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情報センサー2017年6月号 業種別シリーズ

新たな収益認識基準が業種別会計に与える影響
第4回 医薬品業

ライフサイエンスセクター 公認会計士 新井政明
監査業務を経て、主にIFRSアドバイザリー業務に従事。業種は製薬業を中心に不動産、金属、食品などを担当。当法人のライフサイエンスセクターメンバーとして研修講師やワーキンググループの活動を実施。

Ⅰ はじめに

2014年5月、国際会計基準審議会(IASB)はIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を公表しました。これを踏まえ、企業会計基準委員会(ASBJ)は日本基準の体系の整備を図り、日本基準を高品質で国際的に整合性があるものとするなどの観点から、収益認識に関する包括的な会計基準の開発について検討を進めています。
本連載では、こうした状況を踏まえながら、業種に特化した収益認識の論点などについて解説します。
なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 医薬品業における収益認識の論点

1. ライセンスの収益認識

(1) 日本基準における実務

知的財産のライセンス(以下、ライセンス)に関する一般的な定めはなく、実務上、個々のライセンス契約の内容を勘案して、例えば契約一時金を受領時に一括して収益認識するなど個別に判断が行われています。

(2) IFRSの取り扱い

IFRS第15号では、ライセンス供与について、次のいずれかの権利を提供するか判断します。

<一時点で収益認識する>

  • ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利

<一定期間にわたり収益認識する>

  • ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利

知的財産にアクセスする権利に分類するためには以下の要件全てを満たす必要があり、要件を満たさない場合には知的財産を使用する権利となります。

  1. 企業は、顧客が権利を有する知的財産に重要な影響を与える活動を行うことを、契約上要求されている又は顧客により合理的に期待されている
  2. ライセンスによって供与される権利に基づき、顧客が前記①の企業の活動によって直接影響を受ける
  3. 当該活動は顧客に財又はサービスを移転するものではない

例えば、新薬候補となる化合物に関する権利を相手企業に付与するライセンス契約の場合、ライセンス契約の内容によっては、前記①~③の要件を満たすと判断される可能性があります。この場合、付与したライセンスは知的財産にアクセスする権利に該当することから、対価を契約開始時に一時金で受領する契約であっても、契約期間などの一定期間にわたり収益認識することになる可能性があります。

(3) 実務への影響

日本基準でライセンス供与に伴い受領した一時金を一括収益計上している場合でも、IFRS第15号において当該ライセンスが知的財産へアクセスする権利に該当すると判断される場合は、契約期間にわたり収益認識する方法への変更が必要になる可能性があります。

2. 物品販売の収益認識

(1) 日本基準における実務

実現主義の原則に準拠し、実務上、出荷基準、引渡基準および検収基準などが取引の性質を考慮の上、使い分けられています。

(2) IFRSの取り扱い

IFRS第15号では、物品販売について、通常、支配は一時点で移転すると判断されます。すなわち、収益は支配が移転した時点で認識することになります。支配の移転に関して、IFRS第15号では次の指標を考慮します。

  1. 企業が支払いを受ける現在の権利を有している
  2. 顧客が法的所有権を有している
  3. 企業が物理的占有を移転した
  4. 顧客が所有に伴う重要なリスクと経済価値を有している
  5. 顧客が検収した

例えば、販売取引において顧客の検収により、顧客が販売製品の法的所有権や在庫リスクを有し、支払義務を負う場合、収益認識は顧客の検収時点になる可能性があります。

(3) 実務への影響

日本基準で製品の出荷時に収益計上している場合でも、IFRS第15号において顧客の検収が支配の移転に該当すると判断される場合は、収益の認識時期を出荷時点から顧客の検収時点に変更することが必要になる可能性があります。
他方、日本基準で製薬企業が卸売業者などを通じて製品販売をする際、一般的には卸売業者への出荷時点で収益計上していると思われます。ただし、最終消費者に販売するまで収益認識を繰り延べている場合でも、IFRS第15号において、卸売業者などとの契約が委託販売契約ではなく、卸売業者などへの到着時点が支配の移転に該当すると判断される場合は、収益の認識時点を最終顧客への販売時点から卸売業者などへの到着時点に変更することが必要になる可能性があります。

3. 変動対価の収益認識

(1) 日本基準における実務

変動対価の一般的な定めはなく、実務上、マイルストーンやロイヤルティに関する開発や販売などの条件達成時に収益を計上しているケースが考えられます。

(2) IFRSの取り扱い

IFRS第15号では、企業が受領する権利を有する対価の額につき、最善の予測手法(最頻値法又は期待値法)を用い、変動対価を見積もらなければならないと規定されています。その際、企業は変動対価に係る制限、すなわち、収益の重要な戻入れが発生しないという可能性が非常に高い金額のみに収益認識を制限する必要があります。
例えば、企業は、マイルストーン・ペイメントなどにより受け取ると見込む対価を見積もる必要があり、業績やマイルストーン達成前であっても、変動対価に係る制限を考慮した上で、当該変動対価の一部を収益認識する可能性があります。ただし、知的財産のライセンス付与契約に基づく売上高ベース又は使用量ベースのロイヤルティについては、変動対価の見積りに関する規定は適用されず、その後の売上又は使用が発生する時点と、売上高ベース又は使用量ベースのロイヤルティの一部又は全部が配分されている履行義務が充足(又は部分的に充足)される時点のどちらか遅い方に収益認識を行う必要があります。

(3) 実務への影響

日本基準でマイルストーン・ペイメントやロイヤルティの実績達成報告の受領後に収益を計上している場合でも、IFRS第15号においては、変動対価に係る制限を考慮した上で、業績やマイルストーンの達成前であっても、マイルストーン・ペイメントなどの一部を収益認識する必要が生じる可能性があります。

Ⅲ おわりに

医薬品業は他の業種に比べてIFRSの適用企業が多い状況ではありますが、収益の新基準であるIFRS第15号を適用している企業はありません(17年3月時点)。また、日本基準を適用する企業も多い状況です。
ASBJはIFRS第15号に整合する形で収益認識に関する包括的な会計基準を開発しています。そのため、IFRSを適用済み又は適用予定の製薬企業はIFRS第15号の規定を、IFRS適用予定のない製薬企業はASBJが開発する収益認識に関する包括的な会計基準の開発動向を理解し、財務、業務および情報システムへの影響を考慮する必要があると思われます。