情報センサー

自動車の未来・モビリティの未来

2017年4月28日 PDF
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情報センサー2017年5月号 マーケットインテリジェンス

マーケッツ本部 マーケッツ推進部
シニア・インダストリー・アナリスト 城 浩明

証券系研究所および証券会社における証券アナリスト業務、投資銀行部門での業界調査・案件開発業務など、電機・精密、機械など加工産業を中心とした25年間の企業調査業務を経て、2014年2月より現職。マーケッツ本部 マーケッツ推進部の業界アナリストとしてテクノロジー、自動車などの業界を担当。日本証券アナリスト協会 検定会員。

Ⅰ  現代社会に必要不可欠な自動車

国内の自動車販売が堅調です。一般社団法人 日本自動車販売協会連合会によれば、2016年度の国内自動車販売台数は登録車と軽自動車を合わせて507.8万台の前年比2.8%増となり、13年度以来の増加に転じました。月次の販売台数は16年11月以降前年同月と比較して増加に転じ、一般社団法人 日本自動車工業会が消費税増税の延期を理由に昨年9月に下方修正した販売見通しの484.5万台を上回り、期初予想の525.8万台に近づきました。
国内自動車販売台数は、1990年度の頂点である780万台からは2/3に減少しており、2000年代後半以降は500万台前後で推移しています。一方で、自動車保有台数(一般財団法人 自動車検査登録情報協会調べ)は依然増え続け、16年末現在で8,160.2万台(90年3月末 5,799.3万台)となっています。結果、自家用乗用車の世帯普及台数は1.064台(16年3月末)と、統計上は一家に1台は自家用車がある状態になっているのです。
保有台数が増加しているにもかかわらず、販売台数が伸び悩む背景に、買い替え周期の長期化があります。前記協会によれば、16年3月時点での乗用車の平均車齢は8.44年(90年の平均車齢 4.64年)、貨物車で11.23年(同5.29年)、乗合車で11.87年(同6.43年)となっており、90年に比べて約2倍に伸びているのです。
自動車は生活の必需品です。少し古い資料ですが、国土交通省による10年の全国都市交通特性調査集計結果によれば、全国都市における自動車を利用した移動は増加傾向にあり、全国平均で1日1人当たり1.08回です。三大都市圏では公共交通機関の充実から0.77回であるものの、地方都市では1.40回になっています。また、平日の移動手段においては、通勤の44.9%、業務目的の移動の71.6%を自動車が担っていることが明らかになっています。
当調査における自動車による移動の比率は、三大都市圏の中心から周辺へ、さらに地方都市圏や町村へと、都市の規模が小さくなるにつれて高くなる傾向が明らかです。
また、自動車の運転動機としては、いずれの地域でも「所要時間が短い」や「好きなときに使える」という回答が多く、時間効率や移動などの自由度の高さがその背景にあると考えられます。高齢者の自動車に対する選好が高いことも、同様の運転動機によるものと推定されます。

Ⅱ 自動車を所有・利用する目的

このように今日の日本では、自動車は一家に一台保有され、通勤や営業に使われています。前記の国土交通省の調査では、人は平均すると1日に1回以上自動車を使っており、その意味で稼働率は100%ということが可能です。
ところで、同調査によれば、自動車による1回の移動時間は、平日の三大都市圏の中心都市で平均33.9分、周辺都市で24.1分、地方中核都市で25.8分、地方中心都市圏のその他の都市では19.4分となっており、全国平均で26.3分となっています。
1日の移動の平均回数は1.08回でしたので、おおよそ1日の1人当たりの自動車利用時間は30分程度にすぎないことになります。1日24時間に対して約2%となり、業務による稼働時間を8時間としても、6%程度にすぎません。調査は業務用の車両も含めた数値ですので、自家用車に限れば、さらにその数値は低くなる可能性があります。
すなわち、自動車は、毎日必ず使われるものの、1日の「なか」での時間稼働率は数%にすぎず、平均すると30分程度稼働し、残りの23時間30分は、車庫に駐車していることになるのです。
個人が自動車を所有する目的は何でしょうか。ドライブを趣味として、運転そのものを楽しむ人もいるでしょう。また、希少性のある高級スポーツカーを所有することに価値を見いだす方もいらっしゃいます。しかし、前述の調査からも明らかなように、第一義的には移動手段(モビリティ)として効率性や利便性に長(た)けているからです。
すなわち、「自家用車」と同等の効率性や利便性を備えた代替手段があれば、自家用車を所有する理由がなくなるといえます。代替手段は、これまでは都市部の公共交通網でした。
そしてシェアリングエコノミーと名付けられた需要と供給のマッチング技術の高度化によって、新たな代替手段が登場しつつあると考えられます。それは、カーシェアやライドシェアなどと呼ばれ、古くからある考え方なのですが、デジタル技術によって新しい形態に生まれ変わりつつあるのです。
数人で自動車を共用するカーシェアは、車庫に駐車している自動車の稼働時間を延ばす可能性があり、相乗りであるライドシェアは、乗車率を向上させることが期待されています。
カーシェアにより、自動車の稼働効率が高まり、車両本体や駐車場などの費用を分担することが可能になるかもしれません。また、ライドシェアによって、渋滞の緩和やエネルギー消費の削減など社会課題の解決にも結び付く可能性もあります。
また、国内では「白タク」行為として規制されている自家用車によるタクシー業務も、カーシェアやライドシェアと同様に、自家用車の稼働率を改善し、公共交通網が未整備である地域の足となる可能性もあります。

Ⅲ モビリティの将来像とギャップ

デジタル技術によって、多くの財やサービスのビジネスモデルが「所有から利用へ」と変化しつつあると考えられます。自動車においても、30分の通勤に自動車を利用するユーザーは、コストと利便性が見合うのであれば、ライドシェアやカーシェアに移行する方が合理的かもしれません。自動車メーカーも自動車を売るだけでなく、他社と協業してライドシェアやカーシェアといったモビリティを提供するプラットフォームになることを検討し始めています。
他方、制度や法律、許認可、あるいは保険や会計などの仕組みは、従来型の自動車を保有するビジネスモデルを前提としたもので、その対応は技術の変化よりも遅行します。日本では規制されている自家用車による「白タク」配車システムの利用も、諸外国ではむしろ走行経路や料金支払いの透明性が高い安全なモビリティとして評価されている面もあるのです。
今後、自動運転技術が導入されることで、モビリティにおいてはさらに自由度が高まると期待されています。その一方で、前述した制度や許認可、あるいは社会の受容性が、そうした新技術の普及の障害になる可能性が懸念されます。
年初に米国で開催された家電業界の見本市は、近年自動車関連企業が多く参加し、自動運転技術を披露することで盛況でした。そのカンファレンスにおいて、大手企業の開発者が、自動運転によって交通事故死亡者が半減しても、自動運転によって人が死亡することを、社会は受容しないだろうという趣旨の発言をしています。極めて示唆に富むコメントだと思います。

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