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平成30年3月期 決算上の留意事項

2018年3月30日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2018年4月号 会計情報レポート

会計監理部 公認会計士 加藤 圭介
      公認会計士 鈴木 真策
      公認会計士 武澤 玲子

品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『減損会計の実務詳解Q&A』『連結手続における未実現利益・取引消去の実務』『3つの視点で会社がわかる「有報」の読み方(最新版)』『会社法決算書の読み方・作り方 第11版』(いずれも中央経済社)などがある。

Ⅰ はじめに

平成30年3月期より、早期適用可能となる会計基準及び原則適用となる会計基準、開示府令は<表1>のとおりです。

表1 会計基準略称及び適用時期の一覧

本稿では、これらを中心に平成30年3月期決算に当たっての留意事項を解説します。また、本文中で使用する会計基準の略称及び適用開始時期は<表1>のとおりです。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者らの私見であることをあらかじめお断りします。

Ⅱ 税効果に関する開示の改正

1. 税効果会計基準一部改正の概要

平成30年2月16日に、企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から、税効果会計基準一部改正及び企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」等(以下、税効果会計基準一部改正等)が公表されました。また、この改正に応じて、財務諸表等規則及び会社計算規則の改正案も公表されています。税効果会計基準一部改正等の詳細については、本誌平成30年3月号(Vol.130)をご参照ください。
税効果会計基準一部改正は平成30年4月1日以後開始する年度の期首から原則適用されますが、表示及び注記事項については、平成30年3月31日以後最初に終了する年度の年度末から早期適用できるとされており、平成30年3月期においては、表示及び注記事項に関する定めのみ、早期適用することができます。このため、本稿では、表示及び注記事項に関する項目を中心に解説します。

2. 繰延税金資産及び繰延税金負債の表示

税効果会計基準一部改正では、従来、関連した資産・負債の分類に基づき繰延税金資産は流動資産又は投資その他の資産に、繰延税金負債は流動負債又は固定負債に分類されていたものを、全ての繰延税金資産を投資その他の資産に、繰延税金負債を固定負債に分類することに変更するものです。この変更は表示方法の変更とされ、表示する過去の財務諸表について、新たな表示方法に従い財務諸表の組替えを行うことが求められます。

3. 繰延税金資産に関する注記事項

(1) 税効果会計基準一部改正で追加される注記事項

税効果会計基準一部改正により追加される注記事項は、<表2>のとおりです。新たな注記事項を作成するためには、子会社からの情報収集体制も含めた事前準備が必要と考えられます。

表2 追加される注記事項

前記の項目のうち、連結財務諸表作成会社の個別財務諸表では、評価性引当額の内訳に関する数値情報のみが追加され、評価性引当額に係る定性的な情報及び税務上の繰越欠損金に関する情報の注記は求められません。
なお、注記事項の追加は表示方法の変更となりますが、経過措置として、評価性引当額の合計額を除き、適用初年度の比較情報を記載しないことができるとされています。また、税効果会計基準一部改正を早期適用する場合、税効果会計基準一部改正を全て適用することとしており、部分的に適用することは想定されていません。平成30年3月期に表示に関する改正を早期適用する場合には、注記の追加に関する改正も同時に早期適用することが求められる点に留意が必要です。

(2) 会社法における取扱い

平成29年12月14日に、税効果会計基準一部改正を反映した会社計算規則の改正案が公表されました。この改正案は繰延税金資産及び繰延税金負債の貸借対照表上の表示のみを対象としており、「評価性引当額の内訳に関する情報」及び「税務上の繰越欠損金に関する情報の注記」等の注記事項の追加は含まれていません。

Ⅲ 米国の税制改革

1. 米国の税制改革法案の概要

平成29年12月20日に米国の税制改革法案が米国の下院及び上院の委員会にて可決され、同年12月22日に大統領の署名により成立しました。改正税法のうち、税効果会計に影響する主な事項と平成30年3月期の会計処理は、<表3>のとおりです。

表3 税効果会計に影響する主な改正税法の内容と平成30年3月期の会計処理

3月決算の会社において、米国の連結子会社等の決算日が12月末であり、当該連結子会社等の正規の決算を基礎として連結決算を行う場合、平成30年3月期においては、連結子会社等の決算日に改正税法が成立しているため、当該連結子会社等の繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、改正税法に規定される税率(21%)となります。

