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情報センサー2018年3月号 業種別シリーズ

新たな収益認識基準が業種別会計に与える影響 第8回 海運業

海運セクター 公認会計士 鈴木真策
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに国内事業会社の監査業務に従事。主な著書(共著)に『会社法決算書の読み方・作り方(第11版)』(中央経済社)がある。

Ⅰ はじめに

2014年5月、国際会計基準審議会(IASB)はIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を公表しました。これを踏まえ、企業会計基準委員会(ASBJ)は日本基準の体系の整備を図り、日本基準を高品質で国際的に整合性があるものとするなどの観点から、17年7月に「収益認識に関する会計基準(案)」(以下、会計基準案)および「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「適用指針案」といい、会計基準案と合わせて「本公開草案」という)を公表しました。
本稿では、本公開草案に基づく海運業に特化した収益認識の論点について解説します。
なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 海運業における収益認識の論点

1. 履行義務の充足による収益の認識

会計基準案では、企業は約束した財又はサービス(資産)を顧客に移転することによって履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識することとされています。企業は契約における取引開始日に、識別されたそれぞれの履行義務が、一定の期間にわたり充足されるものか否かの要件を検討し、要件を満たす場合には、一定の期間にわたり収益を認識します。一方で、要件のいずれも満たさない場合には、資産に対する支配が顧客に移転した時点で収益を認識することになります(会計基準案32項、33項、35項、36項)。
一定の期間にわたって充足される履行義務の要件と収益認識時期をまとめたものが<図1>です。

(下の図をクリックすると拡大します)

2. 運送サービスが一定の期間にわたり充足される履行義務に該当するか

船舶による運送サービスは<図1>の要件のうち「企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受する」を満たすかどうか検討する必要があります。当該要件を判断するに当たっては、仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を充足する場合に、企業が現在までに完了した作業を大幅にやり直す必要がないか否かを考慮します(適用指針案9項)。
例えば、企業が顧客との間で、自動車をA港からB港を経由してC港まで輸送する契約を締結したとします。企業がB港までしか輸送できず別の企業に引き継いだとした場合、輸送を引き継いだ企業がA港からB港までの輸送をし直す必要があるかどうか、残りのB港からC港まで輸送すればよいかどうかを検討します。残りの履行義務を引き継ぐ企業が、企業がそれまでに実施した作業を実質的にやり直す必要がないと判断される場合には、企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受していると考えられます。この場合、一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たしていると判断できることから、輸送の期間にわたり収益を認識することとなります。

3. 本公開草案における重要性等に関する代替的な取扱い

(1) 原則的な取扱い

複数の顧客の貨物を取り扱う場合、関連当事者の関係にない複数の顧客に対する複数の契約を結合して、単一の契約として取り扱うことは認められていません。従って、海運業において、複数の顧客の貨物を取り扱う場合、顧客ごとの輸送サービスをそれぞれ別個の履行義務として(または複数の特性の類似した契約もしくは履行義務から構成されるグループ全体をまとめて)識別し、履行義務ごとに収益を認識することになります。
企業は識別されたそれぞれの履行義務が一定の期間にわたって充足されるものか、一時点で充足されるものかを検討し、一定の期間にわたり充足される履行義務の要件に該当するものは履行義務を充足するにつれて収益を認識します。したがって、海運業による輸送サービスが、一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たすと判断される場合には、複数の顧客ごとの輸送サービスをそれぞれ義務履行までの期間にわたって収益を認識することになります。

(2) 重要性等に関する代替的な取扱い

わが国における現行実務上、不定期船事業では運送主体(船舶の運航)に着目し、航海単位(空船廻航(かいこう)期間を含む)で収支計算を行うことが実務慣行として定着しています。
仮に履行義務の識別を顧客との契約ごとに行うことになると、不定期船事業では、航海単位から顧客との契約単位への収益認識の変更に係る業務プロセスの変更などにより実務上の負荷が増大するとの意見や、空船廻航期間の取扱いについて実務慣行から大きく離れる可能性もあるとの指摘がなされていました。
こうした意見などを踏まえ、適用指針案では、一定の期間にわたり収益を認識する船舶による運送サービスについて、一航海の船舶が発港地を出発してから帰港地に到着するまでの期間が通常の期間(運送サービスの履行に伴う空船廻航期間を含み、運送サービスの履行を目的としない船舶の移動または待機期間を除く)である場合には、複数の顧客の貨物を積載する船舶の一航海を単一の履行義務とした上で、当該期間にわたり収益を認識することができるとする代替的な取扱いが定められています(適用指針案96項)。
船舶による運送サービスの重要性等に関する代替的な取扱いを図示すると、<図2>のとおりとなります。


図2 船舶による運送サービスの重要性に関する代替的な取扱い

Ⅲ おわりに

海運業による輸送サービスが一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たしていると企業が判断した場合、航海完了基準によって航海の完了時に全ての収益を計上する方法は本公開草案では認められなくなり、収益認識の時期に影響を及ぼすことになります。航海完了基準を採用している場合、これまで航海完了のタイミングにより収益の期間帰属額が変動していましたが、本公開草案の適用により各期の収益が平準化されると考えられます。
海運業を営む企業においては、本会計基準の適用にあたり、システム変更や規程・内部統制の整備、進捗(しんちょく)度の見積方法や航海期間の変更を含む実績把握方法の確立など、対応すべき点を検討しておく必要があると考えられます。


  • 貨物の輸送のために貨物を積載しない状態で航海する期間