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情報センサー2018年5月号 Tax update

事業承継税制の特例の創設(平成30年度税制改正)

EY税理士法人 プライベート クライアント サービス部
税理士 清水智恵子
1988年、太田昭和マネージメントサービス(株)(現EY税理士法人)入所。以来、日本の中小企業オーナーの事業承継コンサルティングに携わる。超富裕層の相続税申告を多数担当し、税務調査についても対応する。近年では、国際相続案件にも多数従事。EY税理士法人 エグゼクティブディレクター。

Ⅰ はじめに

中小企業経営者の年齢分布のピークが60歳台半ばとなり、高齢化が急速に進展する中で、日本経済の基盤である中小企業の円滑な世代交代を通じた生産性向上は喫緊の課題となっています。そのため、事業承継税制について、10年間の特例措置として、各種要件の緩和を含む抜本的な拡充が行われます。

Ⅱ 改正内容

1. 非上場株式に係る贈与税・相続税の納税猶予の特例の創設

非上場株式に係る贈与税・相続税の納税猶予の特例は、非上場中小企業の先代経営者が次世代経営者に株式を贈与した場合又は先代経営者から次世代経営者が株式を相続した場合の贈与税又は相続税の納税を猶予する制度です(<図1>参照)。


図1 非上場株式に係る贈与税・相続税の納税猶予の概念図

ただし、従前の制度では、納税猶予の対象株式は総株式数の最大3分の2まで、猶予される相続税額は対象株式に係る課税価格の80%に対応する額まで、承継後5年間は平均80%以上の雇用を維持することが必要など、適用するための要件が厳しいものでした。平成30年度税制改正において、中小企業の事業承継を促進するために、10年間の期限付きで要件緩和等が行われた非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予の特例が創設されます。
創設される納税猶予の特例は、特例後継者(仮称)が、特例認定承継会社(仮称)の代表権を有していた者から、贈与又は相続もしくは遺贈(以下、贈与等)により当該特例認定承継会社の非上場株式を取得した場合には、その取得した全ての非上場株式に係る課税価格に対応する贈与税又は相続税の全額について、その特例後継者の死亡の日等までその納税が猶予されます。

2. 適用条件の緩和

平成30年度税制改正では、次の要件緩和等を含む特例が創設されました。


入口要件の緩和

(1) 対象株式数要件

現行では、特例の対象となる対象株式数の上限が、発行済株式の総数の3分の2ですが、本特例では対象株式数の上限がなくなります。

(2) 納税猶予額

現行では、対象株式に係る課税価格の80%に対応する相続税が猶予されていましたが、本特例では、対象株式に係る課税価格の100%に対応する相続税が猶予されます。

(3) 雇用確保要件

現行では、5年間平均で贈与等開始時の雇用の8割以上を維持すること(以下、雇用確保要件)が必要でしたが、雇用確保要件を満たさない場合でも本特例を適用することが可能となります。雇用確保要件を満たせない理由について、認定経営革新等支援機関の意見が記載された書類の提出が必要となります。


承継パターンの拡充

(4) 贈与者等要件

現行では、対象株式の贈与者等は、先代経営者1名のみでしたが、特例後継者が先代経営者以外の者から贈与等により取得する対象株式についても、本特例の対象となります。

(5) 後継者要件

現行では、対象株式の贈与等を受ける者は、代表権を有する後継者1名のみでしたが、本特例では、代表権を有する複数人(最大3名)の後継者で議決権総数の上位3位までの者(同族関係者と併せて議決権総数の過半数を有する者で議決権の10%以上を有する者)への承継についても、本特例の対象となります。

(6) 相続時精算課税の適用対象者

現行では、贈与者の推定相続人又は孫でなければ相続時精算課税の適用を受けることができませんが、特例後継者が贈与者の推定相続人以外の者であっても相続時精算課税制度の適用を受けることができます。

(7) 会社の要件

現行では、経営承継円滑化法の認定を受けた会社であることが必要ですが、本特例では、経営承継円滑化法の認定を受けた会社であることに加え、平成30年4月1日から平成35年3月31日までの間に都道府県に特例承継計画の提出が必要となります。


会社の要件

(8) 譲渡、合併、解散時等の納税猶予額の減免

現行制度では後継者が自主廃業や株式の売却を行う際、経営環境の変化により株価が下落している場合でも、承継時の株価を基に贈与税・相続税を納税するため過大な税負担が生じる可能性がありました。新制度では株式の売却額や廃業時の株式評価額を基に納税額を再計算し、事業承継時の株価を基に計算された納税猶予額との差額が減免されます(<図2>参照)。


図2 譲渡、合併、解散時等の納税猶予額の減免

3. 適用時期

前記改正は、平成30年1月1日から平成39年12月31日までの間に贈与等により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用されます。

4. 実務上の注意点

  1. 10年間限定の特例制度の新設であるため、特例制度期間内に事業承継の検討及び実行をする必要が発生するものと考えられます。
  2. 特例制度を適用するには、特例承継計画を平成30年4月1日から平成35年3月31日までの間に都道府県に提出する必要があります。

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