2. SAB118号の取扱い

平成29年12月22日に、SECのスタッフ会計公報(Staff Accounting Bulletin)118号(以下、SAB118号)が公表されました。SAB118号では、公開企業において、税制改正の制定日を含む会計期間に税制改正の影響に関する会計処理を完了するために必要な詳細情報を入手できず、合理的な見積りもできない場合には、一定の注記を行うことで、改正法が制定される直前の税法によることができるとされています。また、平成30年1月11日にFASBから公表された非公開企業に関するSAB118の適用に係るQ&Aでは、非公開企業がSAB118号を適用したときは、米国基準に準拠しているとされています。
このため、実務対応報告18号等の当面の取扱いに基づき、米国会計基準に準拠した在外子会社等の財務諸表を基礎に連結財務諸表を作成している場合、SAB118号に基づく会計処理をした財務諸表は、そのまま取り込むことになると考えられます。

Ⅳ 実務対応報告18号等の改正

平成29年3月29日に実務対応報告18号等の改正が公表され、平成29年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用されています。

1. 改正の内容

国内子会社及び国内関連会社(以下、国内子会社等)が指定国際会計基準又は修正国際基準を適用し、有価証券報告書により開示している場合には、実務対応報告18号等の対象範囲に含まれることになります。

2. 当該改正以外の留意点

(1) IFRS、米国会計基準における主な改訂

実務対応報告18号等の当面の取扱いを適用している場合には、子会社等の財務諸表が準拠している国際財務報告基準(以下、IFRS)や米国会計基準の改訂が行われたときには、連結財務諸表においても会計方針の変更として取り扱われ、重要性に応じて注記の要否を検討する必要があります。また、IFRSや米国会計基準において公表済みで未適用の会計基準がある場合にも、その重要性を踏まえて注記の要否を検討する必要があります。
IFRS及び米国会計基準における主な改訂としては以下のものがありますが、影響度合いの把握などの準備が必要と考えられます。

  • IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(平成30年1月1日以後開始事業年度から原則適用)
  • IFRS第9号「金融商品」(平成30年1月1日以後開始事業年度から原則適用)
  • IFRS第16号「リース」(平成31年1月1日以後開始事業年度から原則適用)
  • 米国会計基準 Topic606「顧客との契約から生じる収益」(平成29年12月15日以後開始する事業年度から原則適用)

(2) 実務対応報告18号等の見直しの動向

実務対応報告18号等の公表以後、新規に公表又は改正されたIFRS及び米国会計基準を対象に、修正項目として追加する項目の有無について検討が行われています。IFRS第15号、IFRS第9号、IFRS第16号について検討対象とするかどうかの審議が行われましたが、その他の包括利益を通じて公正価値で測定する資本性金融商品への投資の公正価値の変動に関するノンリサイクリング(売却等を行った場合にも組替調整を行わない)処理について、実務上の実行可能性の対応を含む、より詳細な検討を行うこととされています(第377回企業会計基準委員会審議事項(3)-3)。

Ⅴ PFIに関する会計処理

平成29年5月2日にPFI取扱いが公表され、平成29年5月31日以後終了する年度から適用されています。PFI取扱いの対象となる公共施設等運営事業は、道路、空港、水道等の公共施設、庁舎等の公用施設、教育文化施設等の公的施設など、利用料金の徴収を行う公共施設等について、当該施設の所有権を公共主体が有したままで、公共施設等運営権を民間事業者に設定する制度(コンセッション方式のPFI)であり、PFI取扱いは、PFI事業者(運営権者)の会計処理等を明らかにするために公表されたものです。
PFI取扱いの主な会計処理は、次のとおりです。

  • 取得した公共施設等運営権の対価について、合理的に見積もられた支出額の総額を無形固定資産として計上
  • 更新投資(資本的支出)について、一定の要件を満たす場合以外は支出時に資産計上、当該要件を満たす場合は運営権取得時に支出総額の現在価値を負債と資産に両建計上
  • プロフィットシェアリング条項(運営権対価とは別に、各期の収益があらかじめ定められた基準値を上回ったときに運営権者から管理者等に一定の金銭を支払う条項)に基づく支出額は各期の費用として計上

Ⅵ マイナス金利適用時期取扱い(案)

平成29年12月7日にマイナス金利適用時期取扱い(案)が公表されました。これまでは、平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度に限り、国債等の利回りでマイナスが見受けられる状況に関連して、退職給付債務の計算における割引率について、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれかの方法によることが実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」(以下、マイナス金利取扱い)において定められていました。今回の公表により、マイナス金利取扱いの適用期間について、これまでの「1年間」に限定するものから、「当該取扱いを変更する必要がないとASBJが認める当面の間」とする旨の変更が行われ、従来の取扱いが当面の間継続されることが提案されています。なお、公表日以後適用されることが提案されています。

