情報センサー

従業員を出向させた場合の給与に関する税務上の留意点

情報センサー2018年5月号 押さえておきたい会計・税務・法律

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 太田 達也

当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。

Ⅰ はじめに

企業が雇用している従業員(使用人)を在籍したまま他の企業の労務に従事させる代表的な方法として、出向が挙げられます。この場合、その出向した使用人に対して支給する給与につき、誰がいくら負担するのか、その支給方法はどのようにするのか、といった点に関して、出向契約前にきちんと定めておく必要があります。特にグループ内の企業間において、こうした点をおざなりにしているために、後から税務(特に法人税法)上の問題が発生することがあります。
そこで本稿では、出向者に支給する月々の給与及び賞与につき、主として法人税の観点から実務上の留意点を解説します。

Ⅱ 出向の意義

出向とは、一般的に、使用者(出向元法人)と出向を命じられた労働者(使用人)との間の雇用関係が終了することなく、その使用人が出向先法人に使用されて労働に従事することをいいます。
企業が使用人を他の企業の労務に従事させる方法として、他に、転籍、労働者派遣などがあります。転籍とは、出向元法人との雇用関係を終了させ、出向先法人に移籍して出向先法人の労働に従事することをいいます。また、労働者派遣とは、企業が自己の雇用する労働者を、その雇用関係の下に、相手先の指揮命令を受けて、相手先のために労働に従事させることをいいますが、相手先による雇用関係が生ずるものは含まれません。
すなわち、出向と転籍とは出向元法人との雇用関係が終了するか否かの点で、出向と労働者派遣とは相手先と労働者との間に雇用関係が生ずるか否かの点で、それぞれ異なります。

出向・転籍・労働者派遣

Ⅲ 出向者給与の取扱い

1. 出向者に対する給与を負担すべき者

(1) 基本的な考え方

給与は、その従業員の労務の提供を受けた法人が負担すべきものですから、法人の使用人が出向した場合には、その出向者に支給する給与は、労務の提供を受ける出向先法人において負担するというのが税務の基本的な考え方です。

出向元法人・出向先法人

(2) 出向先法人が給与を負担しなかった場合

出向者に対する給与を出向元法人で負担し、出向先法人が負担しなかった場合、そのことに合理的な理由がなければ、出向元法人から出向先法人へ経済的利益の供与が行われたものとして、出向元法人に対して寄附金課税が行われます(出向先法人においては、支給すべき給与と受贈益がそれぞれ損金と益金に算入されるため、基本的には課税関係は生じません)。

出向先法人が給与を負担しなかった場合

なお、出向元法人と出向先法人との間に法人による完全支配関係がある場合には、グループ法人税制の適用がありますので、寄附金は全額損金不算入となり、受贈益は全額益金不算入となります。

(3) 出向元と出向先の給与の較差を出向元法人が補填(ほてん)する場合

出向者に対する給与については、労働法との関係からも出向規程において出向元法人の給与水準を保証している例が多いものと思われ、出向元法人の給与水準が出向先法人の給与水準より高く、出向先では出向先法人の給与ベースで支給する場合には、その差額は出向元法人において保障する必要があります。
この場合、出向元法人が出向先法人との給与条件の較差を補填するため出向者に対して支給した給与の額は当該出向元法人の損金の額に算入することとされています(法基通9-2-47)。

出向元と出向先の給与の較差を出向元法人が補填(ほてん)する場合

なお、この通達においては、較差補填として出向元法人での損金算入が認められるものとして、他に、出向先法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができない場合や、出向先法人が海外にあるため出向元法人が支給する留守宅手当が例示されています。

2. 出向先法人が出向者給与を給与負担金として出向元法人に支払う場合(間接支給)

