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情報センサー2017年10月号 Tax update

スピンオフ税制の導入

EY税理士法人 税理士 服部孝一
他大手税理士法人、EY税理士法人にて計約17年超にわたる本邦・国際税務の経験を有する。国内およびクロスボーダーM&A/グループ内組織再編、M&A税務スキームの構築、税務デューデリジェンス業務などに従事。

Ⅰ はじめに-スピンオフ税制導入の趣旨及び背景

平成29年度税制改正大綱においての基本的考え方(デフレ脱却・経済再生に向けた税制措置)として、わが国経済の好循環を確かなものとするためには、コーポレートガバナンスを強化することにより、中長期的な企業価値の向上に資する投資など、「攻めの経営」を促進することが重要であるとされ、経営戦略に基づく先を見据えたスピード感のある事業再編等を加速するために、スピンオフ税制が導入されました。経済産業省作成資料によれば、スピンオフにより期待される効果は<表1>の通りです。

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旧制度の課税上の取り扱いとしては、自社の事業又は子会社を切り離し、支配関係のない者に移転する場合には、自社において事業又は子会社株式の譲渡損益が発生するとともに、株主において(みなし)配当課税がなされました。配当相当額については源泉徴収を行い、現金を別途用意し、税務当局に納付する必要があります。当該課税上の問題が存在していたため、過去の実例としては、中外製薬による株主への子会社株式の分配のケースがありますが、それを除いてはほとんど見受けられていません。
税制改正により、一定の事業または子会社の切り離し(事業の新設分割型分割または100%子会社株式の現物分配)を適格組織再編とするスピンオフ税制が新たに導入されました。これにより、一定の要件を満たすスピンオフについては、自社における事業または子会社株式の譲渡損益課税の適用を受けないとともに、一般株主において(みなし)配当課税の適用を受けないこととなりました(<図1>参照)。

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Ⅱ スピンオフ税制

1. 適格要件概要

事業のスピンオフ及び子会社のスピンオフのどちらにも、同様の税制適格要件(<表2>参照)が定められています。

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他の組織再編成の税制適格要件に類似しており、スピンオフという事業の分離を伴う性質上、共同事業の場合の税制適格組織再編に求められる事業関連性要件(組織再編成に係る事業が相互に関連するものであること)及び事業規模要件(組織再編成に係る事業規模の割合がおおむね5倍を超えないこと)は不要となっています。
単独新設分社型分割又は単独新設現物出資によりスピンオフ事業を子会社化した後に、その新設子法人株式を一般株主に現物分配する場合も、その現物分配が前記の適格要件を満たせば適格再編として取り扱われます。なお、単独新設分社型分割又は単独新設現物出資の完全支配関係継続要件については、その現物分配の直前の時までの関係により判定することとなります。

2. 想定される上場会社のケース

前述の趣旨及び背景、また、当該要件については、スピンオフ前後のいずれのタイミングにおいても他の者との支配関係(50%超の株式保有関係)がないことが見込まれていることを要件としているため、基本的には上場会社が行うスピンオフを想定しているものと考えられます。仮にスピンオフにより分配される株式が非上場株式であった場合、当該上場会社の既存株主がスピンオフされた流動性の無い非上場株式を自由に売却等の処分をすることは想定し難いため、実務上は上場株式が分配される必要があります。スピンオフ直前まではスピンオフ対象となる株式自体は上場していないことから、事前に通常と同様の新規上場申請を行う必要があるため、相当程度の準備期間を要することが想定されます。また、会社法における株主総会、分割の場合における債権者保護手続、金融商品取引法における有価証券届出書・目論見書の作成等といった、実際の手続が採用するスピンオフの手法に応じて必要となるため、事前に十分な検討が求められます。
特に留意すべき事項として、分割型分割の手法によるスピンオフ(単独新設分社型分割又は単独新設現物出資後に現物分配をする手法を含む)においては、スピンオフをする当事会社に会社法に定める分配可能額の規制は求められない一方、子会社株式の現物分配の手法によるスピンオフの場合には当該規制が課せられます。すなわち、分配する子会社株式の帳簿価額が分配可能額に満たない場合には、現物分配をすることができないため、自社の財務状態に応じて採用するスピンオフ手法を事前によく検討する必要があります。


情報センサー 2017年10月号