「退職給付に関する会計基準」第4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金へ移行している旨
  • リスク分担取扱いを適用している旨
  • リスク分担取扱いを適用したことによる影響額等

Ⅲ 金融庁による有報レビュー等を踏まえた留意事項

1. 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項について

有価証券報告書の記載内容の適正性を確保する目的の下、毎年、金融庁と財務局等との連携により有報レビューが行われています。

(1) 新たに適用となる開示制度・会計基準に係る留意すべき事項

平成29年3月期に適用される開示制度の改正のうち、主なものは以下のとおりとされています。

  • 有価証券報告書の記載内容に「経営方針」を追加する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正
  • 「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」等の公表を踏まえた財務諸表等規則等の改正

内容の詳細については、「Ⅱ 会計基準等の主な改正による開示への影響」をご参照ください。

(2) 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項

平成28年度の有価証券報告書レビューの審査結果及びそれを踏まえた留意すべき点が公表されています。
過去の有報レビューの重点テーマ項目は<表2>のとおりです。

表2 過去(直近3年間)の有報レビューにおける重点テーマ審査項目

有報レビューでは、会計処理と開示の2つの側面から審査が行われますが、開示については、とりわけ注記事項の記載内容が不十分である点、会計基準や開示規則等の適用が誤っている点等が指摘されています。有価証券報告書の開示上で特に留意すべき事項として考えられる主な内容は次のとおりです。

① 企業結合関係注記(関連する注記を含む)
  • 企業結合又は事業分離を行っている場合には、必要な注記がされているか
    (例)
    • 企業結合又は事業分離等の概要
    • 取得原価の配分が完了せず暫定的な会計処理を行う場合に配分が完了していない具体的な理由
    • のれん及び負ののれんの発生原因
    • 主要な取得関連費用の内容及び金額
    • 非支配株主との取引による親会社の持分変動が生じている場合、非支配株主との取引によって増加又は減少した資本剰余金の主な変動要因及び金額
  • 連結キャッシュ・フロー計算書に関する注記事項において、企業結合や事業分離等に関する注記がなされているか
    (例)
    • 株式の取得又は売却により連結子会社の増減がある場合、当該会社の資産及び負債の主な内訳
    • 現金及び現金同等物を対価とする事業の譲受け又は譲渡により増減した資産及び負債の主な内訳
② 包括利益計算書等の開示
  • 組替調整額は以下に留意し、適切に開示しているか
    • 当期及び過去の期間にその他の包括利益に含まれていた項目が当期純利益に含められた金額のみを組替調整額としているか(取得原価で計上されている有価証券に係る売却損益などを含めていないか)
    • 繰延ヘッジ損益について、ヘッジ対象に係る損益が認識されたこと等に伴って当期純利益に含められた金額を組替調整額として開示しているか
    • ヘッジ対象とされた予定取引で購入した資産の取得価額に加減された金額を組替調整額に準じて開示しているか
    • 為替換算調整勘定について、連結子会社に対する持分の減少(全部売却及び清算を含む)に伴って取り崩され当期純利益に含められた金額を組替調整額として開示しているか
    • 年金資産(退職給付信託を含む)の返還に伴い損益として認識した未認識数理計算上の差異の金額を組替調整額として開示しているか
③ 1株当たり情報
  • ワラントが存在する場合における潜在株式調整後1株当たり当期純利益は以下に留意して算定しているか
    • ワラントが期中に消滅、消却又は行使された部分について、期首又は発行時から当該消滅時、消却時及び行使時までの期間に応じた普通株式数を算定しているか
    • 希薄化効果を有するワラントが期首又は発行時においてすべて行使されたと仮定した場合に発行される普通株式数から、期中平均株価にて普通株式を買い受けたと仮定した普通株式数を差し引いて算出した普通株式増加数を用いているか
④ 退職給付関係注記等
  • 退職給付制度の概要の記載が、実際に採用している制度の内容や有価証券報告書における他の項目の記載内容と整合しているか
  • 年金資産の主な内訳の記載において「その他」の割合が過大になっていないか。また、「オルタナティブ」として記載している資産に性質やリスクの異なる重要な資産を含んでいる場合にはその旨の説明を行っているか
  • 「コーポレート・ガバナンスの状況」において、退職給付信託に含まれるみなし保有株式の銘柄や株式数等を開示しているか
⑤ 固定資産の減損に係る損益計算書関係注記
  • 「事業整理損失」等の表示科目に減損損失が含まれている場合には、減損損失に係る注記がされているか
  • 連結子会社株式の減損に伴うのれんの一括償却について、当該損失の内容を注記しているか
⑥ その他
  • 重要性が乏しいことを理由として記載の省略を検討している注記事項等において、金額的重要性のみならず質的重要性も考慮して重要性の有無を判断しているか。また、金額的重要性について、単一の指標のみならず複数の指標により総合的に検討しているか

2. 平成29年有報レビューにおける審査項目等

平成29年度有報レビューにおける改正が行われた会計基準等の適用状況の審査は、次のテーマに着目して実施されます。

  • 繰延税金資産の回収可能性
  • 企業結合及び事業分離等

※リスク分担取扱い第12項、財務諸表等規則第8条の13の2、財務諸表等規則ガイドライン8の13の2、連結財務諸表等規則第15条の8の2、連結財務諸表規則ガイドライン15の8の2

関連資料を表示

  • 「情報センサー2017年5月号 会計情報レポート」をダウンロード

情報センサー2017年5月号

情報センサー

2017年5月号

※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。

 

詳しく見る