出向者への給与の支給方法としては、出向先法人が出向者に直接支給する方法のほか、出向者には出向元法人が支給し、出向先法人が出向元法人に対して給与負担金として支払う方法(いわゆる間接支給)があり、これを間接支給といいます。間接支給の方法による事例が多いものと思われます。
この場合、出向先法人が出向元法人に支払う給与負担金は、出向先法人において、出向者に対する給与として取り扱われます。経営指導料等の名義で売上の〇%といった基準で支払っている場合でも、その内容を給与相当額とそれ以外に区分した上で、給与相当額部分については同様に取り扱われます(法基通9-2-45)。この取扱いは消費税においても同様です(消基通5-5-10)。

出向先法人が出向者給与を給与負担金として出向元法人に支払う場合(間接支給)

なお、出向元法人における給与負担金の受入れに係る会計処理としては、負担金収入などとして受け入れる方法が考えられますが、決算書の表示上は給与勘定からマイナスするのが一般的です。

3. 出向者が出向先法人において役員となる場合

給与負担金は、その出向者が出向先法人において使用人となっていれば使用人給与として、出向先法人において役員となっていれば役員給与として、それぞれ取り扱われます。
使用人給与については、特殊関係使用人に対する過大給与に該当しない限り損金算入されるため税務上の問題は生じませんが、出向先法人において役員となる場合には、役員給与の規定の適用を受けることとなります。

(1) 役員給与の取扱い

役員給与の取扱いは次のとおりです。説明の要点を絞るため、経済的利益の供与・退職給与・譲渡制限付株式等については割愛します。

①次のイ~ハのいずれにも該当しないものは損金算入されません(法法34①、法令69)。

イ その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)で各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるもの(定期同額給与)(注)「これに準ずるもの」
次の改定がされ、その改定前後の各支給時期における支給額が同額のもの

a 期首から原則として3月を経過する日までにされた改定
b 役員の職制上の地位の変更、職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(臨時改定事由)による改定
c 経営状況が著しく悪化したこと等(業績悪化改定事由)による改定

ロ その役員の職務につき所定の時期に、確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与で、納税地の所轄税務署長に届出をしているもの(事前確定届出給与)

(注1) 届出期限
原則として、その役員の職務につき株主総会等の決議をした日から1月を経過する日。臨時改定事由が生じた場合には、その生じた日から1月を経過する日。
なお、既に届出をしている法人につき、臨時改定事由または業績悪化改定事由が生じた場合には、その事由が生じた日から1月を経過する日までに変更届出を提出することによって変更が可能。
(注2) 届出不要な給与
非同族会社が定期給与を支給しない役員に対して支給する給与

ハ 非同族会社等がその業務執行役員に対して支給する一定の業績連動給与

②前記①のいずれかの要件を満たす役員給与の額のうち、不相当に高額な部分の金額は損金算入されません(法法34②)。

(2) 出向者が出向先法人において役員となる場合の取扱い

法基通9-2-46(出向先法人が支出する給与負担金に係る役員給与の取扱い)

出向者が出向先法人において役員となっている場合において、次のいずれにも該当するときは、出向先法人が支出する当該役員に係る給与負担金の支出を出向先法人における当該役員に対する給与の支給として、法第34条《役員給与の損金不算入》の規定が適用される。

① 当該役員に係る給与負担金の額につき当該役員に対する給与として出向先法人の株主総会、社員総会又はこれらに準ずるものの決議がされていること。
② 出向契約等において当該出向者に係る出向期間及び給与負担金の額があらかじめ定められていること。

(注1) 事前確定届出給与の届出は、出向先法人がその納税地の所轄税務署長にその出向契約等に基づき支出する給与負担金に係る定めの内容について行うこととなる。
(注2) 出向先法人が給与負担金として支出した金額が出向元法人が当該出向者に支給する給与の額を超える場合のその超える部分の金額については、出向先法人にとって給与負担金としての性格はないことに留意する。

従って、その出向者が出向先法人において役員となる場合における給与負担金は、前記の要件を満たすことによって、毎月定額を支払うものは定期同額給与、賞与は出向先法人がその所轄税務署長に対して届出を行うことにより事前確定届出給与として取り扱われ、その出向者に対する給与として不相当に高額でない限り損金算入されます。

