情報センサー

企業会計基準委員会から最近公表された実務対応報告及び公開草案の解説

2017年6月30日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2017年7月号 会計情報レポート

会計監理部 公認会計士 西野恵子
会計監理部 公認会計士 安原明弘

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『減損会計の実務詳解Q&A』『連結財務諸表の会計実務(第2版)』(いずれも中央経済社)などがある。

Ⅰ  はじめに

企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から平成29年3月29日に「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」等、平成29年5月2日に「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」、平成29年5月10日に「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」等が公表されました。本稿では、これらの実務対応報告及び公開草案の概要を解説します。
なお、本稿における意見に係る部分は、筆者らの私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ   実務対応報告公開草案第52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第57号(企業会計基準適用指針第17号の改正案)「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理(案)」

「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」(以下、取扱い案)、及び「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理(案)」により、企業がその従業員等に対して権利確定条件が付されている新株予約権を付与する場合に、当該新株予約権の付与に伴い当該従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込む取引(以下、当該取引において付与される新株予約権を「有償ストック・オプション」)の会計処理等の実務上の取扱いが整理されています。
有償ストック・オプションが、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下、ストック・オプション等会計基準)の適用範囲に含まれるのか、企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」(以下、複合金融商品適用指針)の適用範囲に含まれるのかが必ずしも明確ではなかったことから、ASBJにおいて検討されていました。
有償ストック・オプションを付与する取引が、ストック・オプション等会計基準第2項(4)に定める報酬としての性格を持つと考えられるため、当該有償ストック・オプションは、従業員等から払い込まれる金銭の対価及び企業が従業員等から受ける労働や業務執行等のサービスの対価として付与するものと整理し、ストック・オプション等会計基準第2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものと提案しています。

1. 有償ストック・オプションの概要

有償ストック・オプションとは、企業がその従業員等(企業と雇用関係にある使用人のほか、企業の取締役、会計参与、監査役及び執行役並びにこれに準ずる者)に対して、権利確定条件※1が付されている(勤務条件※2及び業績条件※3が付されているか、又は勤務条件は付されていないが業績条件が付されている)新株予約権を付与する場合に、当該新株予約権の付与に伴い当該従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込む取引です。
権利確定条件が満たされた場合、当該新株予約権は行使可能となり、新株予約権を行使する場合、従業員等は行使価格に基づく額を企業に払い込み、企業は新株を発行するか、または自己株式を処分します。
権利確定条件が満たされなかった場合、当該新株予約権は失効します。また、新株予約権が行使されずに権利行使期間が満了した場合も、当該新株予約権は失効します。 (<図1>参照)

図1 有償ストック・オプションの仕組み

2. 会計処理

従業員等に対して有償ストック・オプションを付与する取引についての会計処理は、基本的にストック・オプション等会計基準第4項から第9項に準拠した取扱いになります。具体的には以下の通りです。なお、取扱い案に定めのないその他の会計処理については、ストック・オプション等会計基準及び企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(以下、ストック・オプション適用指針)の定めに従うことが提案されています。

(1) 権利確定日以前の会計処理

有償ストック・オプションの付与に伴う従業員等からの払込金額を、純資産の部に新株予約権として計上します。
有償ストック・オプションの公正な評価額から払込金額を差し引いた金額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額を算定し、各会計期間において費用計上します。有償ストック・オプションの公正な評価額は、付与日において公正な評価単価に有償ストック・オプション数※4を乗じて算定します。
有償ストック・オプションの公正な評価単価は付与日において算定し、ストック・オプション等会計基準第10項(1)に定める条件変更の場合を除き見直しませんが、有償ストック・オプション数は付与日から権利確定日の直前までの間に、業績条件の達成可能性に重要な変動が生じた場合、見直す必要があります(<表1>参照)。この場合、見直し後の有償ストック・オプション数に基づく有償ストック・オプションの公正な評価額から払込金額を差し引いた金額のうち、合理的な方法に基づき見直しを行った期までに発生したと認められる額と、これまでに費用計上した額との差額を、見直しを行った期の損益として計上することになります。

