情報センサー

デジタルによる変革 -オーストラリアのデジタルマイニング-

2018年4月30日 PDF
カテゴリー JBS

情報センサー2018年5月号 JBS

シドニー駐在員 長谷 健一

EY Japanにて多数の国内・海外クロスボーダーM&A案件に関与後、2017年からEYシドニー事務所に駐在。オセアニアのジャパン・ビジネス・サービスにおけるトランザクション・アドバイザリー・サービスをリード。日系企業の成長戦略、買収・合併(M&A)、売却・譲渡、再編を支援している。

Ⅰ はじめに

鉱業・金属セクターのマイニング企業は、意思決定者(人またはシステムによる自動化)が、幾つかの制約(例えば市場、規制、倫理)の下で、鉱石、資産、労働力などのリソースを効率的に使用することによって、各目標(例えばキャッシュ・フローやNPV)の最大化を図るために意思決定を行います。
最近では、アナリティクス、ビッグデータ、IoT、機械学習などのインターネットテクノロジーの発展と並行して、意思決定もより成熟したプロセスにより行われるようになってきています。
このような背景から、鉱業・金属セクターの企業は、インターネットテクノロジーの導入によりデジタルトランスフォーメーションを遂げることで、潜在的な能力を獲得する機会を多く得ることができるようになりました。

Ⅱ デジタルマイニングによるイノベーション

デジタルマイニングは新しいものではありません。日本の建機大手の鉱山向け無人ダンプトラックは、商用導入から今年で10年を迎え、豪州含め世界で100台以上が稼働しています。豪州の鉱山会社大手の鉄鉱山の全ての無人オペレーション運行管理は、現場から約1,500キロ離れたパースのオペレーションセンターで安全かつ効率的に実施されています。

【イノベーションの例】

  • シミュレーションモデリング
    2000年代初頭以来、豪州における数十億豪ドル規模の鉄鉱石と石炭の増産拡張に関する意思決定を支援。
  • マイニングプランニング・最適化ツール
    インテリジェントな最適化技術を適用し、マイニングプランニングを行うことで生産予測を5%~25%改善。
  • 鉱山監視・制御システム
    遠隔操作センターから衛星リンク経由で何百キロも離れた活動を監視。豪州の大手鉱山会社はセンサーから得た情報を工場に送信することで銅のグレードを最大10%改善。結果、コストのかかる工場拡張は不要になった。また、鉱山監視・制御するためのシステム・ソリューションを導入し、人や設備を常に追跡して業務効率が向上した。

Ⅲ デジタルマイニング企業の道程

鉱業・金属セクターにおけるオペレーション上のリスクの中では、生産性(Productivity)のリスクが第1位に挙げられています。 近年のコスト削減と労働生産性の向上にもかかわらず、資産に対する生産効率の改善はなかなか進まず、経営課題として焦点を当てる必要があります。
生産性のギャップに対処するためには、組織全体の変動要因の管理(Management of Variability)を改善する必要があります。
製造業(Manufacturing)は、全体的な設備効率によって測定した場合、資産に対する生産性においてリーダーとして認められているセクターの良い例と言えます。
製造業的な思考を採用することで、組織全体の変動要因をより良く管理し、生産性を向上させることができます(<図1>参照)。

図1 デジタルマイニング企業の道程(イメージ)

【三つの重要な要素】

①デジタルによる生産性向上の改革アジェンダ
②マーケット志向型アプローチ(Market to Mine)
③ロス削減に注力したリーダーシップと文化

デジタルは、生産性を高め、組織全体のばらつきの問題を管理し、企業を成長に導くための新たな取り組みを可能にします。

【デジタルによる取り組み例】

  • オペレーションの計画と生産性を最適化し、多様な条件下でのばらつきを管理
  • 機械設備の可用性と信頼性の向上
  • バリューチェーンにおけるエンドツーエンドの能力とシステムのボトルネックを把握し、ロス削減をサポート
  • マーケットに対する敏捷(びんしょう)性と対応力を向上(例:運賃率、顧客の動向など)

Ⅳ デジタルディスコネクト(断絶)

デジタルマイニングは、鉱業・金属セクターの企業で半世紀以上にわたって、すでに行われている取り組みです。今までプラント制御システム、GPS技術、モバイルブロードバンド、自動運搬などの新技術の導入が進められてきました。半世紀以上にわたる実績がありますが、デジタル化の導入率は潜在的なデジタルによる変革機会の需要には追いついていないようです。
デジタルによる変革からもたらされるメリットが大きいにもかかわらず、すでに確立されている多くのテクノロジーが現場で導入されていないのには、現場との間にデジタル・ディスコネクト(断絶)があると考えられます。

【デジタル・ディスコネクト(断絶)の八つの原因】

①デジタルを導入する工程の理解不足
②デジタルは高コストという思い込み
③デジタルを推進する責任者が不在
④目指すべきビジネスモデルが未定義
⑤デジタルに関する教育不足と理解の欠如
⑥遠隔意思決定による現場との意思疎通不足
⑦意思決定に資するデータがシステムに未整備
⑧最適化されていないシステムとプロセス

過去の成功と失敗の原因を理解することは、生産性向上のために真のトランスフォーメーションの道程をたどる上で必要不可欠です。

Ⅴ 今後の方向性

大きなチャレンジや投資をするのと同様に、デジタルトランスフォーメーションにより変革を強力に推し進めるのには事前準備が必要となります。
デジタルトランスフォーメーションの旅に出る前に、以下の八つの問いに答えて旅の準備ができているか確認してみましょう。

【八つの問い】

Q1. デジタルビジョンとビジネス戦略の整合性は?
Q2. どれくらいの時間とコストがかかるか?
Q3. 明確な目指すべきビジネスモデルはあるか?
Q4. 必要な能力は?
Q5. リソースは足りているか?
Q6. 今後必要となる作業は?
Q7. 変革に伴う人的・文化的サポートは十分か?
Q8. 新しいオペレーティングモデルのイメージは?

一度、デジタルディスコネクト(断絶)が解消されると、変革を推進するための適切なトランスフォーメーションが不可欠です。新たに別のチアリーダーは必要ありませんが、将来にわたる非常に困難な旅にはナビゲーター(専門家による適切なアドバイス)が必要となります。

※ Net Present Value(正味現在価値):投資によってどれだけの利益が得られるのかを示す。

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