【具体例】出向元法人、出向先法人とも年1回3月末決算とします。

出向元法人が出向者(出向元法人で使用人、出向先法人で役員)に対して給料を月50万円、賞与を6月と12月に各60万円、年額720万円を支給する場合に、出向先法人が出向元法人に給与負担金を支払うケース
<ケース1>出向元法人に毎月60万円を支払う場合
→全額が定期同額給与に該当します。
<ケース2>出向元法人に毎月50万円、6、12月に賞与各60万円を支払う場合
→毎月支払う50万円は定期同額給与に該当します。賞与120万円は出向先法人が届出を行うことにより事前確定届出給与に該当します。
<ケース3>出向元法人に6、12月に各360万円を支払う場合
→出向先法人が届出を行うことにより事前確定届出給与に該当します。

なお、事前確定届出給与は、届け出たとおりに(複数回の支給を届け出た場合にはその全てを届け出たとおりに)支給する必要があり、届出どおりの金額を支給しないと、その全額が損金不算入となる点に注意が必要です。例えば、前記<ケース2>の場合に、6月に届出どおり60万円を支給したものの、12月には30万円しか支給しなかった場合には、届出どおりに支給した6月分60万円を含めた90万円が損金不算入となりますし、6月に届出どおり60万円、12月には100万円を支給した場合には、160万円が損金不算入となります。ただし、支給額の変更が、臨時改定事由や業績悪化改定事由に該当するものであれば、事前確定届出給与に関する変更届出書の提出により損金算入することが可能です。

Ⅳ 出向先法人で役員となる場合の実務上の留意点

親会社が使用人を子会社に役員として出向させた場合に、その出向者に係る給与負担金の額につき、出向先法人(子会社)において役員給与として株主総会等において決議し、 あらかじめ出向契約等において出向期間と給与負担金の額が定められている、という要件は満たしている前提において、主として親会社の都合により事後的に給与の額が変更される場合に問題が生じます。典型的なケースを二つほど想定してみましょう。

<ケース1>親会社がその出向者に対し、親会社の業績が良かったため決算賞与を支給し、それをそのまま子会社に請求して子会社が支払った場合

子会社では、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれにも該当せず、損金不算入となります。

<ケース2>親会社が毎年所定の時期(子会社の期首から3月経過より後)にベースアップを行い、子会社ではその月以後、ベースアップ後の月額給与を負担する場合

定期同額給与の改定は、期首から3月を経過する日までに行うのが原則(確定申告書の提出期限につき3月を超える特例の適用を受ける法人を除く)であるため、3月経過後の改定については、原則として改定後の増額部分が損金不算入とされます。
ただし、継続して毎年所定の時期に行われる定期給与の額の改定が3月経過日より後にされることにつき特別の事情がある場合には、3月経過後の改定が認められます(法令69①一)。
この「特別の事情がある場合」として、例えば、法人の役員給与の額がその親会社の役員給与の額を参酌して決定されるなどの常況にあるため、当該親会社の定時株主総会の終了後でなければ当該法人の役員の定期給与の額の改定に係る決議ができない等の事情が挙げられており(法基通9-2-12の2)、このケースの出向者給与については、親会社の役員給与の額の参酌に類するものとして、3月経過後の改定であっても定期同額給与として認められるものと考えられます。
これに対し、<ケース1>のような賞与は子会社で支払っても損金算入されませんが、子会社に請求するのではなく親会社で負担することとしておけば、親会社による較差負担として損金算入されると考えられます。
出向先法人である子会社としては、出向元法人である親会社からの指示には従わざるを得ず、<ケース1>のような賞与を請求に従って支払った上で役員給与の損金不算入として税負担をしている例が見受けられるようです。
親会社都合による支給額変更のうち、親会社のベースアップに伴う支給額の変更については検討の余地があるものの、決算賞与などについては親会社の負担とし、これをあらかじめ出向契約において定めておくことが、グループ全体としての無駄な税負担の抑止につながります。

(注) 文中、法令条文等は、以下のとおり略して記載しています。
   法法:法人税法
   法令:法人税法施行令
   法基通:法人税基本通達
   消基通:消費税基本通達

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