表1 公正な評価単価、業績条件の達成可能性の変動による見直しの要否

(2) 権利確定日後の会計処理

権利確定日には、有償ストック・オプション数を権利の確定した有償ストック・オプション数に修正し、修正後の有償ストック・オプション数に基づく有償ストック・オプションの公正な評価額から払込金額を差し引いた金額と、これまでに費用計上した額との差額を、権利確定日の属する期の損益として計上します。
有償ストック・オプションが権利行使され、これに対して新株を発行した場合、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替えます。

(3) 権利不確定による失効の場合

新株予約権として計上した払込金額のうち、見直し後のストック・オプション数に応じた権利不確定による失効に対応する部分を利益として計上します。

(4) 権利不行使による失効が生じた場合

失効が確定した期に、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分を利益として計上します。

3. 有償ストック・オプションに係る会計処理の比較

有償ストック・オプションについて、現在の実務上の取扱いとして、複合金融商品適用指針に従っている場合には、発行会社にとって発行時の払込金額を新株予約権として貸借対照表に計上します。その後の費用計上は必要ないことから、すでに約300社の有価証券報告書提出会社で当該取引が行われているとされています。
一方、ストック・オプション等会計基準の適用範囲に含める場合、業績条件の充足が明らかとなった時点でストック・オプション数の見積りが変更され、株式報酬費用が一時に計上されるため、有償ストック・オプションを発行している企業にとっては、大きな影響を及ぼす可能性があります。
具体的な両者(ストック・オプション等会計基準及び複合金融商品適用指針)の会計処理を比較すると、<設例>のようになります。

設例 ストック・オプション等合計基準及び複合金融商品運用指針による会計処理の比較

4. 開示

従業員等に対して有償ストック・オプションを付与する取引に関する注記は、ストック・オプション等会計基準及びストック・オプション適用指針に準拠して行うことを提案しています。

5. 適用時期

公表日以降適用になりますが、公表日より前に従業員等に対して有償ストック・オプションを付与した取引について、以下の事項を注記した上で、従来採用していた会計処理を継続できることが提案されています。

①有償ストック・オプションの概要※5

②採用している会計処理の概要

Ⅲ 改正実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」及び改正実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」

「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」及び「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(以下、18号等)により、連結財務諸表作成における国内子会社又は国内関連会社(以下、国内子会社等)の会計処理についての追加の取扱いが示されています。

1. 改正点

改正前は、国内子会社等が指定国際会計基準や修正国際基準を適用している場合に、18号等を適用することができませんでした。しかし、今回の改正により、国内子会社(又は国内関連会社)が指定国際会計基準や修正国際基準に準拠した連結財務諸表を作成して金融商品取引法に基づく有価証券報告書により開示している場合(開示予定の場合も含まれます)には、18号等を適用して、連結(又は持分法を適用)することができるようになりました。
指定国際会計基準や修正国際基準を適用している国内子会社等に18号等を適用して連結(又は持分法を適用)する場合、①のれんの償却※6②退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理※6③研究開発費の支出時費用処理④投資不動産の時価評価及び固定資産の再評価についての修正を除き、当面の間、指定国際会計基準や修正国際会計基準に準拠して作成された連結財務諸表を利用することができます。

2. 適用時期等

改正18号等は平成29年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用され、前述の会社が適用する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことになります。なお、当該変更に当たって、特段の経過的な取扱いが定められていませんので、改正18号等を過去の期間のすべてに遡及(そきゅう)適用することになります(会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準第6項(1))。

Ⅳ 実務対応報告第35号「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」

「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」(以下、35号)は、平成23年に改正された民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号)(以下、民間資金法)による公共施設等運営事業(PFI事業※7)における運営権者の会計処理等の実務上の取扱いを定めたものです。

1. 会計処理(35号第7項~第9項)

公共施設等運営権(以下、運営権)制度は、公共施設等の所有権を国等が有したまま、運営権を民間事業者に設定し、当該民間業者が公共施設等の運営等を行い、利用料金を収受する代わりに運営権の対価を国等に支払う制度です。運営権は、民間資金法第24条により物権とみなされます。35号では、民間事業者が取得する運営権について、リース会計基準の適用範囲に含めないものと整理して、運営権を無形固定資産に計上し、原則として、運営権設定期間を耐用年数とし、定額法、定率法等の一定の減価償却方法により償却することとしています。また、実施契約において、運営権設定期間を延長することができることとなっている場合でも、運営権者が延長する意思が明らかな場合を除いて、運営権の耐用年数に含めないこととしています。