Ⅶ 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する留意事項

企業がその従業員等に対して権利確定条件が付されている新株予約権を付与する場合に、当該新株予約権の付与に伴い当該従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込む取引(以下、当該取引において付与される新株予約権を「権利確定条件付き有償新株予約権」という)について、その会計処理は明確にされていませんでした。このため、ASBJでは会計上の取扱いを明確化すべく議論を進め、平成30年1月12日に有償新株予約権取扱いを公表しました。有償新株予約権取扱いでは、従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引は、企業が従業員等から払い込まれる金銭の対価及び従業員等から受ける労働や業務執行等のサービスの対価として付与するものと整理し、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下、ストック・オプション等会計基準)に定めるストック・オプションに該当するものとして取り扱うこととされました。

1. 会計処理

従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引についての会計処理は、次のように行うこととされています。

(1) 付与日から権利確定日までの取扱い

  • 権利確定条件付き有償新株予約権の付与に伴う従業員等からの払込金額を、純資産の部に新株予約権として計上する。
  • 権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額から払込金額を差し引いた金額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法、その他の合理的な方法に基づき算定した額を各会計期間において費用計上し、対応する金額を、純資産の部に新株予約権として計上する。
  • 有償新株予約権の公正な評価額は、付与日における公正な評価単価に有償新株予約権数を乗じて算定する。
  • 有償新株予約権に業績条件が付されている場合、業績条件の達成可能性は有償新株予約権数に反映させる。

(2) 権利確定日後の会計処理

  • 有償新株予約権が権利行使され、新株を発行した場合、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替える。
  • 権利不行使による失効が生じた場合、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分を利益として計上する。

2. 開示

従業員等に有償新株予約権を付与する取引に関する注記は、ストック・オプション等会計基準に従って行うこととされています。

3. 適用時期等

平成30年4月1日以後原則適用とされていますが、公表日以後早期適用することができます。また、適用に当たっては、遡及(そきゅう)適用を原則としていますが、経過的な取扱いとして、適用日より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引については、実務上多くみられた企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」に基づく処理等、従来採用していた会計処理を継続することができるとされています。この場合、情報の有用性を補うために、当該取引について一定の事項を注記する必要があります。なお、適用初年度において、これまでの会計処理と異なることとなる場合又は前記のように従来採用していた会計処理を継続する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことになります。

Ⅷ 仮想通貨取扱い(案)

平成28年6月の「資金決済に関する法律」の改正により、仮想通貨が定義されたとともに、仮想通貨交換業者に対して登録制が導入され、財務諸表監査が義務付けられたことに伴い、仮想通貨に関する会計基準の整備が進められていました。
平成29年12月6日に仮想通貨取扱い(案)が公表され、平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首からの原則適用及び公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間からの早期適用が提案されています。また、仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者が保有する仮想通貨及び仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨が会計処理の対象となります。資金決済に関する法律に規定する全ての仮想通貨が対象となりますが、保有する仮想通貨について、活発な市場が存在するかどうかにより、会計処理が異なります(<表4>参照)。この他、開示についての定めが提案されています。

表4 仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理

Ⅸ 開示府令の改正

平成30年1月26日に、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正が公布、施行されました。これにより、平成28年4月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告における、開示内容の共通化・合理化や非財務情報の開示充実に向けた提言を踏まえ、有価証券報告書等の記載内容の改正が行われ、平成30年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます。

1. 開示内容の共通化・合理化

有価証券報告書等の「大株主の状況」における株式所有割合の算定の基礎となる発行済株式について、自己株式を控除することとし、会社法に基づく事業報告の記載内容と共通化されます。
また、「新株予約権等の状況」「ライツプランの内容」及び「ストック・オプション制度の内容」の項目の「新株予約権等の状況」への統合等、「新株予約権の状況」の現行様式の表の撤廃、ストック・オプションについて財務諸表注記の参照を可能とすること、「新株予約権等の状況」において有価証券報告書提出日の前月末現在の記載は、事業年度末の情報から変更がなければ変更ない旨の記載のみとすることにより、新株予約権等の記載の合理化が行われます。
さらに、株主総会日程の柔軟化のため、「大株主の状況」の記載時点について、事業年度末から原則として議決権行使基準日に変更されます。なお、会社法事業報告における上位10名の株主の持株数等についても、議決権行使基準日を容認するための会社法施行規則の改正が提案されています。

2. 非財務情報の開示充実

「業績等の概要」及び「生産、受注及び販売の状況」を「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に統合した上で、記載内容の整理が行われます。また、経営成績等の状況の分析・検討の記載を充実させる観点から、事業全体及びセグメント別の経営成績等に重要な影響を与えた要因についての経営者の視点による認識及び分析、経営者が経営方針・経営戦略等の中長期的な目標に照らして経営成績等をどのように分析・評価しているかの記載が求められることになります。

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