情報センサー

グローバルSSC構築における留意点

2018年3月30日 PDF
カテゴリー EY Consulting

情報センサー2018年4月号 EY Advisory

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(株) 渡邉 裕城

2006年、EY入所。現在は主に、SSC(Shared Service Center)、BPO(Business Process Outsourcing)などの業務集約化に関するアドバイザリー業務に従事し、戦略立案、調査、設計、立ち上げ、デリバリーなどの支援を実施。その他、経理プロセス改善、リスクマネジメント、内部統制に係る体制構築・評価などに関するアドバイザリー業務に従事。

Ⅰ はじめに

昨今、グローバルに事業展開する日本企業が、グループ会社の業務集約を目的としてShared Service Center(SSC)を構築する試みが増えています。グローバル規模のSSC(以下、グローバルSSC)を構築する場合には、国内SSCの場合とは異なるさまざまな点に留意が必要です。本稿では、国内外におけるSSC事例の分析などを通じて、その留意点を考察します。

Ⅱ SSC構築の各フェーズにおける留意点

SSCは一般的に、1. 戦略立案・計画策定、2. 調査・設計、3. 拠点立ち上げ・移行の各フェーズを経て構築します。その各段階において留意すべき重要なポイントを、<表1>に沿って検討します。

表1 フェーズ1~3における主な留意点

1. 戦略立案・計画策定段階の留意点

フェーズ1では、基礎調査を行い、集約によるさまざまな効果を見積もります。集約業務に従事する人員数の削減効果はその一つであり、同効果の発現を見込む場合には、人材の出口戦略を検討する必要があります。
人材の出口戦略は、リソースの有効活用を重視する人員再配置型と、コストカットを重視する雇用調整型に大別されますが、国内SSC事例では前者、欧米企業などのグローバルSSC事例では後者のケースが多く見られます。こうした事情から、国外では、SSC=雇用調整と受け取られる可能性があることに留意が必要です。SSC構築のフェーズ2~3においては、集約業務に関わる現場担当者の協力を得ることが不可欠ですが、人材の出口戦略は、現場担当者のモチベーションに大きな影響を及ぼすことになります。グローバルSSCの構築にて、雇用調整とは異なる施策を念頭に置く場合には、関係者に正しい意図が伝わるよう、早い時期に適切なコミュニケーションを行うことが望まれます。

2. 調査・設計~拠点立ち上げ・移行段階の留意点

(1) 業務設計上のポイント

集約業務の設計を行う上では、関連国法令の遵守が必須要件です。全ての検討対象業務につき、関連各国の法令に照らして、業務委託の可否、委託範囲の適切性、受託者(SSC)側で発生する法的義務を漏れなく確認し、業務設計に反映する必要があります。
地理的な観点では、業務依頼元・SSC候補地の時差を考慮することが必要です。時差が大きい場合、即時処理や依頼元との頻繁な連携が求められる業務を集約することは難しくなります。この場合には、時差以上のリードタイムが許容される業務に限定して対象を検討し、即時性が求められる業務については、ニアショア※など別の選択肢を検討する必要があります。
取引証憑(しょうひょう)の授受は、依頼元・SSC間で最も頻繁に行われる手続きであり、全体の業務効率を大きく左右します。特に国をまたぐ場合、紙面配送に伴う高コスト・紛失・遅延を回避する観点から、証憑の電子化が必須となりますが、この際、統一的な電子化手法・送付方法を設計し、依頼元に導入する必要があります。

(2) SSC体制・拠点構築上のポイント

複数の国や地域が業務集約の対象となる場合、大きな課題となるのは言語対応です。ローカルの業務システムや取引証憑に現地語が使用されている場合、現地語の取引データを正しく理解し、適切に処理できるオペレーター、管理者の確保・教育が必要となります。一般に言語能力が高い人材は希少かつ高コストとなる傾向があるため、予算上の配慮も必要です。
拠点の選定においては、候補地の現地調査を実施して、社会情勢を把握する必要がありますが、特に、災害の発生可能性・災害への耐性、社会インフラや人材マーケットの安定性といった、SSCの事業継続に大きな影響を及ぼす要素の検討が重要です。
事業継続計画(BCP)では、時差を考慮した代替拠点の選定、各国業務の重要度・緊急性を加味した復旧優先順位の検討などが必要となり、その複雑さは国内拠点の場合に比べ飛躍的に高まることになります。

Ⅲ プロジェクト・マネジメント上の留意点

プロジェクト・マネジメント(PM)の観点からは、<表2>に挙げた各事項が重要なポイントとなりますが、特に留意すべき点として、「現地におけるリーダーシップ」と「現場へのアプローチ」について検討します。

表2 プロジェクト・マネジメント上の主な留意点

SSC構築の各アクティビティを円滑に推進するためには、本社・現地双方との的確な意思疎通が可能なリーダーシップの存在が必須となります。社内事情に通じ、現地との強力なコネクションを持った本社役職者など、影響力を持つ人材が現地に頻繁に赴き、PMの核として機能することでプロジェクトに大きな推進力が生まれます。可能な場合、このポジションには豊富なPM経験を有する人材を充てることが望まれます。
現場へのアプローチについて、国内事例ではボトムアップ重視、欧米事例ではトップダウン重視の傾向が見られますが、SSC構築プロジェクトでは、いずれも過度に偏重すべきではありません。ボトムアップは、現場の協力を引き出し、集約業務に関する情報を適切に収集するために有効であり、トップダウンは、方針提示・関係者間の利害調整などにおいて不可欠となります。円滑なプロジェクト運営のためには、両アプローチを局面に応じて適切に使い分けることが肝要です。

Ⅳ おわりに

以上のように、グローバルSSC構築に当たり留意すべき点は多くあります。先行事例やそこから導かれる教訓を分析し示唆を得ることは、取り組みの第一歩として有益と言えるでしょう。

※ 事業拠点から地理的に近い地域(同国内など)に業務を移転すること

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