2. 運営権の固定資産減損会計上のグルーピング
(35号第10項)

民間資金法第26条第1項では、運営権の分割が認められていないため、35号では、運営権の単位でグルーピングを行うことを原則としています。ただし、管理会計上の区分、投資の意思決定を行う際の単位、継続的な収支の把握がなされている単位及び他の単位から生じるキャッシュ・インフローとの相互補完性を考慮して、公共施設等運営事業の対象とする公共施設等ごとに合理的な基準に基づき分割した運営権の単位でグルーピングを行うことができるものとしています。

3. 更新投資に関する取扱い(35号第12項~第15項)

(1) 更新投資時に資産計上する場合

更新投資予定額や更新投資の実施時期を合理的に見積ることができないこと等(後述(2)に該当する場合を除く)所有権が管理者等に帰属する資本的支出に該当する更新投資は、実施した時に支出額を資産計上することになります。この場合、当該更新投資実施時から、当該更新投資の経済的耐用年数※8にわたって定額法、定率法等の一定の減価償却方法により、取得原価から残存価額を控除した額を償却することとしています。

(2) 運営権取得時に更新投資見込額を資産計上する場合

以下の場合には、運営権取得時に見込まれる将来の更新投資(所有権が管理者等に帰属する資本的支出に該当する部分)の総額の現在価値を負債として計上し、同額を運営権とは別の資産として計上することとされています。この場合、運営権設定期間にわたって支出すると見込まれる額の総額とその現在価値との差額については、運営権設定期間にわたり利息法で配分することとしています。運営権取得時に実施契約等で予定された更新投資について資産計上することとなる場合、更新投資の現在価値額から残存価額を控除した金額について、運営権設定期間を耐用年数とし、定額法、定率法等の一定の減価償却方法により償却することとしています。

<運営権取得時に更新投資見込額を資産計上する要件>

大半の更新投資の実施時期及び対象となる公共施設等の具体的な設備の内容が、管理者等から運営権者に対して実施契約等で提示され、当該提示によって、更新投資のうち資本的支出に該当する部分に関して、運営権設定期間にわたって支出すると見込まれる額の総額及び支出時期を合理的に見積ることができる場合。

4. 注記事項(35号第20項)

以下について、注記が求められています。

  • 運営権者が取得した運営権の概要
  • 運営権の減価償却方法
  • 更新投資に係る事項(主な更新投資の内容、予定時期、更新投資に係る資産及び負債の計上方法、更新投資に係る資産の減価償却方法、更新投資に係る資産を計上する場合の翌期以降に実施すると見込まれる合理的に見積可能な更新投資に係る資本的支出部分の内容及び金額)

5. 適用時期等(35号第21項)

35号は、平成29年5月31日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用されます。適用する場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことになりますが、特段の経過的な取扱いが定められていませんので、35号を過去の期間のすべてに遡及適用することになります(会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準第6項(1))。

※1権利行使により対象となる株式を取得することができるというストック・オプション本来の権利を獲得するための条件

※2ストック・オプションのうち、条件付きのものにおいて、従業員等の一定期間の勤務や業務執行に基づく条件

※3ストック・オプションのうち、条件付きのものにおいて、一定の業績(株価を含む)の達成又は不達成に基づく条件

※4付与された有償ストック・オプション数(以下、付与数)から、権利不確定による失効の見積数を控除して算定

※5各会計期間において存在した有償ストック・オプションの内容、規模(付与数等)及びその変動状況(行使数や失効数等)

※6国内子会社又は国内関連会社が修正国際会計基準を適用している場合には、当該会計基準により修正又は削除されるため、前記①及び②は18号等による修正項目とはならない。

※7PFI(Private Finance Initiative)とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法をいう。

※8当該更新投資資産の経済的耐用年数が運営権の残存期間を上回る場合は、当該残存期間

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